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第45話 リリヤVSエンテー


「くっそぉ。みんなと離れちゃったじゃねーか…、どこにいるんだゲルベックは!」

 悪態を吐きながらリリヤは階段を登っていた。

 そしてしばらく登った後、ようやく階段が終わり広い場所へと出る。

 リリヤはそっと中を確かめた後、広場へ慎重に侵入した。


 広場には数本の太い柱がある。しかし、その柱は奇妙な作りで、柱は天井を支えているわけではなく、中途半端に途切れている。それ以外は何も無い広場であった。


「…だれもいないのか?」

 広場には敵兵どころか傀儡一体もいない。


 リリヤは柱の影から敵が出てこないか警戒しながら先へと進むと、




「ほっほっほ。お嬢ちゃん、ここには陛下はいませんよ」



 突如頭上から声が響く。


「誰だ!」

 リリヤは声のした方を向く。

 そして、太い柱の上から一人の老人が姿を現す。


「お前は…?」

 リリヤは慌て弓を構える。


「おや?お前さん一人かのぉ。だったら運が悪かったなぁ、私は薬師『エンテー・ベベクーワ』と申す者。ここから先へ行きたいとなると少々痛い目に遭わなくちゃならんぞ?」

 と、老人は得意気な表情でリリヤに言った。

 べべワークと名乗った人物は医者の格好をした白衣を着た60代位の男性だ。

 髪は白髪でかなり伸びている。


「え?あのベベワーク先生!?」

 リリヤはべべワークの名前を聞いて驚愕した。

 リリヤがそのような反応をするのに無理はない。『エンテー・ベベワーク』と言えば世界的にも有名な魔界国の薬師なのだ。


「さて、今帰るならば痛い目に遭わずに済むが…」

 ベベワークがそう言うと、


「は?帰る訳ねーじゃん!有名な薬師かもしれんが、ゲルベックの野郎側につくって言うならばボコボコにするぞ」

 リリヤは目に怒りの感情を見せながらべべワークにそう言い返した。


「ほっほっほ。元気が良いのぉ」

 リリヤの発言を軽くあしらうベベワーク。


「ちっ。私を倒す為に毒でも撒くつもりか?」


「いいやぁ~。そうすると後から来る味方にも毒にやられてしまう。私の専門分野はなにも毒だけじゃないしのぉ…。おいで。我が可愛い子達よ…」

 ベベワークがそう言うと、柱の影から魔獣が出てきた。


ノシッ。ノシッ。


 と、徐々に巨体を現していく魔獣。

 その巨体を見たリリヤは一瞬たじろいでしまった。

 一体だけかと思えば3体も居る。


「んな…よくそんな凶暴な奴らを従える事が出来たな…」

 リリヤはその巨大な魔獣を見てそう言った。

 奥から出てきたのは魔界国でも凶暴な狼『ベルウルフ』であった。

 凶暴な魔獣とは殆ど縁のない場所に住むリリヤでさえ、その存在は噂で知っていた。


「(たしか…こいつ一体討伐するだけで軍隊が動くはず…)」

 規模はわからないが、軍を動かすほどの存在であるとリリヤは聞いたことがあった。

 リリヤは冷や汗を流しながらベルウルフを睨む。



「ほっほっほ。刷り込みと言うのを知っているかね?鳥などが最初に見た者を親と思い込むやつさ。この薬は擬似的にその効果を発揮してのぉ。この薬を嗅がせれば少しの間眠りにつき、起きて最初に見た者を親と思うのさ…」

