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夢の舞台はポラリスで  作者: 藤波真夏
Program No,01「Mysterious adventure〜Dr. Kyle's journey〜」
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Practice4 喧嘩両成敗

長い期間更新せず申し訳ございません。ちょっとずつではありますが、更新します。最後まで読んで頂けたら幸いです。藤波真夏

Practice4 喧嘩両成敗

 稽古四日目。夕方。

 レッスンルームに最初にやってきたのは、弦であった。毎日行うストレッチを行い、稽古に備える。すると次第に他のメンバーも集まりだした。

 しかし誰も弦に話しかけるようなことはしなかった。あの激怒した「孤独な独裁者」の記憶が脳裏に焼きついたままなのだ。

 弦は自業自得だ、と自嘲した。

 最後に七海がレッスンルームへ入ってくる。弦が七海を見ると手首には包帯が巻かれていた。突き飛ばした時の怪我だ。すぐに弦は察した。しかし、いらないフライドが邪魔をしてなかなか話しかけづらい。

 弦が苦悶の表情をしているとハジメが入ってきた。

 全員が挨拶をすると、ハジメは今日の稽古のメニューを伝えた。

「今日は衣装合わせをするよ。早めに調整をするから、もし着にくかったり何かあったら遠慮せずに僕に言ってね。そして・・・」

 ハジメは弦の背中を叩いた。弦はドキッ! として驚いている。ハジメを見ると強い眼差しでこちらを見ていた。

「主演の弦からやる気のでるお言葉を頂戴します!」

 弦のことを五人が見つめる。弦は人生で一番の緊張感にさらされている気になった。嫌なほどに冷たい汗が滴る。弦は腹を括った。

「みんな、すまなかった! 演劇に対して真剣じゃないだなんて決め付けて・・・。俺が・・・馬鹿だった・・・」

 弦は頭を下げた。全員が驚いて戸惑いを隠せなかった。最初に口を開いたのは夜だった。

「弦さん。謝るのは俺たちのほうです」

「は?」

「俺たちが未熟なせいで弦さんに迷惑をかけてるんじゃないか、ってずっと考えてました。俺だけではなく、ここにいる全員です」

 夜の言葉に全員が同意の視線を向ける。

「弦さんと肩を並べられるように頑張ります。だから、これからも宜しくお願いします!」

 予想以外の展開に弦もハジメも驚きを隠せない。夜をはじめ、瑠衣、大宙、鈴がごめんなさい、と頭を下げた、

 弦がどう言おうか迷っている時、七海が前へ出た。

「これじゃあ喧嘩両成敗ね。弦、許してあげて」

「東・・・」

 七海の一言がきっかけで弦は頭を下げている四人に頭を上げるように言った。

「東。怪我、させて悪かった・・・」

「最初は腹が立ったけど、気にしてない。ぶつかり合いの果てに生まれた勲章みたいなものだし」

 七海は拳を弦の胸に突き立てた。

「公演絶対成功させるよ。そのためには弦の力が必要なの。私たちがさらに上に行くためには弦の力も必要なの。絶対に、肩を並べるようにする」

 七海の目はいつになく真剣で怖いくらいだった。しかし同じくらいに真剣さが伝わるもので確かな思いが溢れ出ていた。

「ああ。当然だ。だけど、俺がこなしているメニューは厳しいぞ? 覚悟あるのか?」

「ふっ、上等」

 七海が悪戯っぽく笑った。それには全員がそう思っていた。

 その様子を静かに見守っていたハジメは心が熱くなった。まるでどこかの青春ドラマを見ているようだった。ハジメは手打ちをした。

「さ! これで一件落着だね。稽古って行きたいところだけど、まずは衣装合わせだね。ドレッシングルームを男女で分けて各部屋に衣装を置いておいたよ。該当する衣装に名前が書かれているからそれに着替えてレッスンルームに戻ってきてね」

