第61話 「隣りに写っているのは誰でしょうね?」Bパート
前野はその時の状況を思い出すように俯くと、「あいつは昨日も宇宙人を探していた。本格的な探索装置とやらを導入してきてな」と言った。
「探索装置ですか」坂口は興味ありげに頷き、「それはどのような理論で構築されているんでしょうか?」
「恐らくは電磁波を感知する類のものだろう。まもなく探し当てると、奴は自信満々に豪語していたな」
「実はそれに興味があって、あいつに話しかけたんでしょ?」
上機嫌に情報を語る前野を一瞥しつつ、足立は言った。
「ふん。まぁ、それもなくはないな」
「ほらぁ!」
「しかし、黒い服の男性も未だ宇宙人の発見には至っていないということですね?」
「そうだ」前野は足立を無視するように答え、「必ず俺たちが先に突き止めてやる。そのためには白い男の真相を一刻も早く探り当てる必要があるな」
「あぁ、そのことですけど――」つい今しがたまで興奮した様子を見せていた足立だが、急に冷めた口調になり、「石田さんは宇宙人なんかじゃないと思います」
「なに? どういうことだ!」
動揺した様子で前野が問いかけると、ポケットからスマホを取り出した足立は、「これです」と言って二人に液晶を見せた。
「あの白い奴じゃないか」液晶を覗き込みながら目を細めた前野は、隣に写る人物に目を移すと「あっ……」と言葉を詰まらせている。
「隣りに写っているのは誰でしょうね?」と、坂口も覗き込みながら尋ねた。
「昨日リナちゃんの家に泊まりに行くって言いましたよね?」足立は二人の顔を順に眺め、「その時に見せてくれた写真をこっそりカメラで撮らせてもらったんです」
「ということは、隣りに写っているのはリナちゃんですか?」
「あなたは昨日の夕方に見てますよね?」と、足立は前野の方へ視線を送る。
「…………」
前野は言葉を失い、写真を睨み続けていた。
「石田さんは、リナちゃんの元彼なんです」足立はスマホをポケットにしまいながら、「それに私は、昨日の夕方マンションの前を通り過ぎる時、あの人のベランダで望遠鏡のレンズが光るのを見ました。これだけ分かれば、大体見当はつきますよね?」と言った。
「僕には全く話が見えてこないんですが」
坂口が呆けた表情を浮かべていると、前野が小さく、「……やれやれ、ただのストーカーか」と呟いた。
「ストーカーと言えば、『特定の相手に対し、つきまといや待ち伏せなどの行為を繰り返す人、また、執拗に追いかけ回す人』のことですね?」と坂口が言った。「石田さんはストーカーなんですか?」
「そうらしいな」
「リナちゃん、元彼の想い出話をしてくれたんです。とっても大事そうに」
足立はやり切れないといった表情でそう言った。前野もまた腕を組んでため息を漏らすと、脱力した表情を浮かべている。
黙り込む二人を交互に見た坂口は、「結局石田さんは、宇宙人ではなかったということですね」と、一連の騒動をあっさりした口調で締めくくった。
「――あの変態!」
足立と前野の二人は、報告の会合を終えた後も坂口の部屋から帰る気配を見せず、アルコールを持ち寄って飲んだくれていた。
「ふん。くだらんな」
前野もまた、苦労して得た情報の無意味さに渋い表情を浮かべながら酒を煽っていた。
「下らんとはなんですか!」足立は前野の胸ぐらを掴み、「リナちゃんはねぇ、料理も上手で面倒見もよくて、あざとくて小悪魔っぽくて、すぐ人のこと上目遣いで見て、とっても可愛いんですからね!」
「それは褒めているつもりか?」
坂口は昨日に作ったカレーを二人に振る舞ったのち、一人で読書に耽っていたが、時おり「ワンッ」と短い叫び声を上げるペットの犬が物珍しく、そちらをじっと見つめている。
「えへへ。可愛いでしょ? 坂口さんも撫でてあげてくださいよぅ」と言いながら足立がキャリーケースを開けようとすると、坂口が「わっ!」と慌ててその場から離れた。
「お前もしかして、こんな子犬が恐いのか?」と前野が驚いたような顔で尋ねた。
「大丈夫ですよ。噛んだりしませんから」と、足立は笑いながら犬の頭を撫でている。
「……いえ。僕はどうにも動物に嫌われてしまう体質なようで、だからあまり近づかないようにしているんです」
「あはは。なにそれ。ほんとは恐いんでしょ?」足立はけらけら笑っている。「まぁいいや。キャリーからは出さないようにしますね」
坂口はキャリーケースから距離を取りながら、「ところでお二人は、新入居者歓迎パーティーには参加されるんですか?」と尋ねた。
すると、今さっきまで勝手気ままに盛り上がっていた二人は急に黙りこくり、考え込むような素振りを見せた。
「あんたは、行くのか?」と前野が尋ねたので、坂口はすぐに「はい。今回は行くつもりです」と答えた。
「パーティーは好きじゃないな」と前野はしかめ面で答えた。
それを聞いた坂口は、ひどく残念そうな表情を浮かべ、「でも僕は、前野さんとお話をするのが好きです」と言った。「本格的なSF話をできるのは前野さんくらいですし、来てくれると嬉しいのに」
「お前……」
酔いが回っていた前野は、人懐っこく話す坂口に対してまんざらでもない表情を浮かべると、「まぁ、そんなに言うなら」などと答えている。
「私は行きたくないです!」
拗ねた顔でテーブルの淵をなぞった足立は、「だって、あの人も来るんでしょ? そんなの気分悪いですもん」
「えっ、行かないんですか?」
足立の発言に驚いた顔をした坂口は、「僕は今回、《《お友達の》》歓迎会だから行くことにしたのになぁ」と、これまた残念そうに言った。
すると足立は突然彼の手を握りしめ、「――行きますっ!」と素早く言い放った。彼女の瞳は少々湿っていた。
「じゃあ、今度三人で会うのはパーティーですかね」
玄関で靴を履きながら、足立が言った。
前野はキャリーバッグに入ったプードルに向け、密かに笑顔を向けている。それに気づいた足立は、「なんだ、結構好きなんじゃないですかぁ」とはしゃいだように肩を叩いた。
「別に」
「いやいや、今のは絶対可愛がってやりたくてたまらない目つきでしたよ」
「……うるさい」
「何でですかぁ! 認めてくださいよぅ」
などと言い合いながら、賑やかな二人は自室に戻っていった。




