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オッサンフェアリーと私  作者: さむぺん
序章 旅の始まり
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オッサンとの出会い

  昔といえばまぁ昔のある日の事だった。

 お婆さんが川に洗濯に行くように、私はコインランドリーへ向かった。

 芝刈りに行くような恋人はいない。

 丑三つ時とも呼ばれる時間のコインランドリーは、音質の悪い有線が流れているだけの空間だ。

 私はここを楽園と呼ぶ。

 夏は冷房、冬は暖房。どの時間でも明るいし、椅子も机も完備されている。

 なんてどうでもいい前置きはさておき、話はここから始まる。


  夜中のコインランドリーを1人満喫していた私は、まわる洗濯物を見つめうとうとしていた。

(これは俗に言う虚無タイムか)

 などという余計な思考も徐々に薄れ、夢の国への入国審査を乗り越えたあたりで人の気配を感じた。

 私は机に突っ伏して寝ているのを装い、チラリと横目で周辺を見回した。

 一瞬視界に妖精のようなオッサンが見えた気がしたが私は眠っているので関係ない。


「今、見たでしょ」

 なんか声をかけられているような気がしなくもないけれど、私は睡眠中なのだ。


「なんかヤバめなオッサン立ってるって、思ったでしょ」

 もう眠気なんて一切感じていなかった。

 私は今起きました感を演出しつつ頭を上げた。


  目の前に立っていたのは、妖精に憧れ続けた少年の末路みたいな小綺麗なオッサン(妖精の羽根付)だった。

 あまりの衝撃に言葉どころか奇声すら発する事は出来ないが、目の前にいる非現実的なオッサンに目は釘付けだった。


「そんなに見られると恥ずかしっ」

 オッサンは顔を隠し、勢いよくしゃがみこんだ。キラキラした粒子がオッサンから放たれる。


「待って、胞子飛んでるんだけど!キモッ」

 思わず後退しながら暴言を吐いてしまった。

 私のダメな所ではあるけど、こういう時は多分どんな善人でも暴言は吐くだろう。

 自分を否定しすぎない事が1番大事って偉い人もきっと言ってると思う。知らないけど。


「ちょっと、そんなコケみたいな言い方止めてよ」

 オッサンはかなりマジなトーンだった。


「てか誰なんですか!」

「見ての通り妖精ですが?」

 謎に半ギレな自称妖精は溜息をつきながら椅子に座った。

 溜息をつきたいのは確実に私なんだけど。


「で、妖精さんがなんでここにいるんですか?」

 質問をしといてアレなんだけど、私は1つ思い当たる事がある事に気付いた。

 それは今見ている世界はさっき入国した夢の国なのでは、という1つの説である。

 それなら妖精が見えてもおかしくはない。

 オッサンに見えるのは私の心が夢の国との相性がよろしくないだけであって……


「ねぇ!聞いてる?まぁまぁ説明したんだけど」

 説明どころか声を発していたのさえ気付いていませんでしたなんて言えない。

「聞いてました。妖精になりたいんですよね、わかります」

「もう1回説明するね」


  ちゃんと説明を聞いたところ、オッサンは妖精見習いだそうです。


「妖精に見習いなんてあるんですね........」

「公式設定じゃないけどね」

 頭がおかしくなりそうだ。いや、おかしくなった結果がこの悲惨な空間なのか。

 静まった世界に洗濯の終了を告げる機械音が鳴り響いた。


「あっ!洗濯終わったみたいなので帰らないと」

 私は持っていた袋に洗濯物を乱暴に詰め込む。

 不思議な事に、オッサンは何も言わなかった。

 それはそれで不気味だったが、触らぬ妖精に祟りなしだ。

 少し沈黙が続く。よし、これで帰れるぞと袋を持ち上げた瞬間オッサンが口を開いた。


「おかしなこと言ってもいい?」

 お前はさっきからおかしなことしか言ってないだろと口が激しく言いたがったが、唇をかみしめ物理的に我慢した。

 オッサンはソワソワしている。私はそれを気にせず背を向け、出口へ向かった。


「僕がここに来た理由、見習いを卒業する為なんだ」


  なにこのドラマチックな展開。

 出ていこうとする恋人に後ろから語りかけるやつではないか。

 私は振り向かず足を止めた。


「普通なら妖精は15歳くらいで見習いじゃなくなるんだけど、ごく稀に見習いを卒業出来ない妖精がいるんだ」

 なるほど、落ちぶれた部類の妖精なのか。

「で、偶然その妖精に選ばれてしまったのが僕」


  私は出口の扉を開け、そそくさと家に帰った。

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