 わかりました! と六人は言った。しかし瑠衣が足を止めてハジメに言った。

「でも宮原さん。ヘアセットとかはどうするんですか?」

 それに弦がえ? と反応した。それには七海も鈴も振り返った。ハジメはそうだね、と考えて今回は衣装だけと告げた。

 瑠衣は納得をしてドレッシングルームへ向かった。



 全員がドレッシングルームに入って三十分後。

 男子三名が衣装を身につけてレッスンルームへ戻ってきた。

「似合ってるじゃん!」

 ハジメは三人の姿を見て声を上げた。

 主演である弦はくたびれたジャケットに黒いネクタイ、いかにもエジプトの考古学者の風格が出ていた。

「ハワード・カーターみたいだな」

「ハワード・カーターって誰ですか?」

 弦が不意に漏らすと、大宙が聞いてくる。弦が答える前にハジメが答えてくれた。

「ハワード・カーターはイギリスのエジプト考古学者。ツタンカーメンの墓を発見した人物なんだよ。エジプト考古学の世界では超有名人なんだよ」

 ハジメの説明を聞いて大宙はへえ、と相槌を打った。

 大宙はそのハワードが発見したツタンカーメンを演じているのであるが、白い布を使った衣装にファラオを象徴する金色の装飾品。少年王を彷彿とさせた。

 そして夜はエジプト勢との差をつけるため、デザインが異なっていた。

 白い衣装ではあるが、赤のラインが入ってわりかし現代に近い衣装になっている。手には腕輪がある。

「三人とも。衣装は動きやすいかい?」

 ハジメが聞くと三人は各々で動きやすさを確認する。大宙は陸上部のウォーミングアップの動きをした。すると驚いた。白いズボンが体にぴったりくっつき、さらに伸び縮みもあり動きやすい。

「監督! もしかしてこれ、スポーツ選手が使うストレッチ素材?!」

「お! 正解!」

「すげえ! ストレッチ素材を演劇で使うことになるなんて、思わなかった!」

 大宙大興奮だ。

 ハジメは改めて衣装はどうか、と聞くと三人は大丈夫、と答えた。

 それから三十分後。

 女子三名が衣装を身につけてレッスンルームへやってきた。お待たせ! という七海の声を聞いて四人は振り返った。その瞬間、目は釘付けになった。

 全員が古代エジプトを生きた女性達である。衣装だけでも美しいのに、これからヘアセット、メイクが入るとどのようになるのか想像がつかない。

 クレオパトラ、ネフェルティティは女王らしくサラっとした素材の白い布に腰紐を巻いたワンピース型。金の装飾品を身につけて華やかであった。

 一方のカルミオンは二人ほど華やかではないが、清楚な衣装に仕上がった。金色の装飾の代わりに水色の刺繍が入った女性らしいものなっている。

「やばい」

「すげえ」

「桜田。黒川。見惚れ過ぎて語彙力がかなり下がっているぞ。見苦しすぎる」

 あまりの変わりように大宙と夜は感嘆詞しか出てこない。著しい語彙力の低下だ。

「別にこんなもんで興奮してどうするのっ!」

 七海の拳が夜と大宙の頭に命中した。二人はいってえ! と頭を抱えた。それを見守っていた瑠衣と鈴は口を揃えて言った。

「さすが、七海さん。アネゴォ・・・」

 七海はニッと笑った。その笑顔はどこかいたずら好きで人を振り回すクレオパトラのように見えた。

「三人とも。衣装はどうだい?」

 ハジメが聞くと、三人は大丈夫です! と言った。

「よし、とりあえずは安心だね。この衣装にヘアメイクが追加されるから、それを頭の片隅に置いておいてね。じゃあ、稽古着に着替えてきてね」

 六人は再びドレッシングルームへ戻り、稽古着に着替えに向かった。

 一人レッスンルームに残されたハジメは思った。

 六人は予想以上の衣装映えを見せてくれたのだ。演劇というものはもちろん演技力が必要不可欠。しかし、舞台に立った瞬間に、得体の知れない魔物が役者に救いの手を差し伸べてくれることがある。

