Practice7 大宙と鈴の原宿大作戦!
最新話を更新しました。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏
Practice7 大宙と鈴の原宿大作戦!
こうして原宿大作戦決行日がやってきた。
東京の大都会ど真ん中、多くの若者が集まるフードとブームとファッションの最先端を突っ走る場所である。
夜は原宿駅前に到着し、腕時計を見る。
「九時五十分・・・。ちょうど十分前・・・」
原宿駅に十時集合ではあるが、夜は十分前に原宿駅の改札前に到着した。夜は原宿駅周辺を見渡すと、たくさんの人たちが行き交っている。十時になれば店も開き、さらに活気に溢れそうだ。
おしゃれなファッションに着飾った若者たちが夜の前を笑顔で通り過ぎる。圧倒されてしまいそうだ。すると、大宙と鈴が改札を出てやってきた。
「おはようございます! 夜さん!」
夜はおはよう! と出迎えた。大宙と鈴は楽しみでやってきたという。
「夜さん。もしかして楽しみじゃないですか?」
大宙が心配そうに聞くと夜はそんなことはない、と首を横に振って否定する。人の多さに圧倒されているだけだよ、と弁明する。話している間に十時となり、原宿の店が続々と開店し始める。
「さ! 今日は土曜日ですよ! 早く行かないと混んでしまいますよ!」
鈴がそう言った。
夜と大宙はそうだったね、と歩き出す。横断歩道を渡り、必然のように人混みの中に入る。離れ離れにならないように衣服やリュックサックを掴んで進んでいった。人混みから抜けた場所に出て鈴がスマートホンを取り出して地図を確認する。
「今回は夜さんに楽しんでもらおうと思ってリサーチばバッチリです! 大船に乗ったつもりで大丈夫です!」
鈴がピースサインをする。夜はわかった、楽しみだな! と言った。大宙と鈴は夜を連れて、原宿で人気店へ向かったのだった。
最初にやってきたのは最新アイテムが手に入るファッションストア。あまり派手なものは着ない夜にはディスプレイされている服のデザインが全て新鮮に見えた。店内にいる人たちもおしゃれで気がひけるほどだ。
「すごいね・・・」
「いいのあったら買うのも手ですよ。俺は止めません!」
大宙は夜に言った。夜は考えた。最新アイテムはなかなか手を出せない。だったら舞台稽古で使えるTシャツを買おうとTシャツを置いてある場所へ向かった。そこには様々な柄がプリントされたTシャツがたくさん置いてあった。迷い甲斐がある。
「これは迷うなあ・・・」
迷いながらもどこか楽しそうな顔をしている夜の横顔。大宙と鈴も夜が気に入りそうなTシャツを探して夜に勧めてみた。
「夜さん! これはどうですか? とても可愛いですよ」
「確かに!」
「いやいや夜さん! 鈴のは可愛すぎます。これの方が夜さんに似合います!
「うう・・・、それもいい・・・」
夜はどちらも好きなTシャツに板挟みに遭う。しかし迷うということに苦痛を感じなかった。結局迷いに迷って大宙と鈴が勧めてくれたTシャツ二枚お買い上げという結末になった。
その袋を持って店を出るとそれを夜はリュックサックに入れる。いい買い物したなーと満足げだ。
「夜さん。二着買って大丈夫ですか? お金とか」
「だって俺に似合うものを二人が選んでくれたってことでしょ? 二人が勧めてくれたものなら買わなきゃね」
夜の笑顔に大宙と鈴はあまりの嬉しさに心が浄化されるような気持ちになる。まるで夜からマイナスイオンが溢れ出ているようだった。そのまま次の目的地へ移動する。
ちょうど時間もお昼に近い。次に入ったのは今話題になっているハンバーガー屋。店の近くにはすでに列ができていた。三人も急いでハンバーガー屋の列に並ぶ。
「そんなに人気なの?」
「実は、素材にこだわって作っているらしくてお肉が美味しいって話題なんですよ! しかもボリューミーでお腹いっぱい間違いなしなのでここにしたんです」
鈴がそう言った。へえ、と言いながら夜が店内を覗くとたくさんの人たちがハンバーガーをかぶりついている。とても美味しそうに食べている光景を見て、夜もだんだんと食べたい気持ちで溢れてくる。
