黄泉路
街角の、コロッケ屋さんの奥に、鬼の仏像がある。
そんな噂を聞いてから、不思議なことばかり起こる。
歯磨き粉と洗顔せっけんの中身が入れ替わっている。
戸棚に隠していた饅頭が、誰かの前歯の欠片になっている。
近所の猛犬の鎖が外されていて、おいかけまわされる。
僕は密かに、コロッケ屋さんの奥の鬼の仏像に、饅頭をお供えしてきた。
翌日、枕元に、ごっそりと蛍石や水晶の欠片が山の様に置かれていたという。
夏のあぜ道。
小さな人形の片足が落ちていて。
妙に赤い色のへんなブリキのおもちゃの欠片。
誰が落としたのか。
夜。寝ていると、片足返せと、黄泉路を通ってやってきた水子の子。
その顔が、僕とうり二つ。
たしか、立ち入り禁止の札の中で遊んでいた、あの日の事。
夏の郷愁は、いつも誰かを待ち望んでいる。
はしゃぐ童の中に、独りだけ笑わない子は、鬼の子だから。
小走りで森を駆け抜けていく、透き通った体の、風の又三郎。
この家には必要ないと、出て行ってしまう座敷童。
座敷牢に、閉じ込められている、未来を予見するくだんの姫様。
子供達は、不思議な力を持ち、吉凶をその身に宿す。
いらかの群れの宿場町のどこかにも、必ず、子供の影。
郷愁と憧憬の炎を、ちらちらと、蝋燭のように、その掌に携えて。
お囃子に、太鼓の音。
もうお祭りの季節です。
黄金色の水田に、赤蜻蛉が舞い踊り、子供達も朗らかに笑っている。
ちいちゃん、影送りはもうしないのかい?
あれは、亡くなった人を追うお祭りだから。
亡くした夏の片割れ。仏堂の蝋燭に炎が灯り、道端に彼岸花が燃えています。
冬になると消えてしまう子供達の神代の遊び。
森の中で、子供が遊んでいて、拾った団栗の裏側に、
家紋が彫られていて、びっくりしました。
そうしたら、どこからともなく風が吹いてきて、
狐のお宿に招かれる。
マヨヒガの如く並んだ器に召し盛旅籠。
天気雨が降ってきて、狐の嫁入り。
何処に嫁入りに行くか、こわごわ狐面の子に聞くと、
蛇や百足の妖怪のところに、嫁入りするんだと。
おおだなの味噌蔵の家の子が、行方不明になった。
幽霊が出るという、山彦が呼ぶ寒い山に、連れていかれた。
あまりにも美しい娘であったから、山の神様が恋をしたのだ。
そして、山彦には娘の悲し気なすすり泣きが混じるようになり、
山間の村では、祭りの日だけは、娘が遊びに降りてくるようになったという。
昔話には、悲しみ、憂いが混ざり、人の魂を呼び覚ます。