 演技力が乏しいとしても、着用している衣装、ヘアメイク、照明などの舞台演出によって演技力の半分をカバーできるのだ。ハジメはその映えがあるのかを確認するという暗黙の確認も兼ねて衣装チェックを行った。

 予想は見事的中。全員が舞台映えを起こす可能性が確認できた。

 次に必要なのは舞台に潜む魔物をどれだけ自分に味方させるか。魔物は気まぐれで味方になるときもあれば、いつ牙をむいて役者に襲いかかるかわからないのだ。

「演技力を少しでもあげて、舞台に立った楽しさを彼らに味あわせてあげたい」

 ハジメはそう思った。

 稽古着に着替えた後、本日の稽古が始まった。

 弦の約束通り、弦が日頃やっているエクササイズやレッスンを五人は実践してみた。しかし、あまりにも厳しい練習内容に全員がヒィヒィと苦しむ。現役陸上部である大宙でさえ、ひどい汗を流して苦戦している。

 しかし誰一人として逃げようとせず向き合った。

 弦は決してできないことを強要することは決してなかった。出来る範囲を把握させて達成できそうなメニューから行った。

 今日の練習は特にこれといった成果はなく終了した。



 稽古が終わり、全員が帰路につく。

 ハジメも劇場を後にし、家へ帰る。弦もいつも実践しているメニューをこなしているだけだったのに、今日は予想以上に体が悲鳴をあげていた。五人に感化されて熱が入った結果だった。

 弦はシャワーを浴びて、冷蔵庫に入っている炭酸を飲み干した。

 前に飲んだときよりも炭酸が美味しく感じたことを弦は気づかないままであった。

 弦はベランダに出た。

 シャワーで冷やされた体は夜風に触れてさらに冷たい感覚が走った。どこか心地良くて動けなかった。


『俺は夢を見ていた?』


 口から出たのはカイル博士の台詞だ。

 クレオパトラに見せられた幻想から目を覚ましたカイル博士の第一声の台詞だ。

 何度も言ってきた台詞はどこか深みを帯びているように思えた。決定的に弦の中の何かが変わっている。本人は気づかないが、台詞に込められた目に見えない「何か」が静かに語っている。

 弦はあまりの疲れに寝る前の日課である台本読みをせず、睡魔に負けてベッドに身を委ねてしまった。

 それは弦だけではなく、他の五人も同じだった。

 夜も大宙も、瑠衣も鈴も、そして七海もあまりの疲れにすぐに眠りについてしまった。全員が寝息を立てている。

 有意義な時間であったという証拠だ。

 疲れを癒すには長い時間が必要だと体が判断し、チームポラリスの役者たちは眠りに落ちたのであった。



 それから一週間と時間が流れた。

 今日は学校がお休みの日。この日は朝から集まって集中稽古を行う。

 普通ならば大宙は部活であるが、これも運良く休みだったため休日返上で稽古に参加する。

 誰よりも早くレッスンルームにやってきたのはハジメであった。ガラスを隠すブラインドを上げ、机と椅子を並べる。

 するとレッスンルームの扉が開いた。そこにいたのは七海であった。それにハジメは驚いた。

「七海。お弁当屋さんは大丈夫?!」

「平気。一日稽古だって言ったら、うちはいいからそっちを優先してきなさい、って言われたから」

「理解のあるご両親だね」

「ほんと、感謝しかない」

 七海は笑った。しかしそれ以上に気になったのが七海の持っている大きなトートバッグ。ハジメがトートバックを指差して聞くと七海は、トートバックに手を入れてゴソゴソと手を動かす。

