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原色のシアン

作者: 浦木 佐々

 土手の緑が禿げてしまったところに座り込み、それとなく考え事をしていた。

 実際には脳内で言葉を組み立てる作業は行なっていない。過去のことを持ち込むのは無粋な気がして憚られたからだ。そういう意味では考えているのでは無く、感じていると表現した方が適切だとも思えた。しかし、何かを感じる事は有り体な僕の意見として、考えることに通じている気がしてならなかった。

 例えば、対岸に生い茂る葦が揺れる様子。僕はそれを見て、浴びるよりも強い風を感じる事が出来る。僕の周りに風が吹いていなくても、だ。それは葦が一人でに揺れているのでは無く、風に煽られていると無意識のうちに考え、理解しているからだった。

 僕はその事がとてもくだらない事に思えて仕方がなかった。無論、このくだらない事、とは僕の考えが導き出した結論である。では何がくだらないのか。その過程/理由を論じる術を、僕は持ち合わせていない。その辺りの思慮深さの欠落が、人生を外してしまう大きな要因であると指摘された事は幾度とあった。


『僕は引き金を引く以前に撃たなければならない理由を模索する程器用ではない』


 ある日、僕のカウンセラーを自称した少女に向けた言葉だ。僕史に於いて最も僕が気に入っているフレーズの一つでもあり、僕の考え方を的確に捉えている比喩であるという自負もある。


『君が引き金を引くのは暇だからでしょ?』


 対する少女の返答だった。

 それから真っ白な部屋がトラウマになり、以前よりも彼女が好きになった。


「色々あったなぁ」


 考えず口をついた言葉は、だだっ広い土手に面白いぐらい溶け込んだ。

 次の瞬間には僕はしまったと思うと同時にクラクラと後ろへ大袈裟に倒れた。よりにもよって、自然色豊かなこの場所で昔のことを思い返してしまった自分を恥じた。固く瞳を閉ざしているのは、何も見たくないという最後の抵抗だ。

 長い間そうして土手で寝転がっていた。自身の目が正常に作用している事への忌々しさが全身を駆け巡り、居た堪れない心持ちになった。

 僕は本当の意味での暇を味わっているのだと、そこで悟った。それと共に随分と遠くへと来てしまったのだと。

 一度開いた蓋が中々に閉まらない事を経験則として熟知していた僕は漸く抵抗をやめる決心を固め、目を開けた。


「案の定、綺麗なんだよなあ」


 人間の環境破壊を持ってしても奪えない空が嫌味たらしく視界を覆った。その中を泳ぐ雲は白いなんて形容詞に収めるのが勿体ないほど自由に見えた。尾を引いている飛行機雲の形なんて、言葉では到底言い表す事の出来ない姿で好き勝手な線を描いている。

 目線を下げれば対岸には例の揺れる葦。その穂が此処からでもフワフワとして見えるのは独特な優しい樺色のお陰と言えるだろう。穂と僕の間に飛行機雲とは違う趣きで境界を設けているのは名のある川だ。その川は陽の受け方、波の立ち方でその色を自在に変える。

 心底、見せたいと思った。

 感じるのではなく、考えようと思った。論じるなんて大層な物言いではなく、彼女に少しでも解りやすく伝えられる様に、と。

 川の流れと空の広さ、二つが持つ青さの違いについてを。

【原色のシアン】を読んで頂き有り難う御座います。

実はこの短編には前日譚があります。

もっと言うのであればある種経験を基に描いています。そのへんもおいおい何かの形で載せられればなあと考えているので、もしその日が来たときは少しだけ思い出してやってください。


では、またどこかで。

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