幻獣様は大事にしたい。
アイムさんの所へ行って以来、ヴィオは少しずつ甘えてくれるようになった。
といっても、普段から甘えてはいるけど・・、
弱った時ほど、そんな姿を見せない事が多かったから、ちょっと嬉しい変化だった。なんでも抱えようとしちゃうのは良くないからね・・。
そんなある日、水鏡・・というパルマの国で使われている王族が占いをする時に使う鏡の調子が良くない・・という話が神殿に舞い込んできた。
マルクさんが言うには、吉兆を占ったりする大変貴重な物らしい。ただ、水鏡・・というだけあって、水で毎日清めるんだけど・・、その水場を知らない内に穢されていたらしい。・・長い間、遅効性の毒のような物で汚されていて、最近気がついたらしい。
「ようやく体調がお戻りになられた所・・大変申し訳ないのですが、出来ましたら水場の浄化をして頂けると・・」
マルクさんが申し訳なさそうにヴィオに話すと、ヴィオは笑って・・
「その為の俺だろ?そんな顔をしなくていい。場所は?」
「ここから東の湖です。城まで水を引いているのですが・・、水源が今回やられてしまったので」
「わかった。すぐ行こう。・・えっと、キサ」
もちろん一緒に行きますよ。
甘えてほしいっていったのは、私なんだから。
ニコッと微笑んで頷くと、ヴィオの顔がパッと明るくなる。
ベルナさんと、ニケさん・・、そして件の湖に騎士さん達が一足先にいって一緒に警護してくれる事になった。
あと半月は守り月だし、ヴィオの力も十分休んで用意万端だ!
早速翌日、ベルナさんとニケさん、私とヴィオで湖へ転移して行く。
真っ白な土肌の地面に足を下ろすと・・
高く伸びた薄い白い木肌の木々に囲まれた湖が見える。
水は、確かに穢れているのだろう。黒く・・どんよりした色をしている。
すでに到着している騎士さん達がこちらへ駆け寄ってきて、周辺に魔物はいなかったので大丈夫です!と報告してくれた。してくれたけど・・、ま、魔物もいるの??神殿ぐらしで、本当に世情にさっぱりなんだけど・・。
ヴィオは私の様子を見て心配して、手を握り・・
「大丈夫?怖いなら、神殿に」
「いや、それは大丈夫です・・。知らない事が多いなって思っただけです」
帰っちゃったら、助けが必要な時に困るでしょうに。
ヴィオはちょっとまだ私を心配そうに見て・・、湖の前へ行く。
黒く澱んでいる湖に、何やら詠唱を唱えて・・、手の平を湖にかざすけど・・なかなか綺麗にならない。ベルナさんと私で湖の中をちょっと離れた場所から見ていたけど、首を傾げる。
「なんで綺麗にならないんですかね・・」
「シルヴィオ様の詠唱にも、お力にも何も問題はないと思うのですが・・」
そんな話をしていると、湖の波打際に小さな黒い塊が見える。
黒い・・石?それにしては大きいな?
「ベルナさん、あの黒い塊って・・」
「え?」
黒い塊を指差した瞬間、それは細いロープのように姿を変えて、私目掛けて飛んできた!!?
「「えええ!!??」」
「キサ様!!!」
ベルナさんが私を助けようと、魔法でその飛んできたロープを弾こうとするも、ものすごい勢いで魔法を掻い潜り、私の足を掴んだかと思うと、ポーンと石でも投げるように私を湖に突き落とした・・。
バシャーーーン!!!
と、気持ちいいくらいの水音が立って、私はぶくぶくと水の中に落ちていく。
いや!!落ちてはダメだ!!
水面に上がらないと!!
目をそっと開けると、意外に水面は汚かったけど、中は綺麗だ。
透明度が高くて、白い砂地の水底が見える。
と、黒い石に縄が縛ってあるのが見えた。
あれ・・?
さっきのロープはそういえばどこに行った??
そう思っていると、さっきのロープが水の中にやってきて、その黒い石を突こうとしてる?っていうか、叩いてる??あれを追い出そうとしてるのかな?
ひとまず水面に上がって顔を出すと、ヴィオが私の腕を思い切り引っ張って水面に立たせた。
んん???立てるの!??
びっくりしてビショビショの顔のまま、ヴィオを見上げると心底安心した顔をしてぎゅっと私を抱きしめたけど、あの・・ここ水の上ですよね!?あと濡れちゃいますよ!!??