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悪妃マドレーヌの断恋

作者: ゆめひつじ

「愛されたいと願うのが罪だというのなら、私は喜んでその罪を受けましょう。

断首刑にでも毒薬でもどうぞ。何でも喜んで受けますわ。」


ある一人の女が王の前で跪きながら叫んだ。


周囲はその女と王の対話を息を飲んで傍観していた。


「このマドレーヌ・カトレア、逃げも隠れもしませんわよ。」


ギリッと王が唇を噛みマドレーヌに問うた。


「お前はまだ自分の犯した大罪を認めもせず、愛だという幻のようなもので正当化させようと言うのか。

小賢しいにも程がある。」


「小賢しい?大罪?」


「大罪だろう!気に入らないという身勝手な言い分で側室を殺した罪は重い!」


「殺した?証拠はありますの?死体もないのに?」


「皆が噂で言っている、お前が殺してしまったと。」


「王ともあろう者が噂だけで決めつけるなんて・・・。

一時だけでもあなたを愛したことを後悔しますわ。」


あの噂を私が流して、私があの子達を逃がしたとも知らずに。


せめて皆の前で罪を問う以前に私に確認してからという考えはなかったのかしら。


「煩い!お前を傍に置いたことを後悔するのはこっちも同じだ!」


マドレーヌは引き攣るような笑みを王へ向けた。

「愛しているから共にいてほしい、と無理矢理あの人と私を別れさせておいてそれを仰るの?

私、全て知っていますのよ?

私を手に入れる為にあの人の家業を廃業一歩手前までしておいて、あの人に私と別れるなら国から補助金をだしてやってもいい、と言ったでしょう?

私と王様、どちらが小賢しいのかしら。」

「そ、それは・・・!」

「最初は恨みましたわ。

哀しくて憎くてしょうがありませんでした。

でも人って結構簡単に心変わりしますのね。

あの人が結婚したと聞いて一気に王様への恨みもあの人への愛も冷めてしまいましたの。

それに王様があまりにも私を愛してくださるから、いつしか私も王様を愛してしまっていた。

結局、あの人も私ではない誰かと結婚して私も妃になった。」

ふふふ、とマドレーヌが笑うと王が訝し気にその様子を見つめた。

「ねえ、王様は覚えていらっしゃるかしら。

私を妃として迎えたいと一緒に言った言葉を。

王妃は愛していない、国の為に仕方なくいるだけ。


マドレーヌ、愛するのは君だけだ。


だけどそれも嘘。

私が王様の愛に応えた瞬間、その約束は反故されてしまった。

短い夢のあっけない終わり。

あなたは私を裏切り次々に他の女を手籠めにした。

しかも私を手に入れた手口とそっくりの方法ばかり。

家のことや愛する人のことを盾にとるその腐りきった方法で、

資産家のご令嬢にも女官にも、ましてや私が連れてきた侍女にさえも。」


「何を言っている!

この者が言っていることは全て妄言だ!」

焦るようにマドレーヌの口を塞ぐよう命令を下すが誰もそれに応じようとはしない。

「おい!早くするんだ!」


その時、スッと周囲から抜け出て一人の男性がマドレーヌの細い腕を優しく掴み立ち上がらせた。

「馬鹿だねえ、もう誰も兄貴の言うことを聞く者などこの国にはいないよ。」

「キルナ!」

「マドレーヌのおかげで全て終わったよ。」

「そう、終わりましたの。良かったですわ。

これでこの腐った元を取り除き新たな素晴らしい国の幕開けですわね。」

「どういうことだ!キルナ!お前はただの第二王子だろう!

何故お前が王騎士を従えている!」

キルナの後ろには王だけに従う王騎士が、何かあればすぐに剣を抜けるように待機している。

「煩いなあ、少し黙りなよ。

自業自得、兄貴が悪いんだろう?

女を手に入れる為に国庫をどれだけ使い込んだか分かっているのか?

