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夢の舞台はポラリスで  作者: 藤波真夏
Program No,08「日本童話物語」
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After the closing1 甘く優しい

Aftre the closing1 甘く優しい

 舞台が暗闇に包まれた。

 すると音楽が鳴り始めて舞台が明るくなる。舞台両サイドから出演者が再登場する。夜を中心に並ぶ。全員が並び終わると観客席から拍手が送られた。灯は観客席を見回した後、口を動かした。


「本日は誠にありがとうございました!」


 夜の後に残りの五人も同じことを言って全員で頭を下げた。その瞬間、拍手がドッとあふれた。

 観客席に手を振りながら全員退場する。そして夜だけは大事な絵本を胸に抱いて観客に向かってもう一度頭を下げた。すると再び拍手が起こり、夜は笑顔で舞台を降りたのだった。

 舞台裏ではハジメが六人を待ち構えていた。

「みんな。お疲れ様!」

 ハジメの笑顔に緊張の糸が切れて全員が笑顔になっていた。夜も安堵に満ちた表情で小道具の絵本を抱きしめていた。

「夜。よく頑張ったね」

「・・・はい!」

 夜は目からあふれた涙を拭って夜も眩しいほどの笑顔を見せた。その隣で弦は静かに見守っていた。

 舞台は無事に閉幕となり、客席に座っていたお客さんたちはぞろぞろと帰っていく。お客さんを送るのは壁の電極。まるでイルミネーションのように輝く。最前列に座っていた新井はなかなか立てずにいた。それに気づいたみのりが新井に声をかけた。

「あなた。そろそろ行きませんと」

「・・・」

「あなた?」

「もう一度会いたいと思っていた坂上に会えたんだ・・・。この席を立てば、もう二度と坂上に会えない気がする」

 新井はそう言った。

 夜が演じた若かりし頃の新井はおじいさんとなった今でも、そこまで変化はないことに思い知らされる。涙を自然に流しているのは、本当に新井が優しい人である証拠であり今だに色褪せない少年のような清い心を持っている証拠であった。

 チームポラリスは衣装を着たまま束の間の休憩を取っていた。お互いに成功の喜びを分かち合っていると、ハジメがやってきた。

「役者面会の時間だよ」

 チームポラリスのメンバーそれぞれが招待した人たちとの面会の時間である。六人は面会が実施される会議室へ移動する。そこには、夜の家族が全員揃っていた。夜は家族の元へ駆け寄る。

「父さん、母さん! 兄さんに姉さんまで!」

「夜! すごくよかったぞ!」

「本当! 最初の頃よりも成長したわね!」

 夜の両親は夜の活躍に感激して、褒めた。そして倭と皇も夜にお疲れさんと労いの言葉をかけた。皇は少しそっけない態度をとったが、夜は咎めることはしなかった。このそっけなさが皇の最大の褒め言葉であるからだ。

 人を褒めることがあまり得意でない皇が見せる珍しい姿だった。

 そんな関係者への挨拶をしているところへ、川田がやってくる。川田がハジメの耳に耳打ちをする。ハジメは驚いて一度六人を集める。ハジメから詳細を聞いた全員は驚いたものの、それを快諾した。

