第46話 ルージュVSキャリー
ルージュは長い廊下を歩き終わり広い部屋へ出た。
ルージュは部屋に人の気配が多数あることを察知し、入口の前で止まり身を隠したが、
「あら?こんな所にまでネズミが侵入していたなんて…」
と、あっさりと見つかってしまった。
しかも部屋の中でルージュを発見したのは、オーラックの洞窟で戦った『キャリー・マックナー』である。
突如現れたルージュを見てキャリー・マックナーは愉快そうに言った後、槍をルージュに向けた。
「お前は…」
ルージュは入口の前へと立ち剣を構える。当たりを見回すと少々まずい立場にいた。二十体程の傀儡(大)とゲルベック側の人間が数人居たのだ。
圧倒的にルージュは不利である。
「第二部隊は先に行っていなさい」
キャリーがそう指示すると、
「少佐は…?」
と、キャリーの部下らしき人物が尋ねた。
「ふふふ。ちょっと楽しませてもらうわ。あの時の決着もついていないし」
そう楽しそうに槍をクルクルと回すキャリーに対し部下が頷き、キャリーを残して半分の敵兵は別の出入口から出ていく。
「あら?不思議な顔をしているわね。どうして兵士を減らしたのかって顔かしら?」
「私相手なら一人でも十分だと思っているんだろ?」
「ふふ。私達も暇じゃないのよ。開けられるはずがない部屋の扉を次々と開けられてこっちの戦力を大量に削いだ悪い子は私が直々にお仕置きしてあげなくっちゃ。部下たちは一足先に城の外で暴れている奴らの始末をしてきてもらうわ」
クスクスと笑うキャリーの瞳の奥には怒りが垣間見えた。あちらにとっても扉を開けたファルゼンの存在はイレギュラーだったのだろう。
「じゃぁ、そろそろいくけど、いい?」
キャリーは構えてルージュに狙いを定めた。
「くっ」
ルージュは足に力を入れる。
ズザッ!
キャリーは真っ直ぐ突進してきた。かなりの速さである。
「うりゃぁ!」
キャリーは素早く槍を連続で突いた。
「ちぃ」
しかし、ルージュはその突きを全て見切り躱していく。
「やるじゃん」
今度は、キャリーは槍を回転させルージュを後方へと下がらせていく。間合いが違う剣では攻撃をすることが難しい。だが、ルージュは槍の回転速度を確認し剣を振り上げる。
カキンッ!
ルージュの剣でキャリーの槍は上へ振り上げられる。ルージュはキャリーの顔面目掛けて剣を振り下ろすが、キャリーも回転の威力がまだ止まらない槍を後ろに下がりながら振り下ろす。
バシッ!
キャリーの槍がルージュの剣の軌道をずらし押さえ込むようなかたちになった。だが、矛先はルージュの方向ではなくキャリーの後ろだ。
そしてキャリーはルージュへ蹴りを仕掛ける。
だが、ルージュは剣を手放しキャリーの足を掴んで回転させキャリーを地べたへ叩き落とす。
すかさずルージュは剣を蹴り上げ手に持ちキャリーに振り下ろすが、キャリーも持っていた槍を回転させルージュの一撃を防いだ。
剣を弾いたルージュを確認し、キャリーは飛び上がり一気に後ろへ下がる。
「ふぅ…」
キャリーは一息つき、
「やるわねぇ~。流石カザル・ダーウィンの娘ってところかしら?」
「な!?なぜそれを…」
ルージュは自分の父親の事を言われ驚く。自分の名は言っていないはずだ。
「いやさ、ほら、オーラックの洞窟であんた足に気を送って自分の脚力を上げる技使ったじゃない?しかもご丁寧に技名叫んじゃって…。『剣舞「ライン」』だっけ?よそ見をしていたっていっても、私の鎧を傷つけた技だからねぇ。気になってうちの師団長に聞いてみたのよ。そしたらなんと、あの第一師団長『カザル・ダーウィン』の技じゃない」
キャッシーは愉快そうに話し、
「更に聞くと、ダーウィン師団長は弟子をとっていないらしいし。だとしたら、ダーウィン一族の技…。ダーウィンの子供が技を使っていたんじゃないか。って思うのも当然でしょ」
