第56話 本当の勝者
ゲルベックとの戦争が終わって一ヶ月後。
魔界国首都。
ガルゼニスの結婚式に呼ばれたアルバート、カイン、ルージュはポノノ村から揃って式に行った。
「おう!お前ら、元気だったか?」
一ヶ月ぶりに見たリリヤは変わらず、食事をしている最中であった。
「相変わらず卑しい食べ方をしていますね…」
呆れ顔で近づいてくるファルゼンがそう言うと、
「うるせぇ、バーカ!バーカ!」
と、リリヤはファルゼンを罵った。普通に食べていたリリヤにとっては不快な気分にさせられたかもしれないが、骨付きチキンを豪快に食べる姿は、確かにリリヤのような容姿の持ち主には似合わない。
「あの事件が終わって平和になってよかったよ。ガルゼニスも戦争のせいで結婚式を遅らせていたそうだし」
カインはしみじみとそう言った。
ガルゼニスは盛大な死亡フラグを見事回避したようである。
「あぁ、終わったんだよなぁ~。なんかすごい事件に関わったっていう実感が無いけどな」
アルバートが大昔の思い出のような雰囲気で語ると、
「しかし、まだ事件…というか戦争はまだ完全に終わっていませんよ」
と、ファルゼンが不吉な事を言い出した。
「それは一体どういう…?」
ルージュが恐る恐る尋ねると、
「まだ帝国軍の残党が全員捕まっていません。それにまだ各国内に帝国側のスパイが居る可能性があります」
そう言ったファルゼンは疲れ切ったような表情で言った。もしかしたらエルフ国政府の役人であるファルゼンはあれから事後処理に追われているのだろうか。以前会った時よりも少しやつれた感じがする。
「あ、そうそう。エルフ国で人形達を勝手に直し我々と戦わせたのはエルフ国元老院のファーシング殿らしいそうですよ」
と、唐突にファルゼンは言った。
「あぁ…、あぁ!あの鼻につく話し方をしていた奴か!どうなった?」
アルバートがファージングという人物を思い出し、ファルゼンにファーシングの事について聞いた。
「逃げられてしまったようです」
と、ファルゼンはやれやれ…、という素振りをした。
どうやら完全に事件は片付いていないらしい。ファルゼンの話だと傀儡兵もゲルベックが死んだ事で動きを止めると思いきや、今だ活動を続け軍の討伐も続いているらしい。傀儡の数も把握出来ていないため、いつ終わるかわからない。
そしてファルゼンは敵が潜んで居そうなエルフ国内の遺跡で、調査隊と一緒にほぼ毎日探索しているらしい。疲れている顔をしているのはそのせいであろう。
ルグニア王国、魔界国、エルフ国の裏切り者の調査は未だ続いているらしい。
一番問題なことは、ゲルベックの側近の中の側近である『セテノラック・クラフト』少佐(ペインルージ帝国では中将)が逃亡を続けているということだ。現在残党軍の中では一番厄介な敵だろう…。
「ま、後の事は軍の方がなんとかするでしょう」
ずいぶんと楽天的なファルゼンである。どうやらこの事件の後、ファルゼンの古代技術の知識が買われ、特務調査員として古代技術の研究をすることが許されたという。しかもこの戦後に設けられた国際機関の研究者である。ファルゼンにとっては最高の終わり方だったため後はどうでもいいのだろうか。アルバートはそんな事を考えてファルゼンを見ていると、
「今、失礼なことを考えていましたね?」
と、首をアルバートの方へ向けファルゼンは笑顔のまま言った。邪悪な笑顔である。
「「ひぃ!」」
アルバートとカインは驚き顔が引つる。
式は終わりに近付く。
そして、最後のイベントでガルゼニスの嫁の『ゼナ』がブーケを投げた。
女性たちはキャーキャー言いながらも積極的に取りにいかない。おそらく貴族ばかりのため、結婚相手や時期も既に決まっているため別に取りにいかなくてもいいのだろう。
そして、たまたまリリヤの方へ飛んで来たブーケを反射的にリリヤは取った。
リリヤは始め何が起きたか理解できずにいたが、
「よっしゃぁ、次は私だ!」
と、声高らかに喜んだ。
「実に品の無い…。あなたのような人を嫁にもらう物好きを見てみたいものです…」
ファルゼンはそうニヤリと笑って言った。
その発言に対して歯ぎしりをして睨みつけるリリヤの形相は恐ろしいものであった。
「はは、この平和。続くといいなぁ」
アルバートがそう言うと、
「今すぐ壊れそうだがな」
と、ルージュがファルゼンとリリヤの方を見ながら言った。
「いや。う…ん」
アルバートは考える事を止めた。
平和が訪れた。
エルフ国、ルグニア王国、魔界国の三国はこの戦いを機に三国同盟を維持し、世界の平和を導くことになった。
三大国が同盟を結ぶ事によって、周辺の小国と共に世界政府を樹立。平和に向って共に歩み寄る事となる。これが実現できたのは彼らの発言も大きかった。『アルバート・クローゼ』『ルージュ・ダーウィン』『カイン・アルゼリン』『リリヤ・フューリー』『ファルゼン・スタンフィー』『ガルゼニス・ブライグ・ゼブル』この六人である。
彼らは悪帝ゲルベックを打倒した『六人の英雄』と呼ばれ各国からいくつもの勲章を受けた。英雄と祭り上げられた彼らが各国協力をして古代技術の開示と平和利用を推し進めたのだ。
各国も軍事利用や、外部へ危険な技術が広がらないように徹底的に管理をしつつ、平和利用できる技術は研究していくと約束した。
そして彼らの一言一言が世間を動かすという事実を自分達にも強く印象付けた出来事といえば、ゲルベックの娘の事である。
ゲルベック・ペインルージの娘『キャッシー・ペインルージ』は、悪帝の娘として牢獄されており(親族も同様。もっとも親族の大人は処刑されるかもしれなかった)、それを不快に思ったアルバート等が開放を求めた。
彼らの発言ですんなりと世間に受け入れられたキャッシー・ペインルージ(及びペインルージ親族)は開放され、その行為に否定的な意見を持っていた者もしばらくすると賛同する者へと変わっていた。
この強大な力とも言うべき彼らの発言力は彼ら自身も迷わせたが、ゲルベックとの戦いを機に彼らはゲルベック達が行おうとしていた事を真剣に考え実行できるチャンスを掴めた。
古代技術を戦わずに復活する方法。危険な古代技術をどのように管理しなくてはならないか。
それぞれがそれぞれの国で大人の世界に入り探していかなくてはならない。
戦争のない世界を目指し、ゲルベックによって露見された古代技術の緩やかな発表。奇しくもゲルベックの願いは叶ってしまったのかもしれない。もしそうであるならばゲルベックは戦勝者。…なのかもしれない。




