第31話 ミミちゃんのおまじない
「よぉ。ミミちゃん!」
夜、アルバートは父タリックが飼っている聖古龍と呼ばれる種類のドラゴンのミミちゃんに声をかける。
ミミちゃんは全長三メートル程の白いドラゴンで、聖古龍としてはまだ幼い。王都ビグラン内にあるタリックの屋敷で大きな小屋の中で飼われているが特に紐などにつながれていない。
ミミちゃんはアルバートに気がつきのっそりと起き、眠たそうな目をしながら、
「ピィ!」
と、高い声を出す。
「遅くなっちまったけど、『目』ありがとな」
そう言ってアルバートはミミちゃんの頭を撫でる。それにミミちゃんは気持ちよさそうに頭をアルバートの手に更に擦りつけ目を細める。
「おぉ、そうだ。親父に言っていたように目に気を送ってミミちゃんと話してみるかぁ」
アルバートは左目の眼帯を外し、気を込めた。
「よし、これでいいのかな?ミミちゃん、俺の言っていることわかる?」
「ピ!」
ミミちゃんが返事をする。
「う~ん。話をすると言ってもこのぐらいか…」
もっと本格的な会話ができると思っていたアルバートが肩をガックシと落としていると、
「<ちゃんと聞こえているよ!いつもね>」
と、頭の中で声が響く。
「ん?なんだ今のは…。もしかしてミミちゃん?」
アルバートがミミちゃんに向ってそう言うと、
「<そうだよ。あたしだよ、ミミちゃんだよ>」
と、再び頭の中で声が響いた。
「おぉ!ミミちゃん、ミミちゃんと会話が出来たぞ!」
アルバートは喜びの声を上げる。想像ではミミちゃんが口で話をすると思っていたので少し驚きはしたが、念話でも会話には違いはない。
「<やった!アルバートと話ができる>」
ミミちゃんも喜んでいるようであった。
「<目の調子はどう?>」
ミミちゃんはアルバートの左目を気にしているようであった。
「おぉ、そうそう。この目、ありがとな。おかげで自分の目より見えるようになった」
アルバートがそう言うと、ミミちゃんは安心した表情になった。
「<おとーさんが言うには私の目を入れると強くなるらしいから、アルバートも強くなるんだよ>」
ミミちゃんの言う『おとーさん』とは、父タリックの事であろう。強くなるというのは、気の力が上がることだろう。ミミちゃんの目を入れてから気の調子が格段と良くなった。
「本当にありがとうミミちゃん。早く使いこなせるようになって、この事件を解決してみせるよ」
と、アルバートは言い、再びミミちゃんの頭を撫ぜた。
「<すごいね!アルバートは。そうだ!ミミちゃん、アルバートが強くなるためのおまじないをしてあげるよ!>」
嬉しそうに体を動かしながらミミちゃんはそう言った。
「おまじない?へぇ。そいつは凄そうだな。やってもらおうかな」
「<うん。任せておいて!それじゃぁいくよ!……う~ん!!>」
ミミちゃんは力を溜めだし、
「<ピィィィィィ……グォォォオオオオオオオオオ!!!!!!>」
と、信じられない低い唸り声で鳴いた。
「え!?」
アルバートはミミちゃんの豹変に驚く。
「<応えよ!我が配下の龍達よ!そして集え!我、聖古龍王の下にぃぃ!!>」
「え?えぇぇ!?」
ヒュワン!ヒュワン!ヒュワン!
