第34話 世界に対しての宣戦布告
翌日の天気も快晴であった。
「いや~。いい朝だぜ!」
宿の外に出たアルバートは、朝の日課の体操である剣術を宿の庭で行なっていた。
「今日は雲一つ無い天気だな」
ルージュも剣舞をしている。ダーウィン家の流派の一つらしく、美しく舞っている。
ダーウィン流の成り立ちは珍しく元々剣舞から派生した流派である。
その成り立ちから実戦では使い物にならないのではないかと言われてきたが、実際戦ってみると行動が読みにくいと恐れられてきた流派である。
「もう少し時間が経ったところで、王都へ出発する?」
カインがそう聞くと、
「そうだな~そろそろなぁ~」
と、ベンチに腰掛けていたリリヤが言った。先ほど起きたばかりであるはずだが、再び眠りに就こうとしていた。
「はぁ…」
それを見たファルゼンは呆れた顔になる。
結局イザ・ロイドがあの岩場で何をしていたかは不明であった。この調査はルグニア王国の遺跡調査隊が請け負う事になった。遺跡調査隊が出てきた理由としては、ロイドが持っていた武器が古代技術の物だったからだろう。
ファルゼンもその調査に同行したかったらしいが、ルグニア王国の人間ではないため調査に立ち入ることは許可されなかった。そもそもファルゼンが自警団の任務に参加することすら例外である。任務に参加できたのはタリックが許可したからであり、遺跡調査に関してはタリックとは管轄が違うため手が出せないのだ。
ファルゼンが難しそうな顔をしている事に気付いたガルゼニスは、
「昨日奴らは何をしていたのだろうか…。何かわかるかい?」
と、話しかけた。
「これはガルゼニス王子。いえ、残念ながらあの場所の調査に同行することができませんでしたので、なにも…」
「フフ。我々は既に友人だ!王子ではなく、ガルちゃんでいいぞ」
「…しかし気になるのは、遺跡調査隊が調査を拒否する理由です。確かにロイドは古代兵器を使っていましたが、あそこには遺跡がありません。しかもあれはエルフ国の遺跡から発見された兵器です。なぜエルフ国の遺跡に詳しい私が同行できないのか…」
あえて"ガルちゃん"という言葉を無視するファルゼン。
「うむ。他国の専門家の知識を知る機会を逃すとは確かに私も理解できんな!」
「あのような短時間では私もしっかり調査ができませんでしたので、もしかしたら遺跡があるのかもしれません。お役に立てず申し訳ありません『ガルゼニス王子』」
ファルゼンは最後の『ガルゼニス王子』の部分を強調し、満面の笑で言った。
「…うん。いや、気にしなくていいよ…。私も気にしない…」
ガルゼニスは非常に残念そうな顔をした。
ゆったりと時間が流れていた。
このまま戦いがなく、平和に空を眺めていたい。
もしくはミミちゃん…いや、ミミさんの背中にのって空を飛び回りたいな。と、アルバートは思い、空を眺めている。
そして、しばらく各々が自由に活動していると、
「ん?なんだあれは…」
空を見ていたガルゼニスは異変に気付く。
雲一つなかった青空に長方形の赤みがかった膜のようなものが空を覆う。空全体というわけではないが、かなり大きい(距離感がつかめないため、映し出されている高度や大きさはわからない)。
「自然現象ではないうようですね」
ファルゼンがそう言った後、それは起きた。
「<ズザザザザ!ザザザ!!>」
急に空に浮かび上がっていた長方形の中が波線だらけになった。
それがしばらく続いたあと、急に人の顔を映し出す。
「え!?あれは!?」
カインが一番早く映し出された人物の顔を見て驚いた。
「<皆さんごきげんよう。私はルグニア王国魔導騎士団団長ゲルベック・ペインルージです。今日は皆さんに大事なお話があります>」
なんと、いきなり空中に巨大な平たいゲルベックが現れた。
「おい。なんだあれは!」
アルバートは目を擦りながら自分が幻を見ていないという事を確認する。
「通信魔術!?いや、映像まで送れる術は聖術でもまだ開発されていないはず」
と、カインは言った。
「<この映像は、魔術によって送らせていただいております。聖術や魔術に詳しい人なら知っているとは思いますが、声は送れても映像まで送れる聖魔術はまだ完成されていません。しかし、今なぜ私がこの映像を送れているのか…。それはこれからお話することと関わってきます。>」
「これは…古代技術…」
ファルゼンがそう呟くと、映像の中のゲルベックも、
「<これは古代技術の一つの映像魔術。我々の先祖、約二千年程前の人類は現代の技術を遥かに凌駕しておりました。しかし、なぜ現代はこれほどまでに衰退してしまったか…。それは戦争のせいなのです。古代人はこの星を巻き込むほどの戦争をした結果、自らの文明を崩壊させてしまった。しかし、なぜ復興しなかったのか!それは国の上に立つ一部の人間が技術を隠し、真実を隠し続けた結果なのです!>」
