第24話 ヴィトラックの町攻防戦
傀儡達を一掃するのに時間はかからなかった。
辺り一帯は傀儡達の木片が散らばり、破壊から逃れて敗残兵となった傀儡達は森の中へと消えていった。
しかし、勝利の代償は大きく二百五十人程居た兵士は半分以下の百人程度になってしまった。
「ありがとうございます。助かりました…。」
戦闘が終結した魔界国王子ガルゼニスが率いる部隊の隊員の一人がアルバート達へ近付き礼を言ってきた。
「私はこの部隊の王子の護衛長をしております『アラン・アネリー』大尉です」
アランの後に王子のガルゼニスが近づき、
「エルフ国の方々でしょうか?本当に助かりました。あなたがたが居なかった場合、我々は全滅していたかもしれません…」
と、ガルゼニスも礼を言った。
「はっはっは!気にしなくてもいいってことよ!あ、ちなみに俺はルグニア王国の人間だぜ」
アルバートはそう得意気になりながら言った。
「ガルゼニス王子、我々はこれからヴァトラックの町で攻撃をしている傀儡達を倒しに行こうと思います。王子達は後から来る増援部隊と合流し、攻撃に参加していただくと助かります」
と、ファルゼンは提案したが、
「既に通信兵が我々はヴァトラックの町へ行くことを伝えてある。我々の部隊もヴァトラックの町を守るために一緒に行こうと思う」
ガルゼニスはそう言うが、既に兵たちの疲労もかなりのものだろう。ファルゼンはそれを心配していた。
「王子はこの馬車で先に援軍の所へ行っていただけませんか?この者達の腕も確かですし、信用も出来るでしょう。町への援軍は我々が引き受けます」
と、アランが言った。
アランがこう言ったのには王子であるガルゼニスを無事な増援部隊の中に紛れ込ませてしまおうという理由があったからだ。
「な!?馬鹿を言うな」
ガルゼニスは驚き声を荒らげた。
「仲間である兵を捨てて私だけが逃げるなど、許せるものか!」
と、ガルゼニスは怒りを露にする。アランの目的はガルゼニスに看破されていた。
だが、アランは譲らない。
「少しは立場をお考え下さい!今回王子のワガママで討伐隊に参加なされて予想外に敵の猛攻に遭ったのですよ?これ以上危険な目に遭いたいのですか?ここに居てはいつまた傀儡の大部隊に襲われるかわからないのですよ?」
そうアランも怒り出す。
「まぁまぁ、我々の馬車ももしかしたら敵の的になるかもしれません。傀儡には空を飛べる種類もいますし安全とは言えないんですよ」
ファルゼンは二人を落ち着かせる。
「な、なんと…ルグニア王国ではそんな傀儡も現れたのですか!?」
と、アランは驚いた。
そしてファルゼンの言葉に少し頭を冷やしたアランは、
「では、私と一緒に後方で指揮をとりましょう…」
と、提案したが、ガルゼニスは、
「ヤッ!」
「嫌って…、子供じゃないんですから!」
ガルゼニスは断固として兵と一緒に前線に立って戦おうとした。
歩けない程重体の兵は衛生兵の他、カイン、リリヤ、ファルゼン達の治癒術で応急処置をした後、馬車へと乗せ、一行はヴァトラックの町へと行った。
「ヴァトラックの町には魔界国軍五本の指に入る女性大魔術師『ハウィンラック』准将がいます。そう簡単には陥落しないと思いますが…」
アランがそう言うと、
「あの『ロイネ・ハウィンラック』が居るんですか!?」
と、カインが驚く。
「そうか、あなたは魔法使いですよね?やはりルグニア王国の魔法使い界でも有名ですか。あの方はいくつもの新魔法を開発している方ですからね」
「えぇ。あの方の魔法は今まで考えられなかった理論をまとめあげ、惜しみなく世間に発表してきた偉人ですからね。しかもまだ26歳で」
カインとアランの会話に熱が入る。
「もうそろそろ町が見えてきます」
道案内役の兵士がそう言うと、皆の気が引き締める。
少し進むと町が見えてきた。ヴァトラックの町である。
「よし。まだ落とされていないようだな」
ガルゼニスは安堵の表情を浮かべる。
「だが、まだ結構いるな」
壁の上に取り付こうとしてワラワラと群がっている傀儡を見てガルゼニスは言った。
「よし、ヴァトラックの兵の援護をする!突撃だぁあ!」
隊長クラスの兵が皆死んでしまったため、代理で指揮をするガルゼニスの指揮で兵士達が突撃をした。
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「ハウィンラック准将!王子の部隊が援軍に来ました!」
一人のヴァトラック駐在の兵士が、ヴァトラック駐屯地最高指揮官『ロイネ・ハウィンラック』に報告する。
「何!?と言うことは、もう王都からの援軍も到着したのか?」
ハウィンラック准将はそう兵士に尋ねたが、
「いえ、規模が小さいのでおそらく王子たちは自力で傀儡部隊を突破し我々の所へ駆けつけて来ていただいたのかと…」
と、兵士は言った。
「そんな!あれを自力で突破出来たのなら大人しく救援を待っていればいいものを…。いや、だが待っていたら傀儡の増援が来る可能性もあったのか…。くぅ…王子の為に道を開ける!全軍の魔術部隊を駆使し、門付近の敵を一掃しろ!」