ようやく店内に入り、注文を決める。三人はメニューを開く。夜はどれにしようかと迷ってしまう。すると大宙はメニューに指差して言った。
「俺はこれにします。夜さんはどうします?」
「迷っちゃって」
「だったらこれにしませんか? このお店の定番メニューです。初めてならこれのほうが鉄板ですよ」
夜は大宙の勧めに乗り、定番メニューを注文することにした。
「すいません。HAJIKEチーズプレミアムひとつと、メガ肉盛りバーガーひとつと、HAJIKERO!スペシャルバーガーひとつお願いします」
注文を済ませて店内のイートインスペースに座って待っていると、店員が三人分のハンバーガーを届けてくれた。
「お待たせいたしました。HAJIKEチーズプレミアムとメガ肉盛りバーガーとHAJIKERO!スペシャルバーガーでございます」
目の前に三種類のハンバーガーが並んだ。すごーい! と声を漏らす三人。夜は思わずスマートホンで写真を撮影してしまう。そして三人で手を合わせていただく。
「いただきます!」
夜はハンバーガーを掴むと口を大きく開けて頬張る。すると口の中に肉汁が溢れて、旨味が溢れて止まらない。
「美味しい!」
夜がそう言うと、大宙と鈴も美味しい! と叫んだ。
「チーズがとろけるぅ〜! 最高!」
「肉が溢れそう! もううますぎる!」
「さすが素材にこだわっている理由がわかる気がする。今まで食べたことないや!」
三人が各々の感想を口にして絶品ハンバーガーを堪能した。
お腹がいっぱいになった三人はハンバーガー店を後にする。夜はずっと笑っていた。心から楽しんでいる様子に大宙と鈴は小さくガッツポーズをした。原宿の街はたくさんの人が行き交い、目に入るもの全てが新鮮で子供のように心が弾んだ。
原宿にある憩いの公園へ行ったり、路上ライブを観覧したりと小さな名所に向かった。移動するときも夜と大宙、鈴はいろいろな話を展開した。今までの稽古の中で生まれた面白い話や、第一回公演の後の打ち上げでのエピソードを話した。
夜はふと視線を移動させた。その先に、中学生が二人組で楽しそうに歩いていた。夜の脳裏に様々な思いがよぎる。夜の心のざわめきはまるで原宿を吹き抜ける風の音そのもの。
思わず足を止めてしまった。
「夜さん?」
大宙の声もどんどん遠ざかっていく。あんなに賑やかな原宿の雑踏はどんどんとかき消されていく。心のざわめきは暴風となって吹き抜ける。しかし、夜はその思いをグッと断ち切る。
「夜さん。大丈夫ですか?」
「もしかして私のプランに不満でも・・・?」
突然立ち止まった夜に大宙と鈴が心配して声をかけた。夜がハッとする。
「ごめん。ぼっとしてた」
夜がそう言うが大宙は気づいていた。夜の視線の先には制服を着た中学生。やはり、ぽっかり空いた記憶を楽しい記憶で塗り替えてしまおう、というのは難しいものだろうか・・・。大宙はそう考えてしまう。
「今日は大宙と鈴ちゃんが俺に楽しい思い出をプレゼントしてくれるんでしょ? 俺はすごく楽しいし、次に行く場所も楽しみだよ」
「本当ですか?」
鈴が不安そうに聞くと夜は本当、と肯定した。
「欲しいTシャツも買えたし、話題のハンバーガーも食べられたし・・・。すごく楽しいよ。俺のためにありがとう。友達と行くとこんなに楽しいんだね。中学生の頃にはなかなか味わえなかったものを味わうなんて、俺は贅沢だなって思うよ」
夜が笑った。
それを見て鈴と大宙は安心した。原宿大作戦は確実に効果がある。
すると大宙がスマートホンの画面を見て慌てる。それを鈴に見せてさらに慌てる。
「大変! 急いで行きましょう!」
「?!」
大宙が夜の手を握って原宿を走る。ちょっと! と夜の声は聞こえない。さらに大宙の足は速くて風を切る音が全然違った。
「ど、どこに行くの?!」
「あるお店を予約したんです! その予約時間がもうすぐなんです!」
「お店?!」
「そーです!」
夜を連れて大宙と鈴は急いで目的地の店へ向かった。
到着したのは先ほどのハンバーガー店とは真逆のお店だった。やってきたのは、原宿で大人気のパンケーキ専門店。ここに来れば美味しいパンケーキが食べられ、さらに、そのビジュアルも可愛いということでSNS映え必至のある意味ホットスポットだ。
「時間予約をしたのですんなり店内に入ってパンケーキを食べられますよ!」
