遭遇
鍵穴が横向きになった自室のドアノブを捻る、鍵がかかっている。
私はポケットを弄るがそこに鍵はない、部屋の中に置いてきているのだ。
ではなぜ鍵がかかっているのか、誰かが私の退室中に侵入し内側から鍵をかけたことになる。
恐怖というより驚きが勝った、まさか!誰か部屋を間違えて入ってしまったのか!?
その上鍵までかけるとはなんと迷惑な奴だろうか。
私は自室のドアを数度叩く、反応がない…仕方ない
「すみません、開けてください」
他の住人の迷惑にならぬよう声は抑えめだが、確実に中に聞こえる声量で訴えかけた。
しかし反応がない、困った…トイレにでも籠っているのだろうか。
なにより困るのが今手に持っている熱々のパスタが冷めてしまうことだ。
私は仕方なく一度5階のキッチンに戻り、そこでパスタを食べることにした。
とりあえず腹を満たしておこう、その間に部屋の間違いに気づいて出ていってくれるかも。
もしまだ閉まっていたら管理人さんに連絡しよう…10分ほどでパスタを平らげた私は再び自室606に向かった。
そこに行く途中601の鍵が縦向きになっているのに気づいた。
先ほど横向きになっていたのを確認している、つまり内側から鍵を開けたのだ。
いや、そんなことより606を確認せねば…足早に606のドアの前まで向かった。
鍵穴は縦向きになっていた、開いている。
良かった…なにがどうしたかはわからないがとりあえず入ることはできる。
もしかしたら私物が荒らされてるかもしれないが、私の部屋に盗るようなものがあっただろうか。
流石に財布は困る、その場合はこのシェアハウスを封鎖し全員の持ち物検査をしなければいけないだろう。
私はドアを開く、中には誰もいない。
一応トイレも確認するがやはり誰もいない、使われた形跡もない。
中のPCデスクの前まで行き周囲を確認する、何も変わっていない。
もしかして誰も入ってなくて、さっきはドアノブが何かの衝撃で施錠されてしまっただけなのでは?
そう思いドアまで行き鍵の感触を確認するが、特に壊れてる様子もない。
あ、そうだ。鍵だ。
私は鍵の所在を確認する…あった、いつもの場所、本棚の2段目に置いてある。
ますますわかんなくなってきた、つまり
・私が退出して5分の間に誰かが入室し内側から施錠
・私がキッチンでパスタを食べている10分の間に誰かが退室
こういうことになる、わけがわからない。
こんな奇行をする住人がこのシェアハウスにいるのか。
あ、ひょっとするとさっき鍵穴が縦になっていた601の住人なのではないか。
私は自室から廊下に出る。そこで目撃してしまった。
黒い人型の影のような物が、601のドアの前で立ち尽くしているのを。