03 ユメ
「どこかかゆいところはございませんか~?」
「ちょっと右、もうちょい!そこそこそこ!あぁ~~」
ユメの希望通り掻けたのか、凄くご満悦である。
「ったく、腕が無いのなら最初から言ってくれればいいのに・・・。」
先ほどのやり取りからついぼやいてしまう。
「別に隠していたわけではないんだけど、洗ってもらうには入っている最中に言うのが一番だと思ってね。」
「別に事前に言ってても・・・」
ふと言葉が詰まってしまう。もし事前に言われていたとしても一緒に風呂に入っていただろうか・・・。
「洗ってくれた?」
「・・・・・」
答えられない。嘘を言ってもいいが、ここで言葉に詰まった時点でおそらくユメにはばれているだろう。
「普段はどうしていたんだ?一応風呂にははいっていたんだろ?」
「一応羽織から腕のようなものは出せるからね。それでどうにかって感じだよ。ただ、思うように洗えないわ、羽織は濡れるわで最悪だけどね。」
確か羽織から武器を出しているのを見たが、そういったことにも使えるのか。
「付添人とかいないのか?別に俺に洗ってもらわなくても他にもう一人仲間がいれば、そいつに頼めるだろうに」
「仲間ね・・・。ちょっと訳ありでね。自分に付いてくれる人なんていないんだよ。」
メチャクチャ低いトーンでユメは言う。もしかして地雷だっただろうか。
「そういえば、あの羽織どうなっているんだ?あれも魔法の一種なのか?」
どうにか話題をそらす。折角上機嫌な時に嫌な話題を続けるのはよくないだろう。
「あぁ、あの羽織かい?あれは魔法とは違って神器というやつだよ。」
じんぎ?また聞いたことのない単語が出てきたな。
「じんぎ?」
「うん。神から授けられえる武器みたいなもの。神から許されたものにしか使えない特別なものなんだよ。」
「へぇ~、そういえばさっきも言ってたけど神様ってこの世界にいるのか?」
「いるよ。そちらの世界にはいないの?あ!そこもうちょい左!そうそこ!あぁ~~」
話をしながらもユメはリクエストしてくる。てか、髪なげぇな、すげえサラサラだし。
「まあ、正直いるかいないかわからない存在って感じだな。見たことも話したこともないが、神様がいることについて色々議論がされているらしい。俺もあまり詳しくないから何とも言えないが。こっちの世界の神様はみたり話したりできるのか?」
「う~~ん、見たことはないけど話したことはあるよ。」
驚いた、正直自分自身神の存在を信じてはいないからだ。元の世界にいたころは神様がいるのなら残業をなくしてくれと何度思ったことか。
「神様とどんなことを話すんだ?」
「今まで生活を送れたことへの感謝や、これからの生活への祈りとかかな。」
それって会話しているといえるのか・・・
「後は・・・・・」
「貢物の報告、とかかな。」
"貢物"。言葉通りの意味では食べ物や工芸品といった献上物だが・・・ユメの先ほどのトーンから少し嫌な予感がする。
「丁度いいや。ちょっと髪を上げて首のところ見てみて。」
言われた通り、首のところを見てみる。少し黒いあざの様なものがあり、洗っみても変わらないことから汚れではないようだ。
「ちょ!なにやってんの」
「いや、もしかして汚れかと思って。」
「もう・・・。これは神からの印なの」
「しるし?」
「そう、神のものである印。」
「・・・」
「といっても別に生贄とかそんなんじゃないんだけどね!神に体の一部を捧げますー、っていう証。一ヶ月ごとに捧げる部分は変わっていく感じでね、期間を過ぎると返してもらえて今は腕を神に捧げてるの。」
「それって他にもいるのか?」
「うん、何人かいるよ。神様の数いるらしいけど、詳しくはわからないんだって。」
今の日本では神への人身御供はないけれど、昔はあったらしい。外国の中には現在も行っているところもあるらしい。文化についてとやかく言うつもりはないが、あまり好きな話題ではない。
「話を戻すけど」
「お、おう」
つい考え込んでしまい、うまく返事ができなかった。
「なんの話だったっけ?」
「神器の話。この貢物に選ばれた人だけが使えるものが神器。私たちは神様のものだから簡単に死なないように持たせてくれているんだと思うよ。お守りみたいに考えてもらったほうが分かりやすいかな。」
「なるほど。神様から返事があったりするのか。」
「うん。大儀であったー、とか、よきにはからえーみたいなことを言うよ。」
「どこの時代の将軍だよ」
「ははは。でも、正直神様の言葉っていうわけでもないかも。直接脳に語りかけてくる感じだし。」
「テレパシーみたいな?」
「そんな感じかな?改めて考えてみるとどうなってるんだろうね。」
そんな適当な感じで大丈夫なのかよ・・・
「さて、髪はもういいかな。次は・・・」
ん?次・・・?
「体、洗ってもらってもいい?」