第53話 決戦
「ふっ…。ふはははは!」
古代の記憶から抜け出し、現実の世界へと戻ってきたゲルベックは突如笑い出した。
「今度は笑ってやがる…」
リリヤは引きつった表情で言った。先程からゲルベックは自分達の事は相手にもせず、ひたすら何かの術を行なっていた事についても不気味だった。
今はその術を行なってはいないようだが、その術自体がなんだったのかわからない。
「これで未来への布石を落とせた…。これで心置きなくこの世界の改革に力を注ぐことができる!」
ゲルベックそう言うと、初めてアルバート達の方をはっきりと見た。そして掌に魔力を固め、魔法とは言えないような技で次々と魔力弾を撃ち込む。
「アブソーブゲート!」
ガルゼニスが自身の目の前を覆うほどの黒い物体を出し、ゲルベックの魔力弾を吸収している。
「ふん」
ゲルベックは軽く笑い飛ばすと、手を横に振る。するとガルゼニスが出したダークゲートの真上に光りの線が何本も現われ垂直に落下する。
「うわっ!?」
ガルゼニスはそれを避けたが、ガルゼニスが出した"アブソーブゲート"はバラバラに切り裂かれ、腕にも攻撃がかすり負傷してしまった。
リリヤも負けじと一秒に五射、三発ずつ聖法で固めた矢を弓で放っていくが、全てゲルベックが撃ち出す魔力弾で相殺されてしまう。
「なら、これでどうだぁあああ!!」
アルバートは力を込め剣撃を一撃放つが、全てゲルベックの魔法陣の前で止まってしまう。
それ見たルージュは、剣撃をいくつも放つが、
「なんだと!?」
ルージュの剣撃も全てはね返されてしまった。
カインやファルゼンは強力な術を使用するが、ゲルベックの唱えた術でやはり相殺され、さらにカインとファルゼンの術が発動する前に邪魔をされる。
「あの時のような力を…」
カインは魔法学校で出したような強力な魔法を唱えようとしたが、
「カイン、魔法学校の時のような高出力魔法はリスクが高すぎます。高出力でも安定させる事ができる位までにしてください!」
「わ、わかった。ありがとうファルゼン」
ファルゼンのアドバイスであのような無茶な魔法を使う事を止めた。ここであの時の魔法と同等のモノを放てば自分もまた気絶し、みんなに迷惑をかける事になる。
「くっそ。拉致があかねぇ!」
アルバートはそう言うと、自身の左目に覆いかぶさる眼帯をむしるようにして取る。そしてアルバートは左目に気を込める。
いつもカインの魔法攻撃を無駄に見ていた訳ではない。通常の状態でも感じていたが、明らかにゲルベックが放つ魔法はザラつき、上手くまとまっていまいようだった。大きな魔力を使用し、魔力弾の他にも多数の魔法を形成しているため雑な部分が出てきているのだろう。だからといって普通に攻撃するだけでは奴の防御を破る事はできないし、ゲルベックの攻撃魔法を簡単に相殺したり受け流したりはできない。
しかし、今のアルバートの目には確実にゲルベックの魔法の『亀裂』が見えた。
「これで終わりだ」
ゲルベックは大規模な魔力を圧縮し、アルバート達に狙いを定める。そんなものをこちらに向けたら建物もかなりの被害がでると思うが…。だが、ゲルベックは迷わず撃ってきた。
「はぁあ!」
だが、アルバートが剣で切り裂く。不思議な事にアルバートが剣を入れたレーザータイプの魔力弾は切れていくさきから剣から先へは進むことなく消滅していった。
「なに?」
この出来事にゲルベックは訝しげな表情をする。
この時のゲルベックは頭に血が上りすぎて理解ができなかったがこの現象は単純なものである。普通の魔法で雑さが出ると、魔法の効力が落ちる事や別の効果が出てしまう事がある。
