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006


「慣れるとこの子たちって乗りやすいんですね」


 すっかりキャリーワームに乗りなれたのか、ミラは余裕そうな顔をしながら、ウェリックに話しかけた。


「ひょっとして、こいつらを飼う気になったのか?」


 ミラは少し考えた。


 ——泊っている宿の馬小屋に大きな毛虫がいたらどう思われるだろうか? 鞍がついてあったとしても、怖くてしょうがない。第一、馬小屋にいる馬が嫌がって、この子は追い出されるに違いない。


 そう思ったミラは「いや、それはないですね」と答えた。


 すると、ウェリックは大げさに悲しそうな顔をして、こう言った。


「ムーのやつが悲しむじゃないか」

「いや、そもそも虫だらけのあばら屋に住んでいる人がいること自体おかしいですよ!」

「まぁ、あいつはそういうやつなんだよ。ほら、女は虫には寄り付かないだろ? あんまり女の匂いを嗅いでしまうと、あいつは卒倒してしまうんだよ。だから、あいつはそうしているんだ」

「あれじゃ、男の人でも寄り付きませんよ!」

「そうか? かれこれ二十年以上の付き合いになるから女が苦手なやつは虫を育てることで女を追い払っているもんだと思っていたよ」

「じゃあ、そのムーさんはエリゼさんとどうやり取りしているんですか? 一応、ムーさんもあなたのギルドの一員ですよね?」

「あいつ、エリゼが原因であんな感じになったんだよ。だから、俺とか男のほかの団員があいつに仕事を斡旋するような形でやりとりしている。まぁ、こうしてキャリーワームを貸すことで十分食っていける金は持っているし、別に引きこもりではないぞ」

「へー。そうなんですか」


 ——エリゼさんが原因で女嫌いになるってどういうことなんだろう?


 ——見た目はいかにも怪しい魔女のような人だけど、たった数時間話しただけで恋人が女の人と歩き回ることにすら文句を言うちょっと執念深いけどなんだかかわいらしい女性みたいだったんだけどなぁ……。


 ——まぁ、そんなこと自分には関係ないか。


 ミラは話を変えようと思って、「そういえば、なんか暇ですし、何か話しませんか?」と言った。


「何だよ? あんまり油断していると、舌噛むぞ?」

「わたしは早口言葉喋りながら、馬に乗れるんで大丈夫ですよ」

「そんな特技何の役に立つんだ?」

「なんか微妙な空気じゃないですか。それを変えたいんですよ」

「まぁいいけどそんな話があるのか? 流行りの恋愛物語とかそういうのはなしだぞ。俺はそういうものが死ぬほど嫌いだ」

「それ以外にもいろんな話があるでしょ? たとえば、三匹の大天狗の話とか、赤い巨竜を倒した十三人の騎士の話とか、そうそう王家を裏切った七人の騎士の話なんてどうですか?」


 ミラがそう言うと、ウェリックが興味を持ったような顔をした。


「——赤い龍を殺したのは十三人じゃなかったと思うんだがな?」


 ミラはウェリックの言葉に反応した。


「私の住んでいた村では十三人なんですよ。私もギルドに入るまではほとんどの町では六人だって言い伝わっていたことを知らなかったんですよね。なんで違うのか不思議に思っていたんですよねー」

「どうせ村によって違った風に伝承されてしまった物語って言うだけの話だろ? 十三人も騎士がいたなんていう話は初めてだ。ちょっと話せ」

「はいはい。まだまだ時間がありそうなので、語らせていただきます」


 ミラは物語を恭しく語り始めた。


******


 むかしむかし。


 この世界には魔物がはびこっており、村々は魔物によって蹂躙されていました。


 そんな世界を憂いた神さまは屈強な戦士十三人に魔法紋スティグマと呼ばれる不思議な魔法が込められた紋様を授かりました。


 彼らは魔法紋を使い、荒れ果てた世界を平和にしていきました。


 そんなある日、彼らは赤い大きな龍の話を聞きました。赤い大きな龍は巣の近くに住む人々に貢物と称し、金銀財宝、家畜、若い娘を要求していました。


 彼らはそんな龍を懲らしめるために、龍の巣に向かいました。


 龍の巣に向かった彼らは龍に襲われました。


 龍は火を噴き、鉤爪で大地を切り裂き、彼らを苦しめました。


 しかし、彼らは神から授かった魔法紋スティグマの力を駆使し、龍を殺しました。


 そして、彼らは龍の蓄えた金銀財宝を使って自分たちの国を作りました。


 ただし、その龍は呪いを残しました。


 この呪いは世界中にいる魔物をより強くし、より増やすという恐ろしい呪いでした。


 呪いによって魔物たちはますますはびこり、彼らのような屈強な戦士たちが必要になりました。神さまは魔法紋スティグマをまた新たな屈強な戦士に与えるのでした。


******


「案外人数が多いだけで変わんないんだな」


 ミラが語り終わると、ウェリックはそう呟いた。


「え? この話は結末がおかしいってよく言われるんですけどね。ほら、最後の赤い巨竜を殺したことで魔物がはびこったっていう話なんてありえないってよく言われましたよ。——まぁ、うちの村が厄介な魔物でいっぱいだからなんでしょうけどね」


 ウェリックは言い訳がましく、こう言った。


「——いやぁ、この国って広いじゃないか。だから、辺境ではそんなふうに言い伝えられていてもおかしくねぇ」

「それって、なんかとんだど田舎生まれだとバカにされているような気がするんですけどね」

「それに、龍を殺したなんて千年も前の話だ。ちょっとくらいは話が違ってもいいじゃないか」

「そうですかね?」

「そういうもんだよ」


 ウェリックは青白く輝く月を見てそう呟いた。夜が明けるにはまだ先のようだ。


【補足】

・三匹の大天狗の話

大きな山脈には鼻が大きい仙人が住んでいたという話がいつの間にか天狗の話になっていた(たぶん)。

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