07 神様へ謝罪を
2016. 6. 10 0:00 投稿分
学校の傍にある神社は夕輪神社と呼ばれている。小さな土地神様の社だ。
小高い山の隅。その神社横では、最近嫌な事が続いていた。
横断歩道から少しばかり離れたその場所は、道路を挟んで神社とは反対側に下の山道へ通じる細い脇道の階段がある。
地元民もあまり通りたがらないその道とも呼べない通路を、子ども達がその下にある駄菓子屋への近道といって通りたがるのだ。
そして、まさにそこを目掛けて今、反対側の歩道から飛び出してくる小学生の男の子を見つけた。
「ちょっと、危ないからあっちの横断歩道から渡りなっ」
堪らず、優香が叫ぶ。しかし、子どもは聞いてはいない。その時、カーブを曲がってきたトラックが見えた。
「きゃぁ!!」
早希が思わず悲鳴を上げる。だが、響華は冷静だった。その人の音が聞こえていたからだ。予想した通り、少年はその青年によって助けられていた。
首根っこを掴まれるように、襟首を引っ張られ、半泣きになって吊るされている。
響華は横断歩道まで駆け、反対側に渡ると、少年の下へと急いだ。どうやら優香と早希も後をついてきているようだ。
駆けつけた響華は、頭を押さえられ、屈んだ青年と泣きながら目を合わせる少年を見た。
「おい、ガキ。死にてぇんなら、神様の傍で死のうとすんじゃねぇよ。あの世にも逝けなくなりたいのか?」
「うっ、うぅっ、ご、ごめんなさい……ふっ、うぅ」
泣きべそをかく少年に、明らかにカツアゲでもしていそうに見える青年が、わけのわからない説教をしていた。
「泣いてんじゃねぇよ……泣きてぇのはこっちだってんだよ」
顔を顰め、そうぼやく青年に、響華は近付いて声をかけた。
「その子、離してやってくれる? 子どもの泣き声は、神様に良くない」
「あ?」
そこでようやく気付いたというように響華を見上げた青年は、掴んでいた少年の頭を離す。見られている事を自覚しながら、響華は身を屈めて少年に言った。
「泣くんじゃない。早く泣き止んで、神様に謝りなさい。向こうの社に向かってもう二度とここから渡らないって約束するの」
「え……」
少年はぽかんと口を開けて響華を見上げる。
響華は笑みも見せず、淡々と続けた。
「ここの神様はとっても優しいお爺ちゃんなんだ。 お山の神様は迷い子にならないように、親の下に帰れるように願ってくれる。そんな神様の傍で死にそうになったんだよ。謝るのが当然でしょ?」
「……」
わけのわからない事を言われたせいで、少年の涙はとうに止まっていた。
そこで優香と早希が少年の体を神社の方へと向けて両脇から言う。
「ほら、神様にごめんなさいは?」
「お姉ちゃん達と一緒にごめんなさいしよう」
「あ……ご、ごめんなさい」
反射的にそう言って優香と早希に倣い、頭を下げる。悪い事をしたという意識はあるはずだ。大人達はここから渡ってはいけないとこの辺りの子ども達に言い含めている。
必ず横断歩道を渡るようにと学校でも指導されているのだ。ルール違反だという事を、子どもは意外と理解しているものだ。
「どう? 響華。これで神様は許してくれるかな」
「もう絶対しないよね?」
「うんっ。ごめんなさいっ」
小学生にとって高校生のお姉さん達はとっても大人だ。その二人から援護され、素直に言う。
「そうだね。私からも謝っておいてあげる。だから、もうここから渡ったら駄目だからね」
「うん!」
元気に返事をした少年を解放し、ちゃんと横断歩道を気を付けて渡る所も見届ける。反対側の目的とする細い道に消えていくまで、響華達は見守った。
そして、一緒に青年がその場に屈んだまま見つめるのを感じていた。
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