幻獣様のお世話係。
仕事から帰る途中だった。
今日は帰ってドラマを観よう。そう思って、会社のエレベーターに乗って・・チーンっていう音と共に扉が開いて、スマホを見ながら外へ出た途端・・
おおおおお!!!!
って、大きな声と騒めきが広がって・・
え?何かあった?
そう思って、顔を上げると・・髭のおじさん達がいっぱいいる?!!
「へぇええええ????」
周囲を見回してみると、辺りは石の壁にぐるりと囲まれた部屋だ。
ロウソクの灯りで、部屋は薄っすら仄暗く・・、
異様な雰囲気だ。
こ、ここはどこ?!!
元来た方を振り返ると・・、ただの石の壁・・。
呆然としたまま、もう一度前を向くと・・、一人の長い白い髭・・真っ白いローブを着たおじいさんが前に一歩進み出る。
「ここは、幻獣の治める国・・。異世界の貴方様にお願いがあって、ここへお呼び致しました」
幻獣の治める国?
異世界の私・・?
それって・・、お話とかである、異世界転移?
と、いうことは・・・、
「・・もしかして、帰れないっていうパターンでしょうか?」
私が恐るおそる訊ねると・・、そのおじいさんは静かに頷き、
「お願いを聞いて頂ければ、一生の生活を保証いたします」
それは、暗に「絶対に断れない案件」ではないか!!!
楽しみにしていたドラマ!!
帰ったら飲もうと思っていたビール!!!
しかも今日は金曜日だったのに!!!いきなり月曜日を迎える心境だ。
ふと、周囲の視線を感じて・・冷静になる。
まずは話を聞こう。
どんな難しいクライアントの要件も、まずは聞くことから全てが始まる。とりあえず、帰ることは絶対に無理そうだし・・。
「・・お話を伺っても?」
私がそういうと、周囲にいた人達から、歓喜と安堵の声が漏れる。な、何をするんだよ・・。嫌だぞ、魔物を倒してこい!とか、生贄になってくれとか・・。
ドキドキしながら、真っ白い長い髭のおじいさんを見ると・・、
「幻獣様を一年!!育てて頂きたいのです!!」
幻獣様????
目を丸くして、おじいさんを見る。
「あの・・、すみません、幻獣様とは?」
「嗚呼、申し訳ありません・・。そちらの世界にはいないのですね・・。こちらは五百年に一度、幻獣様を神から与えられて、育てなければならないのですが・・、その為には異世界の方のお力が必要なんです」
はぁ・・と、言いつつ返事をすると、おじいさんが後ろの人に目線を送ると・・、静かにおじさんが大きな蓋つきの葦の葉で編まれた籠を持ってくる。
「幻獣様は、3ヶ月ごとに成長し・・、1年経つと大人として成長を終えるのです。そうして、この国を守護する存在となります。その大切な幻獣様がこちらでございます」
そういって、おじいさんが恭しく籠の蓋を開けるので、
私も興味津々で中を覗くと・・
銀色の毛並みをした幻獣・・というより、子犬が真っ白なふかふかしたクッションの上で気持ち良く眠っている。小さな手足がピクッと動いて・・、そっと目を開けると・・緑色の目だ!
「か・・、可愛い!!!」
「そうでしょう!!可愛い中にも、荘厳さと、威厳が大変見られて、とても素晴らしいのです!!」
おじいさんの欲目すごいな・・。
つまり私は、この子犬・・じゃない、幻獣様を育てればいいのね?
「・・契約は一年・・ですよね?」
「はい!!その後の生活は一生、保証いたします!!」
子犬・・ならぬ、この国の幻獣様の真上で、大人の駆け引きをしてしまうのはちょっと気が引けたけど、私はおじいさんに手を出すと、すぐに理解してくれたらしい。固い握手を交わし、周囲はより一層ボルテージの上がった歓喜の声が上がったのだった・・。