第2話 事件の噂
「ネネの魔法は相変わらずだな…『威圧魔法』だっけ?威力上がってねぇか?」
アルバートが紅茶をすすりながら問いかける。
威圧魔法とは、相手に威圧を与え萎縮させる魔法である。
この威圧魔法とは習得が難しく、上級の冒険者や王国軍内でもかなりの実力者でないと使用できないはずである。
だが、ネネはこの威圧魔法と相性が良く、カインから僅かな期間教えてもらったのみで使用可能となった。
「う~ん。そうかな?私この位しかうまく扱える魔法無いし…。でも、ここまで扱えるようになったのは教えてくれたカインのおかげだよ」
ネネはそう言った後カインに対して微笑んだ。
「いやぁ~。あははは」
「なに照れてんだよカイン!」
と、アルバートが照れているカインの脇腹をはやし立てながらつつく。
「そういえば魔法で思い出したけど、最近変な話があるよね?」
「変な話?」
ネネの話にルージュが反応する。
「今日の新聞にも書いてあったけど、最近魔法使いが何人も誘拐されているらしいのよ」
「魔法使い?」
アルバートもその話が気になるようだった。
「そう。実力は中程度の魔法使いばかり24人も」
「あぁ。あの話だったのか…ってそんなに増えたのか?一週間前はまだ5人だったぞ」
ルージュは以前見た新聞の話を思い出し、誘拐された犠牲者が多くなっていることに驚く。
「知らなかった…」
と、アルバートは驚いている。
「新聞を読まないからだろ?知らなくて当然だ」
ルージュは冷めた目でアルバートを見ながら言った。
その態度にムッと腹を立てたアルバートは、
「新聞を見ていれば偉いんですかぁ~?」
と、ルージュに言い放つ。
「常に世の中の情報に目を向けてず、世の中に迷惑をかけ続けている誰かさんよりは偉いと思うけどな!」
ルージュは呆れたようにアルバートを見ながらそう言うと、
「お?なに?それ俺が世の中に迷惑をかけているって言いたいの?」
「おや?自覚があったのか。これは意外だったな。そうだとも。アルバートは世間に迷惑をかけ続けていると行ったんだ」
「ハッ!おもしれぇ。その喧嘩買ってやるよ」
「喧嘩だと?教育の間違いだ。表に出ろ!個人レッスンの時間だ!」
と、次第にヒートアップしていくアルバートとルージュ。
「ちょっ!!!??」
カインはそんな二人を見て慌てまくるが、
「二人とも。お茶中よ?」
「「「!?」」」
と、再び威圧魔法を出したネネに他の三人は驚愕し固まってしまった。
「さぁ、クッキーもあるわよ」
そして威圧魔法を収めたネネは笑顔で三人にそう言った。
「お、おう!そそそそうだな!」
「うむ!ネネのクッキは非常に美味しいからな!」
アルバートとルージュは仲良くクッキーを食べる事にした。
「ははは…」
カインは自分でも止めることができない二人の喧嘩をあっさりと止めてしまうネネの魔法にただ引きつった顔で笑うしかなかった。いくら想いを寄せている相手だとしても威圧魔法は怖いのだ。
「ははは…。でも、さっきのその話気になるなぁ~。魔法使い達が誘拐されるって、お父さん大丈夫かな…」
カインはそう言って不安そうな顔になる。
「そうか、カインの父君はお城に仕える魔法使いだったな」
ルージュがそう言うと、アルバートが、
「でも誘拐されているのは中程度の実力者だろ?カインの親父なんて上級の中の上級だぜ。誘拐しようにもできるわけねぇよ」
と、言った。
「それに城に仕える人間ならば他の魔術師や騎士が居る。暗殺なら可能かもしれないが、誘拐するために侵入することなど大軍を用いない限り無理だろう」
ルージュはそう言うと、
「アルバート。明日から学校が長期休暇だからといって、誘拐犯探しの旅に出ようなどとは思っていないだろうな?」
と、言ってアルバートを見るルージュ。しかしアルバートは、
「いやいや。俺、この休みを利用して親父の働いている所へ遊びに行こうと計画していたんだ。犯人探しするより先にやることがあるんだよ!」
と、反論した。
「僕もお父さんに会いに『ビグラン』まで行こうと思って明日からアルバートと一緒に行くことにしたんだ。流石に職場まではいけないけど、首都へ遊びに行くだけだよ」
カインが言った『ビグラン』とは、彼らが住むルグニア王国の王都の事である。
「そうか。では、私と一緒に行こうかな」
「「!?」」
ルージュの言葉にアルバートとカインは驚く。
「な、なんでお前も来るんだよ!」
アルバートがそう言うとルージュが。
「私も王都に居る父に会いに行こうと思っていたのだ。それに君たちだけでは何をしでかすか分かったものじゃないからな」
「んな…」
アルバートが力なくうなだれる。ルージュの性格上来るなと言っても無駄だということは分かりきっていた。
「では明日は首都で一日観光というわけか…」
ルージュがそう言うとカインはいやいや、と首を振って、
「転送魔法陣は使わないよ」
と、言った。
「まさか陸路で行くのか!?行き帰りで何週間先になると思っている!?」
ルージュは驚いていると、
「ほら、さっき言ってた誘拐事件が多発しているから使用制限されているみたいなんだ。僕らのお父さん達が使用する魔法陣はもう特別な理由を除いてお父さん達専用となっているみたい。僕達は遊びに行くんだから許可はしてくれないよ」
ちなみにアルバート達が住んでいるここ『ポノノ村』は王都からは比較的近い村である。馬車であればおよそ1週間程で着くことが可能だ。
「ふふ、いいなぁ。私も行きたいんだけど…」
「ネネは今ようやく調子が戻ってきたばかりだから、今回は無理しない方がいい」
と、心配そうにルージュは言った。
ネネは生まれつき体が弱く、転送魔法陣を使わない長旅は控えている。それを理解しているネネは残念そうだった。ちなみに去年はアルバート、カイン、ルージュと一緒に転送魔法陣を使用し王都『ビグラン』へ観光に行った。命に関わる話ではないので、長期間歩き回るなどしていなければ遊んでも良いのだ。
「もちろん分かっているよ」
ネネはニッコリと笑いそういったものの少し寂しそうな表情であった。
その寂しさというのは一緒に王都にいけないという事ではなく、カインと何週間も離れる寂しさからきている表情であった。
「帰ってきたらお話沢山聞かせてね」
ネネは気持ちを切り替えてそう言うと、
「もちろんだよ!お土産も沢山買ってくる」
カインは張り切って答えた。