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2.ひとえに人へ等しく

 咲人はあまりにも友達がいない。

 友達がいるならばそれは幸せなのだろうし、他人とコミュニケーションを取る、という事は今後の人生においても重要であることは理解しているが、あまり人と仲良くすることに慣れてはいないらしい。勉学に励む傾向の多い学校のクラスメイト達は、成績上位の咲人と積極的に関わって来る事もあるのだが、言われたことを答える、以上に会話を盛り上げれることができないらしい。

 最近は、そんなクラスメイト達との小さな確執みたいなものを感じているのか、昼休みは図書館に行くか、散歩に出かけるか、とにかく単独行動が多い。


 例えば、今日なんかは読みかけの文庫本をポケットに収納し、片手に母親の手作り弁当を掲げて1人歩く。

 校内の廊下では、それなりに人混みができていて、独り身がいるには少々寂しさを感じた。

咲人は比較的に人が集まりにくい、校舎の中でも外れにある自動販売機でお茶とデザート用のイチゴオレを購入し、中庭にある木製ベンチに腰掛けた。そして、テーブルに弁当を乗せ、昼食を取る。

ここで昼食を取ることは、半ば咲人の日常と言っていい。何せ、この場所はこの校舎内でも自然に囲まれ、日影ならそこそこに涼しく、人もそれほど多くない。時たま人が通るし、誰かが昼食を取っていることもあるが、その静寂な空間のルールみたいなものを感じるのか、それほど騒がしくしない。


「同席良いかな?」


 と、咲人に声をかけたのは20代か30代の顎髭を生やした刈り上げの男だった。

 彼もまた、咲人と同様に静かな空間で昼食することに喜びを感じるのか、ここを縄張りとしているらしい。


「もちろんですよ、浅比さん」


 咲人はすでに半分平らげた弁当を突く手を一瞬だけ止め、了承する。

 浅比と呼ばれた男は、安堵と共に「よっこいしょ」と、咲人と対面のベンチに尻を付ける。


「そろそろ中間試験だけど、咲人君は次も学年一位を取れそう?」

「どうでしょう。前回はほとんど偶然でしたから、今回は失望させる結果になるかもしれませんね」

「あっはっは。まぁ、良い報告を期待してるよ。

 実は、咲人君と仲が良いって一年を受け持ってる先生に言ったら、けっこうウケが良いんだ。しがない事務員の為にも、今後もよろしく頼むね」

「頑張ります」


 そんな、他愛のない会話を少々。

 浅比という事務員は、それなりにお喋り好きなのかよく口が回る性分なのか、口下手な方の咲人でもそれなりに会話ができた。咲人と言えば、すでに昼食を終えているのにも関わらず、つい弁当を片付ける手が止まるほど、会話に夢中になっている。


「ところで、咲人くん。

 あーんまり言いたくない話題だけど、一応、注意喚起と思って聞いてほしいんだけどさ」

「はぁ」

「いや、近くにある、須部理大学ってあるだろう?

 最近、ガラが悪い大学生たちがよくウチの生徒たちにチョッカイをだすって噂、知ってる?」

「あー。聞いたことがあります。あまり交友関係がないので詳しくないですけど、確か、女子生徒が……」

「ウン。まぁ、そんなとこ」

 

 浅比は咲人が最後まで言葉を言いづらそうにしていた様子を察して、故意に遮った。

 その辺りは、彼が咲人に対して、汚れた話題を出してしまったことへの、罪悪感にも近かった。


「君は男の子だから、そう言う被害に巻き込まれることはないだろうけど、ただ須部理大はとにかく過激な事件をよく聞くからね。例えば囲まれて買いたくないものを買う、なんてこともあるかもしれないし、深夜の外出などは控えた方が良いよ」

「ええ。まぁ、それほど夜遊びをする方ではないので大丈夫かと」

「まぁ、ウチの生徒ならそう言うことする子も少ないだろうしね。ま、カラオケやゲームセンターに行くなら、気を付けた方が良いだろう」


 言いたい言葉をすべて終えると、浅比は半熟卵を口に入れ、しばらくモグモグとしながら「いや、まぁ君がカラオケ行く姿は想像できないな」と口に物を入れながら呟いた。

 咲人の方はと言うと、そんな注意喚起を聞きながら、弁当の片づけを終え、ポケットから文庫本を取り出しては、栞が挟んであるページを開き始める。


「今日は、いい天気ですね」


 咲人は日影の先で照り光る陽光を見ながら、風の音と虫の騒めきをバックグラウンドに、そう呟いた。


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