そう言った後クスクスと笑うキャリー。何がおかしいのか、と、ルージュは思ったが、
「でも不思議よねぇ~。カザル・ダーウィンは気、聖、魔の"三大力"を組み合わせ戦うってきいてたわ。うちの師団長も言っていたけど、ダーウィン一族はそもそもそういう戦い方をするらしいしぃ~。貴方のお兄様も"三大力"使いじゃなかったかしら?」
ここでキャリーが笑っていた理由が何となく分かった。
「あなたはなんでそういう戦い方、しないの?」
キャリーの問いにルージュはギリッと歯を食いしばった。
それを見たキャリーはニヤリと嫌な笑を浮かべ、
「今まであなたは気の力しか使ってなかったわよね。あの時一緒にいたバトラックに聞いたけど、聖術の反応はなかったみたいだし…。今も気しか使ってないわよね?もしかして、使えないの?魔力と聖力…」
キャリーの言葉にルージュは目を尖らせキャリーを睨みつける。
「ははっ。別に気しか使えないのが悪いって訳じゃないわよ~。私だってそうだし。でもさ、ダーウィン一族ってダーウィン流って特殊な剣術使っているらしいじゃない?"三大力"を駆使しているんでしょ?あなた一つしか使えないんなら…」
キャリーは今まで見せたことが無いようなバカにした冷ややかな目をして、
「そんな存在をダーウィン流の使い手と認めている流派なんて、もう末期なんじゃない?」
ダーウィン流を馬鹿にされ頭に血が上ったルージュは、足に気を纏わせキャリーに向けて走った。
カキーンッ!
キャリーへの攻撃をいきなり現れた二人組みに止められた。いや、それは人じゃなく傀儡だ。しかしただの傀儡ではなく傀儡(強)だ。
「その様子だと図星のようね…」
と言い、クスクスと笑い続けるキャリー。
ルージュはすぐに傀儡(強)達から離れ十分な距離をとる。
「一人で相手をするんじゃなかったのか?」
「あら?私そんな事言ったっけ?あなた一人がそう思っていだけでしょ?」
相変わらずクスクスと笑うキャリー。それに対しルージュは一呼吸して話し始める。
「確かにお前が言う通り私はダーウィン家落ちこぼれの人間だ。だが、私が魔法や聖法が使えなくても後世に伝えていってやる。使えなくても原理や技を教えていく。教えていく方法を見つける!だがな、私にもできる技はいくつも身に付けている。見せてやる、気だけのダーウィン流攻撃術を!」
ルージュはそう言い終わると、体全体に気を纏わせ傀儡(強)に攻撃を仕掛けた。
「やっちゃいなぁ~」
気楽に指示を出すキャリーに従い、傀儡(強)も動いた。
バシュ!
「?」
傀儡(強)一体が魔力弾を発射し、ルージュはそれを剣ではじく。キャリーは魔力弾を少量の気ではじいたルージュをみて少々驚く。
もう一方の傀儡(強)は地面に手を置き魔力を込める。すると、火柱がルージュの立っている場所から上がる。が、ルージュは足に纏った気を推進剤とし、素早く避ける。
「馬鹿!点で攻めるな、面で攻めろ!」
キャリーの指示で、最初の一撃を行なった傀儡(強)が広範囲炎系攻撃、火炎放射を行う。
「この!」
ルージュは迫り来る炎に向って剣を振りまくる。ただ闇雲に振っているように見えたが炎は確実に押し返され傀儡(強)自身に降りかかった。
燃え盛る傀儡(強)の横からもう一体の傀儡(強)が出てきてルージュに剣で攻撃を仕掛けた。
ルージュも応戦し、剣を振り下ろす。ルージュの剣の軌道が湾曲したように見える。
「は?」
思わずキャリーの口から間が抜けた声が出た。
一瞬で傀儡(強)の左腕が三つに分かれたのだ。
バスン!
今度は傀儡(強)の胴と首が切り落とされ、床に転がった。
「くぅぅ…」
キャリーは悔しそうに顔を歪める。ルージュはそのまま後ろを振り返り、剣を構える。そして、構えた剣に吸い込まれるように火に包まれていたはずの傀儡(強)と剣を交える。
「!?」
傀儡(強)の剣から魔力を感じすぐに横へと避ける。
バスンッ!
