01 出会い
現在の状況が分からず、あっけにとられていると後ろで叫び声と金属音が鳴り響いているのに気が付く。ふと振り返ってみると
そこには見たこともないような獣と少女が闘っていた。
わけのわからない状況に混乱してしまうが、人間というものは頭で理解できないことが連続してしまうと案外冷静になってしまうもので、少しずつ今の状況を理解しようと頭が回転し始める。
まず、獣の方だが今まで見てきた動物と比べてみてもどれにも当てはまらない。強いて似ている動物を上げるとしたら『トラ』に近いだろうか。それにしては、色は真っ黒だし、大きさも自分が知っているものとは1周り程大きい。牙も長く口の両端から顎にかけて二本突き出しているのが分かり、爪に関しても人の腕程ある長い爪がギラギラと輝かせている。あまり神話などは見ないが、そういったものに出てきそうな見た目である。
少女の方は背丈は140~150cmだろうか、獣の方が大きすぎて心なしか小さく見える。服装も紺の甚平みたいなものに腕よりも長い薄い黄色の羽織を着ているのが見える。よく見ると袖の先から剣や斧を取り出ししており、先ほどの金属音もこの武器と獣の牙や爪とがぶつかった際に発生した音であろう。
少女は獣を踏んだり武器を入れ替えたりしてアクロバットに動き回り、腰まである黒髪をなびかせている。ヒット&アウェイという感じで袖から剣を取り出して獣に攻撃してすぐに引き、袖に剣をしまった後は、槍を取り出して攻撃している。
「てか、どうなってあの羽織は・・・」
分からないことが多すぎてこのような感想しか出てこない。
何度目かの攻撃が終わった後、少女はとどめに使うようか、自分の背丈もある大斧を取り出し、獣の脳天に向かって振り下ろす。
獣は攻撃を食らいすぎたせいかその攻撃をかわすことができず、もろに食らってしまう。さすがにやられてしまったのか、獣はその場で横たわり動かなくなってしまった。
少女は獣の様子を伺い、死んでいるのを確認したのか、こっちに向かってきている。
「----------」
少女が何か喋っているが、まったく聞き取れない。自分も何か言わなければと口をぱくぱくしていると、少女は何かに気づいたかのように目を大きく開けて、納得したかのように頷き、また言葉を発している。
言葉が終わった後少女が白い光に包み込まれ、その光が無くなった瞬間・・・
「やあ、こんにちは。」
突然日本語を話した。自分の理解できる言葉が少女から発せられ、自分も返事をしなければと思い言葉を発しようとするが、急に日本語を喋ったということへの驚きと、少女の眼が自分の眼をまっすぐ覗き込んでいることによる緊張のあまり言葉が出てこない。
「こ、・・・こんにちは」
やっとのこさ言葉は発せられたが、これ以上ないほどどもってしまい相手にうまく伝わったかどうか・・・。よく考えたら向こうが日本語を話したからと言って自分の日本語はわかるのだろうか。いや、確かに喋れるということは理解できるということで・・・、と考え込んでいると
「おぉ、良かった良かった!言葉が通じなくてちょっと焦ったけど・・・。そっかそっか確かに急にこんな荒野に現れるなんてあれしかないもんね!」
少女は嬉しそうに話している。戦っているときは少しクールな印象だったけど、思ったよりも明るい子なのかな。・・・というより
「あれ?」
少女は自分について目星がついているらしく聞き直してみる。『あれ』とはなんのことだろうか
「ん?あれはあれだよ・・・、えっと・・・」
少女は手を頭にこすりつけて思い出そうとする。
「思い出した!」
急に少女は目を見開きこちらを覗き込んでくる。
「異世界転移者!!」
「いせかいてんいしゃ?」
少女が発した言葉の意味が分からず、つい聞き直してしまう、
「そう、異世界転移者。知らない?なんか別の世界から来た人たちの意味らしいけど。」
そういえば、最近日本から10代や20代の人たちが行方不明になっているというニュースを見た気がする。しばらくしたら帰ってきていたことから若者の家出等と考えられてきて問題視されてなかったがもしかしてその人たちも転移者だったのかもしれない。
