完熟
僕は完熟のトマトを握っていた。
それは艶が美しく表面は処女の様に赤い。
僕はヘタから描かれる美しきカーブを撫で回した。僕の口内ではジュワジュワと唾液が滴り挑発的な禁断の果実を喰らわんとする欲望、狂気、羨望にまみれたむず痒さの様なものが僕の理性をゆっくりと侵食していった。熟れた真紅の肉体に歯石がこびりついたカーキ色の象牙を突き立てる。その瞬間上半身から下半身にかけて興奮を伴った危うい震えが全身の毛を逆立てる様に駆け抜けていく。ピンク色の歯茎の中に酸でベトベトになった鮮血が逆流した。「溶かす溶かす何でも溶かす魔法のミルクだぞお」とでも言わんばかりの刺激に僕の背筋は死後硬直の様にピンと逆立った。
「おぅぁぁぁ!!!!とめぃとぅぁお!!とめぃとぅあああ!!!」
僕は叫ばずにはいられなかった。このままでは全身の細胞が勃起して隆起してパンパンのカッチカッチの爆発寸前だ。はやく僕を奴隷にしてくれ!!!赤いジュクジュク未亡人!!僕は彼女の裸体を床に叩きつけ、その上にダイブした。冷んやりと冷たい果汁とフローリングの二重奏に負けじと僕は腰を動かした。「うぉあああああ!!じゅるじゅるだよぉぉぁえああ!!シャツからおぱんつまでじゅるじゅるだよぉぉぁえあ!!!!」殺人的な摩擦係数は時を超え宇宙を超えフローリングに着火した。燃え盛る僕とトマト。「あづぃぃぃ!!!うえぁぁぁえあ!!焼きトマトと僕とでひぃひぁ、恋のフルコースときたもんだ!熱いいいぃぃぃぃぃ!!!!」
僕は死んだ。
幽霊になった僕はトマト農家の未亡人を襲った。
「やめて下さい!!」
「うひひひうひひひ!トマトの仇だ!!これでも喰らえ!!」
僕は自分の糞尿にトマトピューレをぶっかけて食べた時にかいた冷や汗の塊を彼女の背中に流しこんだ。
「あーれー!!おやめくださいお代官さまあああ!!」
「うひひひ!!!よいではないか!!!よいではないか!!」
濡れに濡れた彼女のシャツは限りなく透明より透明に近い透明だった。透き通った肌が夕焼けに染まって柔らかな肉体に陰を作っている。これがトマトだったら齧りついて舐め回している所だ。ブラウスを買ってて彼女に着せた。そして大きな蓮根を口に咥えさせて穴の反対側からミニトマトを流し込む。みるみる彼女の口は赤と黄緑が混じった色に変色していった。これで彼女も少しはトマトの気持ちが分かっただろうか?いや、わかるはずがない。僕は蓮根で彼女を血だらけにしてやりたかった。果汁100%の彼女はトマトには及ばずとも蓮根に比べれば実にエレガントだ。
ずっとトマトになりたかった。なぜトマト農家に生まれなかったのが自問自答した。答えは出なかった。いつもいつも一人で泣いた。流した涙は全て下半身に擦り付けてその塩辛さを利用してひとり遊びにふけった。所謂おかずはいつもトマトだった。あの赤くて丸いふしだらな姿を想像するだけで脳味噌からドクドクと白子の塊が溢れてくる様な幻覚と妄想にまみれ浮世の世知辛さに向けて青春のロケットランチャーを発射した。調子の良い時は鼻セレブを使った。鼻セレブというよるはオナセレブだった。そんな1998年。今でも変わってない。あの時の気持ち、あの時の思い。いつだってトマトにきゅうりを突き刺さして興奮してた。きゅうりの皮は向いてあげた。皮がついたままだと早いうちに事が済んでしまうから。それからというものの僕はいつも股にきゅうりをはさんで生活した。受験の時試験官がけげんな目で僕を見ていたが彼の股には遠足の時に使う大き目の水筒がぶら下がっていた。僕はその水筒を手に取り、蓋に中身を継いで飲んだ。アサヒスーパードライだった。泡がすごかったので糖尿なのだろうか。まあ、そんなこんなで僕は大学に進学した。大学は退屈だった。あの頃といったら僕達はいつもボブディランを聴いていて、マッカランがきれたらマティーニを頼んでいた。マスターは離婚したばっかりだし恵子はジャニスイアンに憧れてピアスの穴をいくつも空けていた。その穴という穴からトマトの汁が流れだして止まらなくなった。トマトの洪水は恵子を包み、もはや「あの日」を何十倍も出血させた全裸の踊り子の様だった。僕は恵子の服を脱がせてあげてその上に刺身をもりつけた。少しトマト臭いけどイタリアの寿司屋みたいだねと言ったら恵子は笑って僕の顔面に昨日飲んだカゴメ100パーセントトマトジュースを吐き出した。胃液と腐敗した臓器の匂いがするなと思って顔から吐瀉物を除けると、それは本当の恵子の臓器だった。心臓から十二指腸、胃、子宮、全部あった。でも全てがミートソースにまみれて境目がわからなかったのでとりあえず僕は糞尿を垂れ流して事態の沈静化をはかった。幸いバキュームカーが近くにきていたので糞尿ごと恵子の臓器を吸いとっていった。やれやれ。僕はジントニックを一気に飲み干した。
「これからどうしようかしら。臓器がなくなっちゃったわ。」
「綿でも詰めとけよ。」
恵子は納得いかないようで、僕に向かってあっかんべーをした。やれやれ。