宙から何かがはじけた音がした。空気でも裂けたのだろうか。地面には傷が付いていた。
「ダーウィン流、奥義『百線』!」
パシュッ。
乾いた音がした途端既にルージュは既に傀儡(強)の後ろに居た。
コトンッ!ガチャン!
傀儡は縦半分になって倒れた。
「ふぅ…」
一呼吸して自身を落ち着かせるルージュ。その顔には先程の怒りの感情は見えなかった。
「…」
ルージュは黙ってキャリーの顔を見ている。
「随分とスッキリした顔になっちゃったじゃない。なぁに?傀儡達を倒して怒りが冷めちゃったの?」
そうつまらなそうに言うキャリーに対し、フフッと笑うルージュ。その反応に更にムッとしたキャリーは、
「何がおかしいのよ?」
と、不機嫌そうに聞いた。
その問いにルージュは、先ほどの表情からでは考えられないような清々しい顔をして、
「いや、技を使っていく中で思い出した事があってね。なぜあの事を忘れて怒ってしまったのか…。まったく私は馬鹿だな…」
「…!?」
ルージュの言葉に訳が分からないという顔をするキャリー。
「私は確かに気以外の力は使えない。しかし、お父様から言われたのだ。ダーウィン流は、真のダーウィン流は気力でも魔力でも聖力でも無い。本来は人を魅了する剣舞である、と…。術はそれを引き立てる演出でしかない。本来ならば己の剣の腕のみで人を魅了しなくてはならに流派なのだと…」
そしてルージュは笑顔になり、
「それに、同じ剣の道を歩む友人に言われた事があるんだ。幼い頃、奴は覚えてないかもしれないけど…。私の剣舞が綺麗だって…。気も魔力も聖力も使っていなかった剣舞を、彼は綺麗だと言ってくれた」
ルージュはそう言うと、剣を構え真剣な表情となり、
「ダーウィン流剣舞は私が完璧に引き継ぐ。戦いに使うダーウィン流は確かに三大力を使う技があるが、それはただのおまけ!私には気だけで十分すぎる」
ルージュがそう言った途端にルージュの体から気があふれ出た。
その意気込み、気力に嫉妬にも似た怒りがキャリーを取り巻く。
「はん!その話だとあんたらダーウィン流はただの踊り子ってことじゃない!!!なら…、ならそこで一生踊り続けていろ!クソガキャァァアアア!」
キャリー自身の槍にも大量の気を纏わせ再び突進してきた。
「ダーウィン流奥義、『飛俊・線裂動』!!」
ルージュは足に今残っている気を全て注ぎ込み、一瞬でキャリーの横を切りつけながら通る。
「(速ッ!)」
キャリーがそう思った瞬間既にルージュはキャリーの後ろに居た。
そして、キャリーのすぐ横後ろでガクッと膝を付く。
「うぐぅう…」
ルージュから苦痛の声が聞こえる。足にかなりの負担がきたようであった。
「こ、小娘がぁああああ!」
キャリーは腹から横一直線に血を流しながら震えている。立つのがやっとの状態なのだろう。古代遺跡から発見された硬質防具が破壊されている。一般兵が装着している防具とは比べ物にならないほど堅い防具が切り裂かれたのだ。
「「よくも隊長を!!」」
成り行きを見ていた人のゲルベック帝国軍の兵士達はルージュに斬りかかった。
だが、
ヒュンッ!
ヒュンッ!
パス!
パス!
「ギャッ!?」
「キョエ!?」
ベベワークとの戦いをあっさりと終えたリリヤの放った矢が兵士達の眉間に突き刺さり、兵士達はあっさりと死んだ。
「く…よくもぉ!!!」
それを見たキャリーが気を振り絞り、ルージュを槍で突き刺そうとした瞬間。
バシッ!
「がっ?!」
キャリーがルージュを突き刺しよりも早く、ルージュはキャリーの眉間に剣を深々と突き刺した。
「う、うわぁぁぁ…」
キャリーは叫びながら瞳孔を中央へと寄せた後、グルンと白目を向き前へ倒れ込んだ。
「フン。ざまぁねぇな」
それを見ながらリリヤは鼻であしらうと、
「はぁ…はぁ。最後はダーウィン流とは全く関係ない攻撃方法で倒してしまった…」
と、ルージュは少し落ち込んだ様子で言った。




