薬草
「げほん、げほん」
辺境の村にある、ひとつの小さな家の中。まだ十にも満たない幼い少女が、ベッドの上で苦しそうにしている。
「待ってて、今すぐにわたしが、森から薬草を採ってきてあげるから」
ベッドで寝ている幼女よりも幾分か年上の少女が、そう口に出す。
少女は自分の妹に口づけすると、家を出て村の外れにある森へ向かう。
森はひどく薄暗い。地面は雨でも降った後のように湿っている。頭上に生い茂る木々の葉が陽光を遮っているせいで、昼間でもここはこんなに陰鬱としているのだろう。
少女は勇気を振り絞り、この悪魔が寝床にしていそうな森のなかに入って行く。
森は気持ちが悪いほどの静寂さだ。鳥の不気味な鳴き声と、木々の囁くようなざわめき以外はなにも聞こえない。まるで静謐な死が森全体を包み込んでいるかのよう。ここには邪悪な魔女や人肉を貪り食う魔物たちが潜んでいるのではないか、そんな幼稚な妄想さえが正当化されてしまうそうなほど、ここの雰囲気は暗い。
少女は一歩足を踏み出すごとに、自分が冥界へ突き進んでいるかのような感覚を覚える。死が、少女自身を睨んでいるような気がする。冷たい風は人々の心臓を邪悪な儀式の生贄に捧げる魔女の息吹のように感じられる。
けどこんなところで怖気づいて、引き返すわけにはいかない。家で病気の妹が待っているのだ。少女は自身を叱咤して、森の冷酷な視線から耐える努力をする。
その努力が、ようやく報われるときがやってきた。少女は木の根元に生えている、森の薬草を発見する。
薬草を手に入れた以上、もうこんな薄暗いところに用はない。
少女は駆けるように森を抜け、病気の妹が待っている自宅まで戻ってくる。
薬草を煎じて飲ませると、妹の病気は良くなり始め、やがて全快した。