06 ラクダン王国
「…………マ…」
誰かが何か言っている・・・・・
「……マ……ナツマ」
俺の名前か………?
「…ナツマ…………ナツマ!」
「!!!???」
突然大きな声で呼ばれて起き上がる。隣では大声の主が驚いてビックリしている。
「おぉ!?…おはよう。もう、突然起き上がってこないでよ~。頭ぶつけるかと思ったじゃん。」
「あぁ…、悪い。」
そうか…。やはり、夢ではなかったか。徹夜続きで意識が朦朧としていて悪い夢でも見ていたと思っていたがそうではなかったようだ。
「ごめんね・・・巻き込んじゃって。」
急にユメの顔が暗くなり下を向いてしまう。考えていたことが顔に出てしまっていたのだろうか。
「別にユメは関係ないだろ。それに、日本に帰るまで付き添ってくれんだろ?頼りにしてるぜ。」
と頭をわしわしとなでる。あまり心配かけさせまいと思った行動だが少しやりすぎだっただろうか。………それにしてもすげえ髪サラサラだな。
ユメもあながち嫌がった様子もなくヘヘヘと笑っている。
「そういえば、ナツマは起きたばっかでしょ。そっちに顔洗うようの桶用意しているから洗ってきなよ。
とユメは袖の先が垂れ下がった羽織でそれを指す。
ありがとう、と返事を言った後顔を洗う。
「そういえばそれが昨日言ってた神器ってやつか。そういえば持ち運びとかもそれでできるっていってたけど、武器以外も出せるってことか?」
と聞くと、
「うん。そうだよ、見ててね。」
とユメが言い、垂れていた部分の袖の先が無くなりそこから機械の腕みたいなものが出てきて、ガシャガシャと音を立てながら指(?)を自在に動かしている。
「おぉ~、すげえな。てか、昨日もそれで髪とか洗えばよかったんじゃないか?」
自分の発言で昨日の様子を思い浮かべてしまう。鮮明に思い浮かべるとまたテントを張ってしまいそうなのでブンブンと首を振りながら思い出さないよう努める。
「……まあ、洗えるっちゃ洗えるんだけど、機械みたいな感触が嫌だし、強さ加減も難しいんだよね。かゆい部分をかこうとすると切っちゃいそうで怖いしね。」
まあ、確かに機械の腕は見るからに金属でできてそうだし、皮膚が薄い頭を傷つければ一大事だもんな。
と話をしているうちに大分目もさえてくる。ユメも、もうそろそろ出発しようかといい、着替えや片付け等諸々終わらせていく。もちろん今回は少し疲れが残っているとはいえ手伝った。
自分がこの世界に着ていたスーツはユメが綺麗にたたんでくれていたようでそれに着替える
(なにからなにまで気が利くなぁ~。)と感心してしまう。
「そういえな、今からどこに行くんだ?」
とユメにこれからの予定について話し出す。ちなみに諸々の荷物は魔法で圧縮することができ、リュックサックのようなものに詰め込まれている。自分が持つといったのだが、神器を着ているときは力が増しており、もともとそんなにも重くないし客人にそこまでさせるわけにもいかないとユメが説明し持ってもらっている。
「とりあえず、私が住んでるラクダン王国に向かおうと思ってるよ。」
「なるほど。そういえば、俺が戻れるのはガルムって国だったっけ?」
「そうだね。正確にはガルムが管理している森の中にあるんだけど、とりあえずガルムに向かわないとそこには行けないんだよね。」
「なるほどな。ラクダン王国にはなにしにいくんだ?」
「とりあえず、神様と王様、あと賢者様への報告。それが終わったらがガルムに向かうための準備だね。」
「なるほど。そっからガルムへはどうやって行くんだ?」
日本の文化が継承されているのだから車とか?、それとも飛行機なんかもうできちゃってたり?はたまた魔法の世界だから瞬間移動とかもあったり・・・・・
と想像にふけっていると
「歩きだよ」
「・・・へ?」
ユメの言葉に気の抜けた声が出てしまう。
「だから歩き。ラクダンからガルムまでずっーーーーっと歩き。」
徒歩?いやまあ確かに隣町とかだと歩きでもありえるか。と一縷の望みにユメに聞いてみる。
「ラクダンからガルムまで近いのか?」
「正確な距離は分からないけど、多分3~4日は歩くんじゃないかな?」
「・・・・・なんで?」
と疑問を投げかけることしかできない。ユメの方は俺の考えていることがわかるのか少し困り顔になっている。
「この世界にはマナがあって色々な用途があるっていったよね?」
「あぁ。それと今回の歩きと何か関係があるのか?」
と返答すると
「ラクダンは金属、特に鉄が不足していてね。」
とユメが話し出す。その言葉からなんとなく想像ができた。
「ほかの国から輸入するかマナから生成することはできるんだけど、すんごい費用がかかるんだよね。それにうちの国ってそんなに大きくもなくて道も狭いの。車を走らせるってなったら道路を整備したりしなきゃだし、神も国王も乗り気じゃないんだよね・・・。」
確かに、ほとんどの道路は日本の場合国税の元整備されている。車のない世界で一から発展させようとするとそれ相応の時間と費用がかかるのは確実だろう。
「車文化が発展していないことは分かったが別に車自体はあるんだろ?国間の移動やこんな砂漠道通るように1,2台あってもおかしくはないと思うんだが・・・」
「………ないよ。」
「え?」
「ラクダンには1台も車がないんだよ。」
まじか。折角日本から連れてきているのに車がないとかあるのか。
色々理由を考えてみるが特に思いつかなくユメに聞いてみる。
「なんで車がないんだ?」
「ねえ、ナツマ車の作り方って知ってる?」
と逆にユメから聞かれ想像してみる。なんかテレビや雑誌でなんとなく作っている様子をみたことがあるがいざ聞かれてみるとまったくといっていいほど思いつかない。
「いや・・・よくわからん。」
「私もそんなに詳しいことは分からないんだけど、長い鉄を曲げたり伸ばしたりして、色々なパーツを作るの。それでそのパーツ同士をつなげるんだけど、それをすんごい熱い温度とかでつなぎ合わせるらしいの、そしてね・・・」
と長々説明してくる。さすがにユメが言わんとすることがわかり説明を遮って話してしまう。
「設備事態に費用がかかって無理ってことか・・・。けど、それこそほかの国から輸入すればいいんじゃないか?」
「まあ、そうなんだけど、他の国もなかなか車を作ろうとしなくてとても希少品なんだよね。1台買うだけで小さい村の物品を買い占められる、そんなレベルでね。」
それを聞いてがっかりする。せっかく日本の文化を継承したとしても、それを実現できるだけの設備と費用がないと無理ってことか・・・。
「魔法も案外不便ってことなのか・・・」
とつい愚痴をもらしてしまう。
ユメもそれを聞いてアハハと乾いた笑いを投げかけてくる。
「まあ、折角きた異世界だ。少しは堪能するとするよ。」
とポジティブに話す。
そうだ、折角きた異世界だ。たとえ記憶がなくなるのだとしても今を楽しまないと損だよな!
と半ば強引に考えをプラス方向にもっていく。
1つ聞いていないことを思い出しユメに聞いてみる。
「そういえば、ラクダン王国ってこっからどんくらいなの?」
ユメがギクリ!として目をそらす。聞かれたくなかったことなのだろうか。
「………ん。」
「ん?今なんて?」
あまりにも声が小さすぎて再度といただしてしまう。
「1週間です。」
折角プラス思考だった頭がマイナスへ逆戻りする瞬間であった。