この日、この映像は世界中へと流れ、これによりルグニア王国建国以来初、公式に政府の人間が古代の文明について語られた事件となった。
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ルグニア王国王都ビグランにも映像は流れていた。それどころか、ビグラン以外にもゲルベックの映像は各国の主要都市だけではなく、小さな町や村にも映し出されていたのだ。
「なんだ、この映像はぁああ!止めろ!ゲルベックめ、世界を混沌の渦へと落とす気かぁあ」
文部副大臣のリスアンが顔を真っ赤にさせ憤慨していた。
「まさか…奴だったのか…この誘拐事件の犯人は」
そう言って肩を落とすルグニア国王。ルグニア国王はゲルベックをかなり信頼していたため、衝撃は大きい。
王の嘆き、そしてリスアンの怒りを無視し、ゲルベックは世界に向けて通信を続ける。
「<古代技術は戦争に使われる危険なものばかりではありません。もちろんこのように映像を送る技術や、人々の健康を守るための医療技術。交通手段、自然保護、クリーンエネルギー。様々な技術があるのです。それを阻害していた国のトップ達は自分達のみ技術の発達した宮殿に住み、独占していた。これは許されることでしょうか>」
そう国民に呼びかけるゲルベック。更に、
「<私は古代技術を民間へと開放し、皆さんに幸せ安全な暮らしを提供したいと思います。しかし、各国のトップはそれを許さないでしょう。ですから私はエルフ国、ルグニア王国、魔界国を併合し、『ペインルージ帝国』とし、国家同士の壁を取り除いて自由な技術開発を行うことを宣言します。おそらく戦争になります。ならば!この戦争で終わりにしましょう。平和のためのこの星の人類同士で行う最後の戦争です。では皆様、戦争が始まれば外出は控えてください>」
そう言うと空中から映像が消えた。
「「「「「………」」」」」
沈黙。
王城の誰もが映像が終わってから呆然としていた。
この沈黙を破ったのはペテロン元老院議長であった。
「結局奴は自らが誘拐犯だとは言いませんでしたな…」
と、ペテロン元老院議長は言った。
「奴に決まっているでしょう!アルゼリン邸を襲った像、エルフ国で暴れていた人形。全て古代技術の産物だ!奴は古代技術を自由に操っている。その証拠があの映像技術ではないですか!」
狂ったように怒りまくり訴えるリスアン。
「そう…だな。」
と、力ない声で国王は言った。
「それに問題は他にもあります!親衛隊隊長タリック・クローゼの報告によれば誘拐犯の一味に第七師団の連中が居るのとこと!しかも第七師団団長の『ビリー・ライアン』准将は行方不明!団員も半数が行方不明!師団がもう師団として成り立っていない!!」
そう言うリスアンの目は真っ赤に充血している。
「そうだな…。今こそ団結する時だ…」
今度は声に力を入れ国王はそう言うと、
「三国から同盟の意思を記した協定書は既に届いておる。すぐに討伐隊を編成し、奴らの拠点と思われる場所を探し出し全力でたたきつぶせ」
いつもよりは覇気の無い声量であったが、目は確実にいつもの国王であった。
「はっ。すぐにっ!」
リスアンはそう言うと、素早く部屋から出ていく。
「ゲルベックは戦争になると言った。私を暗殺しようと思えば出来たのに…」
力なくそう言ったルグニア国王にペテロンは、
「そのような事をしても王子が王位を継ぎ、暗殺犯を徹底的に探し出します。そうなれば民の支持を受けることもできませんし、ゲルベックへとたどり着く可能性があります。この城を攻め落とすような行為をしよう兵を集めても、怪しまれますしこの国最強部隊である親衛隊が抑えます。ならば離れたところで兵をしっかり集め準備し、正々堂々とこの国を滅ぼそうとするでしょう」
「だが、勝ち目はあるのか?奴らはこの国だけではなくエルフ国や魔界国まで潰す気だぞ!?」
ルグニア国王の言葉に少しためらいを見せながら、ペテロンは非常に言いにくそうにその言葉を発した。
「そのための古代技術…。おそらくゲルベックは古代兵器を手に入れています」
「う…」
ペテロンの言葉に一番考えたくない事を気付かされ、ルグニア国王は一瞬言葉が詰まった。
「陛下。これは私…あなたの友人としての言葉ですが、自分を見失わないようにしてください…」
と、ペテロンが言う。
「ふ…ふふ、分かっているさ。私も昔のようにすぐ頭に血が上らん。だが少し休む…。何か飲み物をくれ。15分後、対策会議を始めるぞ」
ルグニア国王はそう言うと自分の部屋へと戻っていった。
「はい。陛下…」
ペテロンはルグニア国王に一礼し部屋を出ていった。
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