だが、今のゲルベックは自信から出る大量の魔力により魔法を無理矢理安定させているに過ぎなかったので、威力はでかいが傷をつつけば簡単に壊れるという事が起きてしまったのだ。
アルバートは魔法に関しては殆ど素人であり、カインとの訓練位である程度の対処法を知っているだけだった。だが、アルバートは自身の龍の目により魔法の亀裂を容易に見つけることができ、結果ゲルベックの魔法を打ち消してみせた。
「ヒール!」
ファルゼンはガルゼニスを回復させる。
「はぁ!」
腕の傷が元に戻り、再び突撃ガルゼニス。
「プロヴィデンス!」
ファルゼンは再び聖法を唱え、ゲルベックの真下から火柱を立てる。
「コールドスリープ…」
ゲルベックは氷系魔法を自身が立っている床から湧き出る炎に終止符を打つために火柱が出ている部分を氷で固める。
その間にすぐそこまで迫ってきたガルゼニスに対し、単純に魔力で吹き飛ばそうとしたが、
「ん?」
魔力を当てたはずのガルゼニスは吹き飛ばず、まだ向かってきた。
「ま、間に合った…」
カインがガルゼニスの前に防御魔法を形成させ守ったのであった。その防御魔法もゲルベックの攻撃により吹き飛んでしまったが、十分距離を縮める事に成功したガルゼニスは力いっぱいゲルベックに向け槍を突いた。
ブワッと当たりに風が吹く。
やったか?誰もがそう思ったが、
「…な!?」
ガルゼニスは驚く、ゲルベックは魔力の渦で覆われた槍を素手で掴んでいるのだ。
「大量の魔力で自身を強化しているのか…」
ガルゼニスはゲルベックの体の中で形成されている魔法に気が付く。
「ふっ」
ニヤリと余裕を見せながら笑うゲルベックはガルゼニスを掴んでいた槍ごと放り投げる。そして、ゲルベックはガルゼニスやその後ろに控えている者達に向け魔力砲を撃つために魔力を掌で圧縮させ、放った。
「ん?」
今度は今までの技よりしっかりと魔法を形成している、はずであった。だが、魔力砲を放ち続けながら首をかしげる。ゲルベックは今回の魔法形成に違和感があった。
「どっりゃぁ!」
アルバートは迫り来る魔法レーザーの射線上に現われ、再び真っ二つにしてしまった。
「なんだ!?」
これにはゲルベックは驚いたが、すぐに状況を理解した。
アルバートから今も絶えず送られてくる膨大な気の量で、ゲルベックの魔法形成に歪みが出来てしまったのだった。例えるのならば、一種の目のかすみや揺れにより、ほんの少しだけ魔法に歪みが出来てしまったということだ。
そしてゲルベックは理解する。
「聖龍の目かぁぁぁああ!」
適合者がルグニア王国の人口の0.1%で、さらにタリックのように『気』の力が極端に上がるのはそこから更に1%の確率。だが、アルバートの気の量は明らかにタリックを上回っている。
許せないのは自分が気を当てられてもそれに影響を出してしまったどころか気がつかなかった点だ。
「ぐぬぅ…」
向かってくるアルバートがスローモーションのように写って見えたが、自分がまるで巨大な蛇…いや、ドラゴンに睨まれた蛙のように萎縮してしまう。
「クローゼ流、『霊龍切』!」
ゲルベックはとっさにアルバートの術を左掌に形成した防御魔法で防御した。そして、ゲルベックはアルバートの攻撃を受けたが、始めは剣がそれ以上進む事は抑える事ができた。しかし、ゲルベックの防御魔法にヒビが入ってしまった。
今回は歪み無く作り出したはずの魔法だったが、単純にアルバートの剣の威力の方が大きかった。
「馬鹿…な」
ゲルベックの左掌を斬る事に成功したアルバートはそのまま勢いに乗ってゲルベックの後方まで飛んでいった。