 ベベワークはビンに入った薬を見せつけながら言った。


「それじゃぁ頭の中は赤ん坊かよ」

 リリヤがそう言うと、


「いんやぁ、記憶は元のままさ。これは親を意識の中に追加させる薬だ。親の言うことをちゃーんと従ういい子達だよ」

 そう言うとベベワークは気持ち悪くヘヘッと笑う。


「そうかぁ~」

 リリヤは頭を傾げ何かを考えている様子であった。


「よし、お前たち殺さない程度で遊んでやれ!」

 ベルウルフ達が一斉にリリヤの所へ駆け寄るが、


「止まれ!」


 リリヤがそう言うとベルウルフ達の動きが止まった。


「なんと!だが、そんなのすぐに…」

 ベベワークはリリヤがベルウルフ達を一声で止めた事に驚いたが、すぐにまた襲いかかるだろうと考えた。


「あ~。オホン、ゴホン」

 リリヤは咳払いをして声の調子を整える。そして、

「おまえ達、いったいどこから来た?」

 と、ベルウルフに問いかけだした。



「グルルルルルルル」

「ウ~~~~~~」

「ガウ!」


「え?なに?魔界国の山脈地帯から?父さんに連れられて来た?へぇ。母さんは?」


「ふん。何を言っておる…」

 ベベワークは急に態度を変えたリリヤが魔獣達との会話を試みている様子を見て小馬鹿にしたように笑う。


「ガゥガゥ!」


「母さんは自分達が大人になると同時に離れた。か…。動物にとってはそれが自然よね?じゃぁ、お父さんお母さんの顔は覚えているか?」



「なんだ?いったい奴はなに者だ?」

 ベベワークはどうやら会話が成立しているような感じであるリリヤに不安を感じる。そういえばベルウルフを捕まえてきた場所が魔界国の山脈地帯ということは確かに合っている。


「アオーーーーーーン」


「覚えているようだな…。じゃぁあの人?」

 リリヤはベベワークを指さす。するとベルウルフ達もベベワークの方を見た後首を横に振る。


「そんな…。本当に話しているのか!?あの凶暴なベルウルフと!いや、待てよ…まさか貴様『命話使い』!?」


「アオアオーーーン」

「ガァアアア」


「お前達を育てた親とは違うよね。ふふ。混乱しているの?そうだよねぇ~。あの人はあなた達を薬で親と思い込ませているんだ。証拠はお前達の記憶にある本物の父さんの記憶だ。つまりお前達の親は別に居るの」


「あ、いや…。え?」

 突然のことに焦るべべワーク。ベルウルフは明らかにこちらを睨んでいる。


「ひ、ひえぇぇぇぇ」

 堪らずベベワークは逃げ出すが、その行為はまずかった。ベルウルフの狩猟本能が反応し、ベルウルフはベベワークを追い回す。そして魔獣達はベベワークを捕らえると噛み付き肉を引き裂き始めた。


「ギヤァアアアア!ゴブフゥ。た、たちけてぇぇえええ!プピュ」

 魔獣達は今まで親と思っていた人物が親ではなく、ただ自分達を道具として扱っていた事に怒りをぶつける。親だと思っていたから躾のための体罰も苦しい薬物実験も耐えてきた。それが騙されていたと分かった魔獣たちの枷が外れたのだ。


「うわぁ…こりゃまずいんじゃないか?」

 リリヤとりあえず、


「おぉい!お前達やめないか」

 と、ベルウルフに言うと、ベルウルフはベベワークを襲う事を止め、リリヤの方向を向く。その口から真っ赤な血を垂らしながら。


「うわぁ~。マジかよ…」

 べべワークのあまりの無残な姿にリリヤは引いてしまう。既にベベワークは事切れていたのだ。


「ふぅ…。とりあえずお前達はどうするの?」

 と、ベルウルフに問いかけると、


「ガゥガゥ」


「ふむふむ。帰る?うん、その方がいいよね。敵がわんさか来る前にさっさと帰りなさい。え?お礼?いいって、そんな事…。え?外側に居る敵は目に付くだけ倒しておく?う~ん。わかった。じゃ、お願いするよ」

 ベルウルフ達はそのまま出口へ向かい、あっけなく薬師ベベワームとの戦いは終わった。


「矢の節約にはなったな~」

 リリヤはそう言って先へ進むことにした。




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