第35話 動き出す黒い影
通信が終わった後、ハルト村に居たアルバート達も混乱していた。
「あのゲルベックという者が誘拐犯だったのか!?」
ガルゼニスがそう言うと、
「状況から見てそう考えてもいいでしょう。問題は目的ですが…」
と、ファルゼンが言った。
「目的は三国を自分の国にすることだ。と言っていたが、誘拐と関係性があるとは思えない…」
ルージュの言うことは確かに疑問に感じるところだ。
「古代技術で誘拐して集めた人で世界征服をするってことか?」
アルバートはそう言ったが、確かに関連付けをするならばそう考えるのが自然だろう。問題はその方法である。
「もしかして傀儡って、集めた人の魔力で動いているのかも」
カインがそう不安そうに言った。あれだけの数を長時間動かす魔力とてつもなく大量の魔力が必要だ。誘拐されたミサネ先生の命が更に心配になってくる。
「とにかくビグランへ戻った方がいいな。あそこで親父の指示を受けるべきだ。なんせ敵はルグニア王国の軍人…いや、元ルグニア王国の軍人だからな」
アルバートがそう言うと、皆頷き支度を始めた。
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―――とある古代遺跡―――
かつて古代人達が作り上げた頑丈なシェルター。
現在はゲルベック率いるペインルージ帝国軍が支配し、改装をしていた。
そしてペインルージ帝国初代皇帝『ゲルベック・ペインルージ』は玉座に腰掛、険しい顔をしていた。
「ペインルージ陛下!」
そこへ一人の騎士がゲルベックの部屋に入ってくる。ペインルージ家に古くから仕えるクラフト家長男の『セテノラック・クラフト』である。
「セテノラックか。ふふ、今までゲルベックと名前で呼んでもらっていたから違和感がかなりあるな。せめて君だけは普段通りにしてくれないか?」
ゲルベックにそう言われたセテノラックは、眉をひそめ、
「し、しかし他の者に示しがつかないのでは…」
セテノラックは困った顔をすると、今度はゲルベックが
「頼むよ…」
と、寂しそうな顔をする。
「わかりました。ゲルベック様…」
昔からの呼ばれ方で名前を言われ、ゲルベックの表情に少し緩みが出た。それを見てセテノラックもフッと緊張も緩み少しだけ笑顔になる。やはりこの御方は変わらない。セテノラックはそう感じた。
「それで報告なのですが、いよいよゲルベック様の力を増強させる術の準備が完了いたしました」
セテノラックは目を輝かせ言った。
「そうか。ついに、か…。長かったような気がするが、あれからもう二年が立つと思うとあまりに短い気もする。キャッシーも成長したよ…」
そう言ったゲルベックは宙を見上げる。
「これからこの星の民全てを率いる御方なんですから。しっかりとお願いしますよ?」
ゲルベックに優しく笑いかけるセテノラック。
「少しはゆったりとしたいものだがな…」
そう言って笑を返すゲルベックは立ち上がり、
「では、『彼ら』と話してくる」
と言い、数段上から降りてきて隣の部屋へと移動する。
「成功する事を祈ります」
セテノラックは胸に手を当てゲルベックを見送った。
王の間の隣にある部屋に入ったゲルベックは大量のモニターがを横目で見る。そしてその中で飛び抜けて巨大なモニターの正面に立ち、近くにあったボタンを押した。
モニター達は、
ヴゥン。
と鈍い音をたてて光だす。
ゲルベックの周りにある小さいモニターは何かの数値をひっきりなしに映し出していたが、正面にある巨大モニターだけは違った。
「<あら?魔力の準備はできたのかしら?>」
巨大モニターに映し出されたのは女である。
魔法使い、『カトリーヌ・パルロッサ』。
彼女はゲルベックにそう名乗っていた。
それが本名なのか偽名なのかは分からないが、名前などはゲルベックにとってはどうでもよかった。少なくともゲルベックの計画に協力してくれる存在である。
そして、ゲルベックは感じ取っていた。
ガトリーヌは自身よりも…。いや、最高の魔力を持つとされる魔界国の王族よりも彼女の方が魔力が上であると。
「十分に魔力は集まった。後は私に魔力を入れ込むだけだ」
そうゲルベックが答えると、
「<そう。ではできるのね?二回目の『限界魔力量突破術』。それも前とは比べ物にならないくらい大規模なものが…>」
ふふふ。と怪しく微笑むカトリーヌ。
「<既に適性検査は合格している。大丈夫であろう>」
急に巨大モニター内が二分され、もう一人の人物が割り込んできた。
「Dr.ジュパーソン。私の体は貴方が言う通り二回目に耐えられるということだな?」
とベルベックは言った。
Dr.ジュパーソン。
彼は自身をそう名乗っていた。
そして職業は生物学者であると…。
彼は強い生物を作り出すことに情熱を燃やしているというマッドサイエンティストとカトリーヌから紹介があった。そのためであれば人を殺すし、一般市民を誘拐し研究材料とする。
本来であればそのような人物を計画に加えたくはないが、ゲルベックの計画にはどうしても必要な存在である。
生物学者のDr.ジュパーソンと呼ばれた人物は、手元にあるデータを見ながら、
「<あぁ。多少精神面が不安定になるかもしれんが、おまえさんの目的に支障は無いだろう…。皇帝としての立場で"精神面の不安"というのは厄介かもしれんが、それは薬で抑えることができる。そっちには優秀な薬師もいるようだしなぁ>」
Dr.ジュパーソンがそう言うと、カトリーヌは、
「<そんな事しなくても私達の技術を取り込んでしまえば簡単にパワーアップすることが可能よ?私達の力は既にここの星にあった旧式ロボットで見せたでしょ?>」
そういうと、画面に小瓶を映し出した。中には黒い物体が入っている。
「それはそれで適正が無いと精神障害がひどいという話ではなかったかな?それにそれは『魔力量限界突破』よりもひどいという話ではないか」
ゲルベックが呆れ気味にそう言うと、
「<残念ねぇ~。あなた程の魔力量の持ち主が『これ』に適合しないなんてね。ま、私たちの手元にも注入用である『これ』の残量は少ないから適正がある人しか入れられないのが現状だから、適合者以外は入れたくないんだけどね…>」
カトリーヌは大げさに残念そうな表情を作る。
「私の精神障害が発生すれば、君達が望む資材と適合者の調査が難しくなるからな」
と、ゲルベックはカトリーヌを睨んで牽制した。
「<それとは別件なのだが…>」
と、Dr.ジュパーソンが会話の内容を切り替える。
「<既にこちら側の要求は満たされている。そっちの要求はまだのようだから、早急に内容を提示してくれ。わし達もこれから忙しくなるからあまりそちらに構っていられなくなるぞ>」
Dr.ジュパーソンがそう言うと、
「あなた方は私に勝利を導いてくれると言ったが、やり方が問題でね…。まだ少し考えさせてもらおう…」
「<そうか…、できれば早めに答えて欲しいが…。まぁそれはいいとして、そろそろ雑談は終えて術を行うためにそちらに行くが、いいかな?>」
と、Dr.ジュパーソンがそう言うと、ゲルベックはコクッ頷き、
「では、よろしくお願いしますよ」
と言い、更に奥の部屋へと入っていった。
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