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夢の舞台はポラリスで  作者: 藤波真夏
Program No,01「Mysterious adventure〜Dr. Kyle's journey〜」
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Practice5 星の下で

最新話を更新します。最後まで読んでくれたら幸いです。藤波真夏

Practice5 星の下で

 稽古開始から早くも一ヶ月半が経過した。

 それぞれの日程と照らし合わせながら、稽古を行った。そしてなんとか形にはなった。本日は通し稽古である。

 通し稽古は実際の舞台の上で全編を通す。

 実際にヘアメイクを施し、衣装を着て行う。本番前のリハーサル、ゲネプロとは違う予行練習だ。

 この日は丸一日劇場に籠る。

 ハジメは現役時代のツテを使い、ヘアメイクアーティストを呼んだ。六人は髪型、メイク、衣装を全部揃えて舞台の上へ立った。

「すごい! 本当に弦さん、ハワード・カーターみたいです!」

「ありがとう」

 夜がそう言った。そう見えるのも無理はない。茶色の帽子にジャケット。少しくたびれた感じがある、説得力のある衣装だ。

 そして女性陣が舞台上へやってくる。衣装にヘアメイクなどが加わって、さらに印象が変わった。準主役である七海を見た瞬間、他の五人は言葉を失った。

「綺麗」

「素敵」

「すげえ」

「やばい」

「おい。また語彙力が落ちてるぞ」

 弦以外の四人が七海の格好に語彙力がなくなるくらい見とれた。七海も衣装のスカートを掴みながらその場でターンをして見せた。衣装がひらひらとなびいて美しかった。

「弦の言う通り。語彙力無くしたら大変だよ。これから通し稽古なんだから」

「東の言うことはもっともだぞ」

 弦はそれに同調する。その姿はどこか大家族の父親と母親を思わせる。すると客席の方からパチン! と音がした。振り返るとハジメが手を叩く音だった。

「さ、通し稽古だよ。これは衣装の動きやすさや調子を見るものでもある。全力を出して頑張って」

「はい!」

 ハジメの言葉に全員が返事をし、自らを鼓舞した。

 六人は舞台袖にはけ、演劇用のワイヤレスマイクをつける。しかし装着の仕方がわからずにいると、弦は自分のをつけ終わると順番につけ始めた。

「ありがとう」

 全員が弦に礼を言った。

 ワイヤレスマイクの音声チェックも行い、いざ通し稽古の幕は開いた。



 一時間三十分が経過して通し稽古は終わった。

 全員が緊張感の中でなんとか演じ切り、終わった瞬間の疲労は想像を超えていた。ただし弦だけは疲労を抱えている様子には見えなかった。

「弦さん。疲れてないんですか?」

 瑠衣がそう聞くと、弦は当たり前だ、と返した。

 瑠衣は疲労に耐えながらすごいですね、と言った。舞台上でへたり込む劇団員たちの元へハジメがやってきた。

「みんな、お疲れ様。予定では五公演を予定している」

「五公演?! 多くないですか?」

 今回助演の立ち位置にいる夜でさえ、疲労を覚えている。こんなに疲れる舞台を五公演もやることにむしろ驚いている。

「五公演なんて少ない方だぞ。体力がつけばどんどん増やしていく」

「体力、つけなきゃ」

 鈴はそう呟いた。

 そしてハジメは本題に入る。今回の通し稽古で気になった部分はなんなのか、と話し出す。

「みんなまだマイクに慣れなかったね。この劇場はキャパ数の関係でマイクが必要不可欠になる」

「裏では全キャストに俺が装着しました」

 弦がそう言うと五人が萎縮する。そう、弦以外の人間がワイヤレスマイクの装着方法を知らなかったからだ。ハジメは仕方ない、と笑った。

「マイクのつけ方は本番までに教えるから」

「・・・すいません」

 五人が頭を下げた。

 最初の課題はマイク慣れ。だからと言って声を小さくしてもいけない。いつマイクのない小劇場、野外ステージに出向くかわからない。稽古ではマイクなしで行い、通しなどの舞台を使用する場合のみワイヤレスマイクを使用することにしている。

「役者陣は・・・」

 全員の視線がハジメに注いだ。

「まずは弦。さすがだね、よくなっている。台詞、動きは問題ない。あとはこの舞台になれることだね。次は七海。舞台慣れをすることと、絨毯から出てくるときに思いっきり肩を打ちそうだから怪我防止のためにも体勢を変えたほうがいい。

 瑠衣。一旦台詞でつまずいたけど巻き返しができたから問題はない。あとは自信だ。自信を持って、台詞を話すんだ。そして大宙。もう少し舞台を走ってもいいぞ。レッスンルームとは規模が違うからな。とりあえず走ってみてダメだったら、僕から指示を出すから自由にやってみて。