 手にあったのは大きなキャベツ。

「キャベツ?」

「お昼と夕方の食材調達。ねえ、ハジメ。冷蔵庫ない?」

 七海に言われてハジメは冷蔵庫の場所を伝えた。七海はトートバックに詰め込まれた食材を冷蔵庫に入れに向かった。

 七海とは入れ違いで大宙と鈴、夜がまとめてレッスンルームに入ってきた。三人も荷物を置いてドレッシングルームへ向かった。

 次に瑠衣が到着し、最後に弦がレッスンルームに入った。七海は軽いストレッチをして待っていた。

「弦。遅かったじゃん。寝坊?」

「誰が寝坊なんかするか!」

「隠さなくてもいいんだぞぉ〜。どうなんですか、山崎弦さん?」

 七海の意地悪な心に火がついて弦をからかい始めた。

 その姿はどこかカイル博士とクレオパトラの姿を彷彿とさせるなにかがあった。

 今日のメニューは弦オリジナルエクササイズ。

 腹筋に始まり、体幹トレーニング、腹式練習など種類は多い。時々休憩を入れながら絶対に役に立つ能力を身につける。

「宮原さんも現役時代はこんなことしてたんですか?」

 首の汗を拭きながら夜が聞いた。ハジメはそうだなーと話し始めた。

「確かに僕も必死にやってたかな。僕も最初はこんな練習がいつ役に立つって思ってたよ。でも、舞台には魔物がいる」

「舞台に・・・魔物?」

「そう。舞台には魔物が潜むって昔から言われているんだ。必死にやった練習は魔物が牙をむいた時に必要になってくる。特に初心者の君たちには身につけておいて損はないよ」

 ハジメは笑った。そうなんですね、と夜はうなずいた。

 ハジメもついつい熱が入って指導をした。それに応えようと食らいつく六人。本人たちは自覚がないがハジメは確実に能力がつき始めていることがわかった。

 正午になり、昼休憩になる。すると七海が手を叩いて注目させた。

「今日のお昼は私が作るね。瑠衣、鈴は私と一緒にキッチン。ハジメを含めた男性陣はレッスンルームの片付けと机だしよろしく!」

「了解しました!」

 大宙が敬礼をした。演劇以外の指示出しはもはや誰も逆らえない。言われれば了解しました、と承諾せざるを得ない雰囲気。まさに七海はチームポラリスの姐御だ。

 七海は瑠衣と鈴を引き連れてレッスンルームを出て行った。

 残された男性陣はレッスンルームの片付けを行っていた。しかし全員の頭の中は七海の作る絶品お昼ご飯で頭がいっぱいだ。片付けを行いながらメニュー予想を立て始めた。

「七海さん、一体なにを作ってくれるんだろう?」

「そうですよね! 俺お腹空いちゃって・・・! 東さんなら、めっちゃ美味しいの作ってくれるんで楽しみです! 俺は肉ならなんでもオーケーです!」

 大宙はニッと笑ってパイプ椅子を出し始めた。しかし、ハジメがそれに水を差すようで申し訳ないけど、と言葉を付け加えた。

「七海、キャベツ一玉もってたけど・・・」

 それを聞いて全員の顔が凍りつく。まさか・・・、と顔を見合わせた。

「キャベツの千切りオンリーかもな」

 弦が淡々と言った。そのメニューは一番男性陣が恐れているものであり、喜びを打ち砕かれるものだ。

「嫌だ! 千切りキャベツオンリーなんて!」

「七海さんならそんなことしないんじゃいかな・・・」

「いや、さっきの俺への絡みを見ただろ。クレオパトラの役作りの影響からか、だいぶいたずら好きになってるぞ。ない話じゃない」

 三人が顔を合わせて小さな声で話した。

 その様子にハジメはキャベツ一玉発言を後悔する。弦の言い分も一理あるからだ。そう思うとハジメも不安になってきた。レッスンルームは一瞬にして重い空気に包まれた。

「ごめん。僕、失言した」

 ハジメが謝ったが、もう遅かった。

 ちゃんと真面目に昼を作ってくれるのか、それとも悪ふざけが祟って本当に千切りキャベツオンリーになるか。

 天国か地獄か、まさに最期の審判を待つ亡者のような感覚になった。

 男子たちの待つレッスンルームはまさに地獄にも近い雰囲気を醸し出した。

 待つこと三十分、レッスンルームの扉が開いた。

 四人ははものすごい勢いで扉の方を見た。

 そこには人数分のお皿を抱えた瑠衣の姿があった。瑠衣は絶望にも似た表情で沈んでいる四人を見て状況が掴めないでいた。

「ど、どうしたんですか・・・?」

 瑠衣がそう聞くともしかしたら七海が悪ふざけで千切りキャベツオンリーの昼飯になるかもしれない、と話していたことを伝えた。しかし、その瞬間瑠衣の顔が曇った。その顔色を彼らは見逃さなかった。

