始まりの夢
俺は今、またしても死の夢を見せられている。
男子高校生が二人、並んで歩いているのが見える。俺はこの映像を最後まで見届けなければならない。最後まで。
その二人はとても楽しそうだった。顔はよく見えないが、二人が笑っていることだけはわかった。遠くから見ているだけで、二人の会話が聞こえてきそうだった。とてもこれからどちらか、あるいは両方が死ぬとは思えない平和な日常がそこにあった。まるで俺たちのようだ、と思った。そこで俺は、自分とあいつとの間で交わされそうな会話を想像した。話を切り出すのは大抵あいつの役目だ。
「これからどっか寄ってく?」
そして俺は短く答える。
「本屋寄りたい。」
あいつはきっと文句を言うんだろう。
こんな風に。
「えー。まーた本屋ですか。こないだ行ったばっかなのにー。」
そして俺は無愛想に言う。
「嫌なら来なくていい。」
いつでもあいつは文句を言いつつ俺についてくる。
「いや、行くけどもー。」
なんでもない会話。だけどそのなんでもないところに幸せがあることを俺は知っていた。俺は今自分が見ているものが死の夢であることも忘れて、あいつのことを考えていた。
だがふと我に返った俺は、その想像をひどく後悔した。この、悲しい運命を迎えることになる二人を、たとえ想像でも俺たちのことにしたくはなかった。俺がこの映像を見ている時点で、この二人の未来のとんでもない悲劇は約束されているのだから。だから俺はあいつのことを考えることをやめようとした。やめようとしたが、どうしてもあいつの声が頭から離れない。
この二人には本当に「その瞬間」がやってくるのだろうか。
あたりを見回しても、特に何も見当たらない。人気はほとんどなく、車通りも少ない。ここに一体、どんな死の要因があるというのだろうか。いつもの通り、俺にはただ見守ることしかできない。俺ができることと言ったら、これからどちらか、あるいは両方に訪れる死があまり苦しいものではないのを祈ることくらいだった。
二人の間には、完全に二人だけの世界が完成しているように見えた。並んで歩く二人はどちらも男だったが、どこか恋人同士のように見えることもあった。二人だけの幸せがずっと続けばいいと思った。
そして俺は気が付いてしまった。二人の歩く道は、妙に俺たちのいつもの帰り道に似ている。歩道と車道の分け目に咲くつつじの花、赤茶色の歩道のタイル、右手に並ぶ小さな商店たち。
「アイス買ってこ。」
そんなことを言って無邪気に笑うあいつの声が聞こえた。
いや待て、何かがおかしい。今俺は確かにあいつの声を聞いた。想像ではない。あいつは今、確かにしゃべった。それに俺はあの店を知っているではないか。遠くからでよく見えないが、多分あの店は俺たちが学校の帰りによく寄ってはアイスを買う店だ。
なぜ彼らが、俺たちでないはずの彼らが、ここを歩いているんだ?きっと知らない他人だ。俺たちなわけがない。
だがなぜ俺はあいつの声を聞いた?
なぜあいつのことを考えたんだ?
なぜ……
突如、気がつかないふりをしていた違和感が、点と点が線で結ばれたように、最も恐れていた形で確信へと変わっていくのがわかった。
あれは、間違いなく、俺たちだった。
それを勘違いと呼ぶには、あの二人はあまりにも俺たちに似すぎていた。
なぜ俺たちがそこにいるんだ。何が起こるというのだ。なぜよりにもよって。せっかく、俺はあいつとまた……
もはやそれから、考える時間などなかった。その瞬間は確実に近づいていた。一台の大きなトラックが交差点を越えるのが見え、そのトラックは二人のいる方へ猛スピードで向かっていった。