兵士の報告にハウィンラック准将は驚愕し、ガルゼニスの為に道を開くように指示をした。
「了解!」
ハウィンラック准将の命令でヴィトラックの駐屯兵達は慌ただしく門の前に集まっていった。
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アルバート達が突撃し、傀儡達と戦闘になるのと同時にヴァトラックの正門付近の傀儡達が先ほどとは明らかに違う大規模な攻撃魔術や矢の嵐で一掃されていく。
そして巨大な正門付近の傀儡達が少なくなったのを見計らい、ヴァトラックの兵士達が正門から大勢出てくる。
「王子が通る道を開けよ!」
「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
と、門から出てくる兵士達の声が聞こえてくる。
「おぉう。こりゃスゲェや」
アルバートが言う通り、ヴァトラックの兵士たちと傀儡達を挟み撃ちにし、次々と敵の傀儡を木片へと変えていく。
「弓がもうねぇし!」
リリヤは魔法学校やエンキュー村で大量に仕入れた矢を使い果たした。
「無いなら作るし!」
リリヤはそう言うと、聖術で固めた光の弾を引き伸ばし細い棒状にして、矢として飛ばす。実はこちらの方が籠から矢を取り出す行動が無いため早く射る事ができる。だが燃費が悪い。
「うりゃりゃりゃりゃぁあああああ!」
一人とは思えない程の量の矢を射るリリヤのおかげで陣形が崩れる傀儡。それを機にアルバートやルージュ、兵士達は傀儡達に止めを刺す。
更に傀儡達を一定の数だけまとめ、今度はカインやファルゼンなどの術師がまとめて吹き飛ばす。
「よし、順調に奴らは数を減らしている!」
ガルゼニスは最前線に立ち自分の槍で傀儡達を串刺しにしていった。
ガルゼニスもかなりの実力者のようで、傀儡達を串刺しにする他、槍に魔力を纏わせ、それを回転させた状態で傀儡を突く。すると傀儡達はバラバラに破壊されていく。
「凄い技だ…」
魔法と槍術を組み合わせて戦うその姿にアルバートは目を輝かせた。
今度は傀儡達に勝利するのに兵士の犠牲は少なかった。
中には今まで見かけなかった弓使いタイプの傀儡も居たが、大きさが今までと変わらない1m20cm程だったため戦力にならなかったと思われる。体と比例し矢も小さいので威力が無い。
しかし、それでも弓使いタイプが出てきたのは要塞攻略の為だろうか?
「王子。危険を承知で来ていただいた事、感謝致します」
ハウィンラック准将はガルゼニスに近づき跪いて挨拶をする。
「いや、なんとかこの町を守る事ができた。私も君たちに感謝する。よくぞ守り抜いてくれた」
「勿体ないお言葉…ありがたく頂戴致します」
ガルゼニスは清々しい顔をしていた。
「ん?」
ここで木片となった傀儡を見ていたファルゼンは何かに気付き、傀儡を調べている。
「おいおい、なにしてんだ?また分解か?」
アルバートがそう言ってのぞき込むと、
「いえいえ、違いますよ。これは…苔ですね」
ファルゼンは傀儡の足に付着していた植物を見る。
「おや?それは…『テンデロント』という苔ですね。この近くにある『オーラック』という洞窟にしか生息していない珍しい苔ですよ」
と、ヴァトラックに駐在する魔界国兵士の一人がファルゼンに教えた。
「なるほど、この傀儡達はそこから来たのか。と、なると奴らの陣がそこにあるということでは?」
そうルージュが言うと、
「後2時間程でアネリー大佐の援軍が到着する予定です。その部隊と合流し敵を叩きましょう!」
と、ファルゼンの考察を聞いていたアランがガルゼニスに提案したが、
「それではダメだ!奴らがこの町の攻略や私の誘拐に失敗したということは既に逃げた傀儡達の様子で判るはずだ。ならばすぐにでも奴らを倒しに行かなくては!それに洞窟にわざわざ陣を作ると言うことはこの誘拐事件の犯人がいる可能性が高い!屋根のあるところに人は居る」
ガルゼニスは力強く言った。
「連戦続きですよ?我々兵は戦う余力は残していますが、せめて王子だけはこの町で…」
「ヤッ!」
「……」
アネリーは渋い顔をする。
「では、私の隊を半分『オーラック』の洞窟に向かわせましょう。王子は私と一緒に基地へ…」
ハウィンラック准将はそう提案したが、
「せっかくのお誘いですが申し訳ない。私はここへ自分だけ助かりに来たわけではない。ようやく誘拐犯を捕まえられるチャンスなのだ。魔界国代表として私自身が行かなくてはならない!」
ガルゼニスはあくまでも一緒に討伐する事を強く押す。
「わかりました…。私も一緒に従いていきましょう…。私のそばを決して離れないで下さい」
ハウィンラック准将はため息混じりでそう言った。
アランも国民の為に力を尽くすガルゼニスは国の誇りだが、尽くす場所を間違えていると思う。こんなことは自分の口からは言えないので、父のアネリー大佐にでも言ってもらおう…。
「では、オーラックの洞窟へ向かおう!」
いきなり元気よく出発するガルゼニスの後を急いで追う兵士達。
「おぉう!?もう行くのか!」
アルバート達も慌てて追いかけた。