 弦のスペシャルメニューが演劇以外のこういうところで発揮し始めたのだ。

「千切りキャベツ・・・」

 瑠衣がそう呟いた。その呟きが男性陣の恐怖心を煽った。瑠衣が嘘をつくはずがないという先入観がさらに恐怖を煽った。

 すると瑠衣の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「七海さん!」

 瑠衣が振り返って声をかけた。割烹着に見を包んだ七海がレッスンルームにやってきた。手にはフライパンを持っている。

 七海の姿を見て男性陣がさらに恐怖に震えた。その異変に気がついた瑠衣が七海に言った。

「七海さん。今日のお昼ご飯、披露してくださいな」

 男性陣が重い空気で待っている中、七海がフライパンを持って近づいた。そして蓋を持つ。男性陣は固唾を飲んで見守った。

「東・・・。お昼はなんだ・・・?」

 弦の声はいつになく真剣だ。千切りキャベツオンリーだけはどうしても避けたいが、弦は腹を括った。

 七海はニヤリと笑ってフライパンの蓋を思いっきり開けた。

 その瞬間、香ばしい匂いが漂った。男性陣が目を開けるとフライパンの中にあったのは---。

「今日のご飯はメンチカツだよ!」

 それを見た男性陣はやったー! と喜びをあらわにした。七海はどうした? そんなにメンチが嬉しいの? と状況がつかめず話し続けた。

「なんだー。キャベツはメンチの材料かぁ・・・」

 男性陣は安心したのか力が抜けてその場にへたり込んだ。

「どうした?」

 七海が理由を聞くと男性陣はなんでもない! とその場を取り繕った。

 全員が揃い、七海特製のメンチカツを口の中に頬張ったのだった。



 昼食後も稽古を再開する。

 格段と演技のキレが上がっているように感じたのはハジメだけではなかった。確実にゆっくりと階段を上がっているように見えたのだ。


『クレオパトラさま!』

『ローマに見せしめにされるくらいだったら、私は死を選ぶ・・・』


 クレオパトラ絶命の瞬間を描いた場面である。

 七海演じるクレオパトラが毒蛇に身を噛ませる、というもの。一場面が終わり、ハジメの手打ちが起こって七海は起き上がって、鈴とともにハジメの元へ駆け寄った。

「前よりもよくなったよ」

「ありがとうございます」

「まずは鈴。クレオパトラが死にそうになっているからもう少し、踏み込んでも問題ないよ。やってみたらどうかな?」

「わかりました」

 鈴はハジメからのアドバイスを聞いてそれを頭の中に刻みつけた。

「そして七海。最初に比べたら見違えたよ。やっぱり、キャスティングは間違ってなかったよ」

「ありがとう」

「毒蛇を絡めるところだけど、カイル博士もこの場面を見ているから、見せつけるようにしよう。そうすれば、カイル博士もギョッとする」

「わかった」

 七海は頷くと、ハジメから弦のところへ向かった。

「弦。このシーンなんだけど」

「見せつけのシーンか」

 ハジメはレッスンルームを見渡した。絡みのあるキャラクターを演じている役者と打ち合わせや教えあいをしている光景が見えた。綿密な打ち合わせが必要な弦と七海だけではない。瑠衣と大宙も場面に関する話をしている。劇中で絡みはほとんどないが演技のことで相談している鈴と夜。

「綺麗な光景」

 ハジメがそう呟いた。

 演劇はこうでなくっちゃ。悩め、そして楽しめ。

 ハジメは現役時代の美しい思い出を思い出していた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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