それだけでは足りずに優秀な者の芽を摘み脅かし遠方への追放。

このままでは国は破綻し自滅するのみ。

前王は兄貴にこの国の繁栄を託したはずなのに。」

「キルナ・・・。」

「だけど、それも俺の勘違いだったようだね。

兄貴の悪政をもう見ているのは耐えられないよ。

だから、もう終わりだ。」

「何を言っている!」

「王の座はもう僕のものだ。

兄貴が女に現を抜かしている間に重臣も兵も国民も全て僕の味方になったよ。

知らないのは兄貴だけ、まるで裸の王様だね。」

カッと王が怒り心頭し傍にいた兵も剣を抜き取りキルナの首を取ろうとしたが、その剣の矛先は傍にいた王騎士によって簡単に弾き飛ばされてしまった。

「私達の為に色々な方が喜んで手を貸してくれましたわ。」


悪妃と呼ばれたマドレーヌだったが本当はそうではない。


王に虐げられ愛されていなかった王妃を助けたのもマドレーヌだった。

「王妃様は病弱ですわ、一度実家で養生してもらいましょう。」

しかし王妃は健康そのもので回りの者は追い出しにかかっていると思ったがそうではない。

王妃には幼少の頃から秘密ながらに恋慕う者がいた。

だが実家の位の高さが災いし王妃へとなるしかなくなっていた。

もう希望も何もない人生が嫌だ、と泣いているのをマドレーヌが見つけ相談にのると

「わかりましたわ。一度実家に戻りませんか?

私にちょっと考えがありますの。

事が終わるまでは少し知らぬ存ぜぬをしていてほしいのですけれど。

上手くいけば王を代えることができますわ、そうすれば王妃様はお役御免。

また変な縁談が来る前に、さっさとその方と既成事実でも作ってしまいなさいな。」

「そ、んな。

マドレーヌ、あなた一体何を考えているの?」

「私にも腹に据え代えぬものがありましてね。

女をないがしろにするあの姿勢が許せませんの。

このままじゃ犠牲者も国庫不足の赤字も増えるだけ。

そろそろいつまでも勝手気ままが許されると思っている傍若無人には引っ込んでもらいますわ。」

二コリと笑ってマドレーヌは王妃を見送った。



王が追放され、今からこの王座はキルナのものとなる宣言がされるのをマドレーヌはぼんやりと眺めていた。王の背中が小さくなり最後には豆粒ほどになり消えた。

横ではキルナが王冠を乗せられ満足そうに喜んでいる。

「マドレーヌのおかげだ、君が前王妃を追い出してくれたおかげでやりやすくなったんだ。」

「そう。」

「前王妃派だけがあの兄貴の盾だったから邪魔だったんだ。

まあ前王妃本人は知らないだろうけどな。」

前王妃や資産家の令嬢の家は前王の盾と剣だった。

そして女官はキルナと敵対していた一派の一員だった。

侍女は父からマドレーヌを見張れと命令された高飛車なお目付け役だった。

どれもこれも邪魔だった。

王に復讐するのに邪魔でしょうがなかった。


マドレーヌは見下していた弟に下剋上され哀れに王座を追われるのが一番の復讐だと計画した。


キルナに近づき体の関係を持ったのも、それを恋だと思い込ませるのも全て計画のうち。


マドレーヌがわざと悪者になるような噂を流し王から遠ざかったのも計画のうち。


みんな出て行った後からその噂を聞いてマドレーヌに謝罪と感謝の気持ちでいっぱいになった。

自分を助けるために真実を言わず自分を守ってくれてる、と。

だが真実は違う。

みんなの弱味に付け込み自ら出て行くようにしむけた。

ただマドレーヌはそれを助けただけのこと。

けっして善良からの行いではなかった。


「さようなら、好きだった。」


本当に好きだったからここまで出来た気がする。

裏切られた悲しみと憎しみが原動力だったのかもしれない。


「だけどこれで、もう、全部終わり。」


これにて悪妃とよばれたマドレーヌと色狂いと呼ばれた前王との恋は完全に断たれた。


「マドレーヌ、俺は君と国民を裏切るような真似はしない。

君と二人で良い国を作ろう。手を貸してくれるね?」


「ええ、もちろんですわ。」


今から始まるのは善妃とよばれることになるマドレーヌの話である。






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