「そういえば、そういった人達と思われる情報を聞いたことがある。ただ、異世界転移者という言葉は初耳なのだが、こちらの世界では結構いたりするのか?」
「月に1~2人いるらしいよ、私もあったのは初めてだけど。」
思ったよりいるものだな。
「元にいた世界には帰られるのか」
「うん、確かベルドっていう国からそちらの世界へ帰られる"魔法"があるらしいよ」
魔法か・・・。アニメや漫画の世界では聞いたことがあったが、実際に聞いてみると凄く違和感を感じる。
「この世界には魔法があるのか?」
「あるよー。そっちの世界にはないの?」
「"魔法"という言葉はあるが、実在しない。空想上のものだな」
「あれ?私の聞いた話だと、こするだけで火が付いたり、遠くの人と話ができるって聞いたけど?」
「ああ、それは・・・」
ふと考える。"魔法"とは見たこともないような妖術的なものであり、こちらの世界では自分たちの世界の化学現象や現代技術が魔法のようにみえるのかもしれない。
「いや、魔法だな。すまない、自分たちの世界ではそういったものは"魔法"とは呼ばないのでつい否定してしまった。こちらの世界ではもしかすると魔法と呼んでいるのかもしれない。」
「そう?なら良かった。」
「そうなると、こちらの世界では火の起こし方が違うように見受けられるがどうやってやるんだ?」
詳しく言うとこちらの世界での火の起こし方はこする以外の方法が主流だが、それを伝えるとややこしくなりそうだし、やめておく。というより、こちらの世界の魔法が気になりすぎて早く見たいという気持ちがあふれ出している。
「ちょっと待ってね、今からやって見せるから。」
そういうと少女は先ほどの理解できない言葉を発し、白い光に包まれる。言葉を発し終えると白い光が消え・・・・・
ボッ
目の前に30cmほどの炎が現れる。
「おぉ~、すげえ。どうなってんだこれ?ちょっと触ってみてもいいか?」
「別にいいけど、熱いから気をつけてね?」
少女から注意を受け、ゆっくりと炎に手を近づける。
「あったけぇ・・・」
「そりゃあ、炎だからね。」
少女を笑っているが、ちょっとあきれているようだ。この世界では当たり前のように誰もが魔法を使えるということだろうか。
「ありがとう、面白いものを見せてもらった。これってどうやって炎がおこっているんだ?後、先ほどの白い光はなんなんだ?」
「あれは"マナ"だよ。詳しくは知らないけど、特定の儀式をするとマナが働いて火を起こしたり、水を出せたりするんだ。」
なんだそれは。そんなことしたら無限に水を出せたりするということだろうか。
「他にどんなことができるんだ?」
「あとは、物質を生成したりとかかな。あと、私は言葉を発して火を起こしたけど道具を使って火を起こしたりもできるんだよ。」
「メチャクチャだな・・・。そんなことができたならさっきの獣も楽に倒せそうなものだが。」
「まあ、マナには制限があるし、できることも限られているからね。」
なんでもできるということではないのか。
「ていうか、ここで立ち話もなんだし、あっちに野営の準備をしてあるから行かないかい?さっきのウルとの闘いでの返り血と汗でべとべとだしね。」
"ウル"というのは先ほどの獣のことだろうか。
「俺も行っていいのか?俺としては右も左もわからない状態だから助かるんだが・・・」
「全然かまわないさ、向こうの世界について聞きたいこともたくさんあるしね。後、こっちに転移者が来るのはこっちの問題でもあるから元の世界に帰るまで手助けするよう言われてもいるからね。」
「言われているって・・・誰に?」
「"神様"だよ」
「神様?」
「さあ、行った行った。話の続きはついてからにしよう」
「わかった。」
「あ、そういえば・・・・1つ聞くのを忘れていた。」
「ん?」
「名前、教えてもらってもいいかい?」
そういえば、出会ってから名乗っていなかったな。
「ナツマ、オオトリ ナツマだ」
「私は"ユメ"、改めてよろしく!」
そういうとお互い笑いあった。