7.ひとえに人へ卑しく
厄介なヤクザの集団を制圧した2人は、まるで何もなかったような足取りで、帰路を進み始めた。
「彼らは大丈夫でしょうか」
「少ししたら目覚めるだろうね。俺たちの事も忘れてもらったから、大丈夫だろう」
具体的な方法は言わなかったが、咲人の言葉を香乃は完全に信用した。
「改めて、巻き込んじゃってごめんなさい」
「向こうもほとんどこじつけみたいな理屈で殴りかかって来たし、まぁ運が悪かったのかな。むしろ、別の奴に腹いせしてたら大変だったね」
香乃の謝罪に対し、説教のような言葉を咲人は返した。
「それにしても、香乃さんらしくもないことをしたね。友達の復讐なんて」
「そうでしょうか。普通の女の子は、こういう風にヤンチャをしてしまうものなのでは?」
咲人は香乃の疑問に対し、少々申し訳ないと思ったのか、しばし黙った後、
「あぁ、これは少し失言だった。まぁ、普通の女の子は友達が襲われたら、やりかしたくもなる。そうだね」
「ええ。やり返したくって、つい」
全く義憤の感情を表れていない声色で、香乃が言った。
咲人からすれば、まったくその義賊的な感情は説得力を感じなかった。
香乃はそんな咲人を察したのか、諦めたような声で訂正した。
「ええ、まぁ、普通の女の子の感情って、難しいものですね」
「無理にするものじゃないと思うけれどね。でも、頑張るなら諦めるまでやった方が良いだろう。頑張ってね」
「はい。頑張ります。
でも、この復讐劇は大成功と言っていいのでしょうか。乱暴された女の子は、憎むべき男が正体不明の襲撃者に打ちのめされました。めでたしめでたし」
「……」
香乃の問いに、咲人は黙っていた。
回答に困ったのは明らかで、香乃はそれを不審がった。
「多分ですけど、上杉って人、『正体不明の女の子に拷問をされた』って言うくらいの記憶は残っているので、女性に対してトラウマができていると思います。いえ、もっと言えば、また復讐されるかわからない、という恐怖心に苛まれながら生活します。もう、悪さなんてできませんね」
「そうだね」
「……? そこは肯定するのですね」
「城前さんだよね。被害にあった女の子」
「はい」
「その子の家って、けっこう近かったよね」
「ええ、私たちの家からもそう遠くないので、寄り道しても遠回りにはなりませんね」
「行ってみる?」
「良いですけど……」
香乃はその提案を意外に思い、曖昧な返事になる。
咲人の表情を伺い、どういう意図なのかを探ってみるが、彼の顔は鉄仮面のように無機物的で推理の余地を残さなかった。
「何かあったのでしょうか」
結局、香乃は直接訪ねた。
すると、咲人はただ端的な言葉で、
「行けば分かるよ」
と、返した。