 待つこと数分。

 川田と共に会議室にやってきたのは、新井とみのりだった。

 二人を見た夜は駆け寄った。

「新井さん! 奥様!」

 夜の言葉を聞いて残りの五人は驚いて口を開けた。

「あれが新井灯先生?!」

「初めて見たかも!」

 五人のことはさておき、夜は新井の元へと急いで向かった。新井は夜の顔を見るやいなや笑顔で迎えてくれた。

「桜田くん。素晴らしかったですよ」

「本当ですか?!」

「はい。本当に私の若い頃にそっくりですね」

 新井の優しさが夜との会話で滲み出ている。それは新井としっかり話したことのない五人にも感じるほどだ。新井とみのりに五人は改めて挨拶をする。

「野上裕太役の黒川大宙です」

「素晴らしかったですよ。野上さんは本当に私の絵本出版に尽力してくださった方ですからね」

「山口京子役の綾瀬瑠衣ともうします」

「山口さんは真面目で厳しい方でした。山口さんは私に現実を見せてくれた人でしたね。素晴らしかったですよ」

「鈴川明子役の東七海です」

「鈴川先生の作品は私にとってお手本でした。きっと鈴川先生もお喜びのことでしょう」

 新井は一人一人に褒め言葉をかけていった。

「加納みのり役の及川鈴です」

 鈴が挨拶をすると新井よりも早く新井の妻・みのりが鈴に話しかけていた。

「あなたが演じていたんですね。こんな可愛いお嬢さんが・・・」

「へ?」

「私は新井みのり。あなたが演じた加納みのりは私のことですよ」

 その言葉にまたさらに驚いた。劇中で登場した加納みのりが数年後には新井の妻になっていることに驚いた。鈴は本物のみのりと握手をした。鈴は驚きのあまり顔が赤く高揚していた。

「本物?!」

「本当にこんなに可愛いお嬢さんが演じてくれるなんて嬉しいわ。本当にお疲れ様」

「あ、ありがとうございます!」

 鈴はお礼を言った。そして新井の視線は弦へと振り注ぐ。

「坂上唯人役の山崎弦です」

「私は山崎くんにお礼が言いたいのです。私の大親友を演じてくれて本当にありがとう。坂上は、病気によって志半ばでこの世を去りました。坂上は私の人生を変えた、永遠の親友なのですよ」

「はい。存じております。新井さんが坂上さんをとても信頼し、親友として親しい間柄にあったこと。しかし、俺はここまで新井さんが坂上さんのことを思い続けているとは思いませんでした」

 弦がそう言うと、新井は目尻から涙を流した。

「山崎くんは坂上に似ていますね。もう二度と会うことはないと思っていた永遠の親友にこのような形で再会できて・・・嬉しいのですよ。山崎くん、この老いぼれにもう一度坂上に会わせてくれてありがとう」

 弦は深く頭を下げた。こちらこそこのような役に出会えたことに感謝します、と言った。

 そして最後に夜の元へ向かう。

「桜田くん。私を演じてくれてありがとう。君の演じている姿を見て私も昔を思い出していました。桜田くんに出会えて本当によかったです」

「こちらこそ。俺もまた一つ先に進めました」

 夜は笑った。

 それを見て安心したかのように新井は夜の肩に手を置いた。そして優しく夜の頭を撫でた。

「忘れないでくださいね。想像力を持ち続けることを。そうすれば、様々な出来事の解決の糸口をつかめるかもしれません。いつまでもその優しさと想像力を持ち続けてくださいね」

「はい! 新井先生!」

 夜は大きな声でその場で新井に約束を誓う。その様子を遠くから見ていたハジメも安心した表情を見せていた。

 その後、新井とみのりを含めてチームポラリス全員で記念撮影をした。その写真は現像されて全員に配られた。写真の中の新井の笑顔はどこか少年のように見えたのだった。

 新井はハジメを見つけるとハジメに話しかけた。

「宮原さん。今回はありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ本当にありがとうございました。まさか、こんなことになるとは、人生というものは不思議ですね。

 ハジメは恐縮です、と頭を下げた。すると新井は衣装を脱いで元の服装に戻ったチームポラリス全員に目を向けて優しく微笑んだ。

「彼らはこの先どんな風に成長してくれるのか楽しみです。宮原さんはそれを見届けられるのですね」

「そうですね。僕の夢はここにいるみんなの夢でもありますから」

「宮原さんもその思いを持ち続けてくださいね。私は今後も童話を書き続けます」

 新井の言葉はハジメの心にもグサッと刺さった。ハジメは「はい」と返事をした。

 ハジメはいつまでも色褪せることのない優しさの塊をこの目ではっきりと見たのである。


 こうしてチームポラリス初めての依頼公演を成功させた。その成功の秘訣は、「優しさ」かもしれない。新井の褒め言葉の嵐を持って、依頼公演である『日本童話物語』は幕を閉じたのだった。



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