周りに次々と光輝くドラゴン達が現れた。アルバートは何が起きているのか全くわからない。
と、言うか、ミミちゃんの声が野太くなっている方が気になるアルバート。
「<人の子アルバートよぉお!!汝は何故力を求めるぅぅ?>」
ミミちゃん。いや、ミミさんがそう言った後、
「「「「「<我ら龍の力、龍の血を求めんとするのは其方か!?>」」」」」
と、光り輝く龍達が後に続く、
「は、はいぃぃぃ!!ゆ、誘拐犯を捕まえて世の中を平和にするためですぅぅぅ!!」
アルバートはビビリながら受け答えをする。
「<よかろう!!汝に力を与えようぅぅぅうううう!!!我ら龍の力、受け取るがいい!!>」
「「「「「<龍の力を授かりし者の子、アルバート。其方も龍の力を授かることにより、其方の子も力を持つことになろう!!>」」」」」
「え?あ、はい!?あ、ありがとうございます!!」
「<ホワァアアアアアアアゥアゥアゥアゥアゥーーーーーーー!!!!!!!!!>」
「「「「「<力を受け取るのだアルバートォォォォウオゥオゥオゥオゥ!!!!!>」」」」」
「ひっ!?ぐぎゃぁぁああああああああああああああああ!!!?!??!?」
突如ミミさんや光り輝く龍達の口から聖力の塊の光線を浴びせられるアルバート。
アルバートの体にその光が入り込み、体中を力が縦横無尽に駆け巡る。と、言うか、体中を変な動きをしながら関節が曲がってはいけない方向にアルバートは曲げながら苦しむ。
「何事か!?」
ただならぬ雰囲気と叫び声を聞き取ったタリックは屋敷から慌てて出てくる。
「あ、なんだ。ミミちゃんがアルバートに力を与えるおまじないをしているだけか…」
タリックは経験があるのか、安心して屋敷の中に戻っていった。
一緒に出てきた屋敷の警備兵もタリックに大丈夫だと言われ心配しながらも屋敷の中へと戻っていった。
「お、親父、ま、待ってぇぇオオオオオ!?オオオオーーーオゥオゥオゥオゥオゥオゥ!!???」
次の日、アルバートとミミちゃんが仲良く寝ているところを屋敷を警備していた兵士に発見される。
アルバートは優しくミミちゃんに包まれながら眠っていたが、そのアルバートは白目を剥き、鼻水やヨダレを垂らして舌を出し顔を歪め、まるで悪魔の表情をしていた。
翌日の朝、早速アルバート、カイン、ルージュ、リリヤはルグニア王国自警団の任務に就いた。ファルゼンはエルフ国のエルフなので、身分としてはただの付き人である。
「さて、『ハルト村』はこっちの方向だな」
ルージュが指さす方向はリース村へ行く方向である。アルバートやカイン、ルージュ達が住むポノノ村から陸路を通って王都ビグランへ行くには『メリアス町』『リース村』『ハルト村』という順で通ってこなくてはならない。アルバート達は王都に来る際必ず立ち寄る村である。
「…どうしたんだ?アルバート」
ルージュはぐったりしているアルバートを心配して尋ねたが、
「うん。いや、なんでもない大丈夫…」
と、アルバートは言うだけであった。
どうやら昨日のミミちゃんの"おまじない"の精神的な衝撃が強かったらしい。
「やぁ皆。待っていたぞ!」
しばらく進んだ所で、いきなり岩陰から出てきたのは魔界国王子ガルゼニスであった。
「うわぁお!」
カインは突然出てきたガルゼニスに驚く。
「な、なんでこんな所に?」
アルバートがそう言うと、
「ふふ、何を言うかと思えば…。お世話になっている国の敵が現れたのならばそれを退治するのが礼儀だろう」
と、ガルゼニスは言い出した。よくわからない礼儀である。
「なるほど、傀儡退治を手伝ってくれるのか。これは心強い」
ルージュはそう言ったが、アルバートはあることに気が付く。
「あれ?部下は?」
アルバートは質問をした。
見渡しても常に一緒についてきているアランとかいう兵士もいない。
「部下?あぁ、兵士たちの事か。見つからないように抜け出してきたのだ」
「「「「はぁ?」」」」
ガルゼニスの答えに一同が一斉に目を丸くする。
その中でファルゼンだけがクスクスと笑いをこらえているようだ。
「え?じゃぁ、魔界国軍の兵士達は今王子がここにいることは知らないのか?」
さすがにリリヤも驚きそう言うが、
「フッ。置き手紙をしてきたから大丈夫だ。アランに言うと絶対にダメというからな。だからこの方法しかなかったのだ。ちなみに私の呼び方は王子ではなく『ガルゼニス』もしくは『ガルちゃん』でいいぞ」
ガルゼニスは堂々とそう言った。アラン大尉がかわいそうに思えてくる。
「今更引き返すのもなぁ…」
アルバートがそう言うと、
「仕方がありません。ハルト村の傀儡達を退治した後、一刻も早く王都へ戻りましょう」
と、ファルゼンが言った。
「まぁ、それがベストだな…」
アルバートもあきらめてそう言ったが、
「こ、国際問題にはならないよね…?」
と、カインは心配し続けていた。




