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夢の舞台はポラリスで  作者: 藤波真夏
Program No,02「ベストフレンド」
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Practice2 夜の見た景色

昨日は眼精疲労が悪化して、執筆できずに終わりました。とりあえずは完成したので、最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏

Practice2 夜の見た景色

 稽古初日。

 レッスンルームではぞろぞろと六人が揃いだす。新しい演目に心機一転して取り組む姿勢が見える。

「よし、まずは読み合わせからやろう」

 ハジメに言われて椅子と机を設置し、読み合わせを始める。先週にもらった台本であったが一応一通りに目を通した。しかし、細かいところは読み解いていない。

 改めて台本を開くと夜は息を吐く。

 第一回公演の時のセリフ量とは比べものにならないくらいの膨大な量。こんな量を弦はこなしていたというのかと思うと尊敬してしまう。

「夜さん。大丈夫ですか?」

「え?! あ、大丈夫大丈夫! ぼーっとしちゃっただけだから!」

 大宙に話しかけられて夜は我に返った。そしてすぐに読み合わせが始まった。

 読み合わせが終了すると、ハジメが言っていた「秘密」の正体を知り夜は口をあんぐりとさせた。ベストフレンドの意味がようやく理解できたようだった。

「まさかまさか・・・」

 夜だけではなく、チームポラリス全員が息を吐いた。主演として頑張らないと、と夜は改めて気持ちを奮い立たせるのだった。

 台本を持ったままの軽い立ち稽古が始まった。


『今日もいい天気だ!』


 夜はクリスの役を掴んでいる状態ではないが、とりあえずやってみることにした。もしかしたら何かクリスを掴むヒントが突如として降りてくるかもしれないからだ。

 それを見たハジメはいきなり手を叩いて夜の動きを止めた。

「夜! クリスは中学生だよ。そこを踏まえてもう一回やってみて」

「はい!」

 夜はもう一回同じセリフを使ってもう一度やってみる。しかしどうしても中学生らしさはほぼない。夜自身が大学生で中学生の頃の感覚を失ってしまっていることが原因と思われた。

 どう頑張っても夜には中学生の頃を思い出せるものはほとんど残っていない。

「まあ少しずつ掴んでいけばいいよ」

 ハジメはそう言って夜の稽古を一旦切り上げて、他の部分の稽古に移る。夜はいきなり壁にぶつかることになった。

 その様子を大宙は近くで見ていた。しかし声はかけられなかった。

 高校生が演じる中学生と大学生が演じる中学生では、感覚はまるで違う。大宙は夜が少し焦りを持ち始めていることになかなか気付かなかった。

 お互い初めての主演、準主演。

 「頑張らなきゃ」。この気持ちが引き金となり悪い方向へ行ってしまっているのだ。

「夜くん?」

 大宙よりも敏感だったのは瑠衣だった。夜の背中が少し寂しそうだった。瑠衣は話しかけようとするがなかなか一歩が踏み出せなかった。

 一方の夜は気持ちを一新するために飲み物を一気飲みした。すると飲み物が気管に入り、激しく咳き込み出す。

「何してるの、夜。なんで一気飲み?!」

 七海が夜の背中をさする。

 すると夜の頭の中にある光景が浮かんだ。

 学校の教室。騒いでいるクラスメイト。そして一人席で本を読んでいる学ラン姿の夜。頭の奥底に封印されていた過去の記憶だった。

 記憶のフラッシュバックに夜は戸惑う。奥底に封印していたパンドラの箱を開けたかのような感覚だ。

「夜? 大丈夫? 体調でも悪いの?」

 硬直した夜に七海が話しかける。すると再び夜はハッと我に戻った。七海の質問に大丈夫です! と何度も弁明した。

 ハジメもその様子を見ていた。ハジメは思った。もしかしたら夜は過去に囚われいるのではないかと。しかしそれを聞くタイミングは今ではない。それに今は手を出すべきではない。ハジメはそう決めた。

「夜。体調が悪いなら見学でもいいけど」

「い、いえ! 俺、元気ですよ! ちょっと暑さでぼーっとしちゃっただけです!」

 夜がそう言った。

 稽古は進んで行く。そして台本を持ったまま、夜と大宙の掛け合いのシーンを行った。ハジメの手打ちとともに台本に書かれたセリフを読む。


『やあ。僕はレイ。よろしくね』

『あ、僕はクリス。よろしく・・・』


 それを聞いてハジメは二人を呼ぶ。

「上出来だ。やっぱり大学生が中学生を演じるのは難しいかもしれないけど、自分なりに研究してみたらいいと思うよ。分からなければ大宙や鈴に聞くのも手だぞ」

「はい」

 夜は力なく返事した。やはり中学生らしさというのが表現できないでいた。しかしまだ稽古初日で焦りを生む必要はないはずだった。しかし、夜は少し焦りを感じていた。

 軽い立ち稽古の後、ハジメは全員を呼んだ。稽古終わりの最終ミーティングだ。

「まずは稽古お疲れ様。これから一ヶ月半後の公演に向けて稽古を積み重ねていくよ。でもね・・・」

 ハジメは苦い顔をする。ハジメの手には紙の束。それを見てなんですか、それ? と首をかしげる。しかし弦には見覚えがあった。

「アンケートですね?」

「正解。今回の公演を見たお客さんに任意でアンケートを記入してもらって提出してもらったんだ。それを一通り読んだよ」

 六人の息を飲む音が聞こえてきた。自分たちの演技に評価などハジメ以外初めてだ。素人ら見てどう映るのか知りたいが、反面怖い。

「まだまだ荒削りなところはあるが、今後に期待だな。でも七海の動きは評価が高いぞ! 褒め言葉だ」

 七海は胸をなでおろした。しかし、ハジメも頭を抱える問題が出てきた。

「やはり体力不足は否めないか・・・。次の稽古からは極力体力アップを重視していくから、みんなもそのつもりでウォーミングアップとかしてね」

 ハジメはそう言った。



 稽古が終わり、全員家路につく。

 夜は一人歩いて家へ帰った。自室へ入るとベッドにダイブした。枕に向かって弱音をため息に替えて吐き出した。青を基調とした部屋でいかにも男子大学生らしい内装の部屋。部屋の本棚には夜の思い出の品やアルバムがしまわれていた。

 夜は中学校の卒業アルバムを開いた。そこにはたくさんのクラスメイト。その中にいる中学生の時の桜田夜は・・・笑っていなかった。

「なんであの光景が今?」

 中学生の時の感覚を思い出そうとしてフラッシュバックを起こしたのか、原因はわからない。夜は部屋で一人悶々と悩み続けるのであった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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