鈴はピースサインをした。
スマートホンに映し出された予約明細を見せて、店内へ入る。店内はまるで雲の中のように白い内装、木の机と椅子。そこに座り、メニューを開く。先ほどとは打って変わり、パンケーキ一色のメニューだ。
「俺はこれにしようかな」
夜は指をさしてパンケーキを決める。
「すいません。森の贈り物パンケーキ三つお願いします。トッピングは・・・どうする?」
夜がそう聞くとまずは鈴が口を開いて注文をする。その次に大宙、夜の順番でトッピングを注文していく。
「私はホイップクリームとチョコレートソースにバナナで」
「俺はフルーツトッピングの蜂蜜で」
「俺はホイップクリームといちごとラズベリーソースで」
三人の個性が出るトッピングをそれぞれ注文した。
数分後。三人バラバラのトッピングが乗せられたパンケーキが到着する。どれも彩りが良く美味しそうだ。また写真を撮る。挙げ句の果てには三人揃ってパンケーキを手に持って写真を撮影してもらった。
「さ、食べよう!」
三人は手を合わせてパンケーキを食べる。口の中に甘いクリームやフルーツが入り、頬を緩ませる。さすが予約が必要なお店だなーと夜は思った。
「ありがとう。大宙、鈴ちゃん。こんな美味しいパンケーキの店に連れてきてくれて」
「いえいえ。いいんですよ。夜さんが楽しいんだったら私たちも楽しいです」
鈴はそう言った。夜はパンケーキを頬張りながら大宙や鈴と楽しく談笑する。すると、夜の頭にカチッと時計の針が進んだ音がした。夜はその場で固まる。
頭の中に浮かんだのは、自分が演じるクリスの姿。そのクリスの思いがじわじわと伝わってくる。それは夜がずっと欲しかったもの。記憶がなくて手に入らないと諦めていたもの。
しかし、それは中学生ではない。これは中学生なのかは知らない。しかし、夜にはクリスの姿が頭の中ではっきりと想像できたのだ。
「夜さん? どうしました?」
「見えた・・・」
「へ?」
「クリスが・・・見えた・・・。楽しい・・・、きっとこの気持ちだ」
夜がそう言った。大宙が本当ですか? と乗り出す。夜はうん! と頷いた。そして心の中で思った。
消したくて消したくてたまらない記憶のぽっかりと空いた場所に楽しい思い出がするっと入っていった気がする。俺はこんなにも大切に思ってくれる仲間がいるんだ・・・。もう独りじゃない。前へ進もう、みんなといい舞台を作り上げよう。俺はできる・・・。
夜はパンケーキを口の中に入れた。ラズベリーソースが最初は甘かったが、今はどこか酸っぱく感じた。
時間は過ぎて四時。そろそろ帰ろうか、と大宙が言った時夜が二人に手を合わせ頼み込んだ。夜に頼まれてやってきたのは原宿の商業ビルの中にある雑貨屋。そこには人気のアイテムから便利グッズなどが並びたくさんのお客さんで賑わう場所。
夜は店に入るや否や、カゴを片手に店の中を縦横無尽に駆け回る。そしてどんどんカゴの中へ入れていく。一体何を買っているのかを二人は一切確認できない。
十五分後。
会計を済ませて夜が商品を入れた紙袋を持って二人の元へ戻ってきた。
「何を買ってきたんですか?」
鈴がそう聞くと夜は笑って言った。
「みんなへのお土産だよ」
「お土産ですか?!」
大宙が驚いている。お土産の量がとても多い。すると夜はゴソゴソと紙袋を漁る。取り出したのは、タオルと可愛い財布だった。タオルを大宙に、財布を鈴に渡した。
「これはお礼だよ」
「夜さん!」
大宙と鈴はまたまた驚いた。夜はありがとう、と言って歩き出した。大宙と鈴はお互いに顔を見合わせてすぐに夜の後を追いかけて行った。
「夜さん! 最高です!」
こうして一日かけて行った原宿大作戦は成功以上のものを成し遂げたのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。
*この物語はフィクションです。登場する地名、店名などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ございません。今後、地名が登場する部分があるかと思われますが、実在のものとは一切関係ございませんのでどうぞご了承ください。
藤波真夏