 そして夜だけど、舞台慣れとあとはもう少し腹黒さを出してほしいな。少し呑まれているから、全面的に出したほうがいい。最後に鈴。前半にスタミナを使いすぎて後半でスタミナ切れを起こして演技がおざなりになってる。体力面向上と慣れが課題だね」

 ハジメが全員に的確にそして思ったことを伝えた。それはまさに自分たちが後悔として感じている部分であった。

 それを聞いた六人の全員が思った。

 これがかつて圧倒的演技力で数々のドラマ、映画、舞台を経験した俳優、宮原ハジメだと。

「課題はマイクの装着と舞台慣れかな。今日は一日お疲れ様。衣装を脱いだら解散だよ。ゆっくり休んでね」

 ハジメがそう言うと六人はそれぞれの楽屋へ戻っていった。



 衣装を脱ぎ、六人は劇場を後にする。

 七海が歩き出そうとすると弦に後ろから呼び止められた。どうしたの? と理由を聞くと弦は小さな声で呟いた。

「・・・ありがとう」

「へ?」

「通しのとき、俺転びそうになっただろ。それを隠してくれて」

「別に・・・、どうってことないよ。お互い様でしょ?」

 七海は劇場前の石段に腰掛けた。その隣に弦も腰掛ける。

「お客さん来てくれるかな?」

「さあな。俺たちの宣伝力にもかかってくるんじゃないか?」

 弦はそう言った。明日は稽古こそ休みであるが、公演の宣伝のためにフライヤー配りを行うことになっている。しかし七海は弁当屋での仕事があるために出席ができない。以前であれば、怒りをぶつけるはずではあるがもうあの頃の弦ではない。決して七海を責めたりはしなかった。

「弦。変わったね」

「そうか?」

「自覚なしか・・・。でも私はそう思う。明日はあの子達のこと、頼むわよ」

「お前はあいつらの母親じゃないんだから、そんなこと言わなくてもいいだろ?」

 弦がそう言うと、七海は首を横に振った。

「厳密に言うと高校生組のことよ。夜と瑠衣は大学生だから心配する必要はないけど、一応高校生を預かっているから監督しないといけないの。ハジメからきつく言われてるから」

 弦は言い返す言葉もなく、なるほど、と言った。だけど、と七海は言葉を続けた。

 どうしてハジメはフライヤー配りに行かないんだろう? と七海は疑問をなんとなく弦にぶつけてみた。それに対して弦は口を開いた。

「ハジメさんは圧倒的演技力で、ある意味芸能界を騒がせた俳優だ。ハジメさんが俳優を引退した理由は俺も分からなければ、芸能界の人でさえ分からない。ハジメさん、絶対に口割らないからな・・・。でも、元俳優である意味世間を騒がせたハジメさんが町中に出てみろ。大パニックを招く」

「だから、ハジメは出ないってこと?」

「俺の想像だがな・・・」

 そうなんだ、と七海は少し不満げに言った。

 夜空には綺麗な月が顔を出し、弦と七海に月明かりが降り注いだ。

「引き止めて悪かった。明日の仕事に差し支えがあるだろ?」

「別にそこまで気遣わなくてもいいよ。じゃ、明日は頼むね」

「ああ」

 二人はこうしてそれぞれの帰路へつくようになった。

 全員が帰ったのち、ハジメは楽屋に敷いた布団で眠りにつこうとしていた。楽屋の隅には明日配るフライヤーが山積みにされていた。

 ハジメの知り合いに頼んで作ってもらったもので、弦と七海が役の衣装に見を包み、グラビア撮影を行った。そのグラビアを使用してフライヤーにしてもらったのだ。これが明日より多くの人々に出回る。

「きっと、みんなは僕も来て欲しい、とか言うだろうな」

 そう呟いたハジメであるが、やはりフライヤー配りに関しては参加しないという意思はとても固かった。


 僕が出れば劇団の評判は増す。しかし、パニックの引き金を引いてあの子たちを傷つけかねない。まだ出るわけにはいかない。いつか、六人が自他共に認める立派な役者になったら話そう・・・。


 ハジメはそう心に決めて静かに目を閉じた。

 ハジメが目をつむった同じ頃、七海も自室にいた。窓を開けて空気の入れ替えで風を部屋の中に入れた。風が七海の髪を揺らした。

「宮原ハジメは世間を騒がせた俳優。ハジメが町中に出ることで大パニックか・・・。もしかしたら、ハジメは私たちのことを思ってこんな行動に出たのかな?」

 七海はハジメに関する憶測を巡らせた。それが真実とは限らないが七海なりに考えた結果だ。

「私もできることはやってみるか」

 七海はそう決心すると、ベッドの中に入った。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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