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社に響く楽の音を  作者: 紫南
6/25

06 受け継いだ能力

2016. 6. 9 23:00 投稿分

響華は今朝見た青年の事が気になり、そわそわと落ち着かない一日を過ごした。


授業が終わる頃。少しだけ冷静に頭が働くようになる。


「そういえば……」


ふと気付いたのは、最近あの神社の神の姿を見ていないなという事だった。


「江上さん」


帰る用意をと思いながらも考え事をしていた為に手を止めていた響華は、クラスメイトに呼ばれて顔を上げた。


「なにか?」

「江上さん、部活もやってないんだよね? 私、急いでるんだ。悪いんだけど、これ職員室に持っていってくれない?」

「……いいけど……」

「そう。よろしくね」


名前もまだ覚えていないクラスメイトに、用事を押し付けられ、響華としては少しムッとしてしまう。


響華は人付き合いが得意ではない。何より、名前を覚えるのが苦手だ。それだけではなく最も問題なのは、顔も覚えないことだった。


クラスメイトなどは、委員長など、役職を持った者のみ。あとは担任、教科の各教師、校長と教頭くらい覚えていればいいかと思っている。


そんな響華にも数少ない友人はいる。いるといってもたった二人だ。


「響華。あんた、嫌なら嫌って言いなよ。まったく鈍臭いんだから」


そう腰に手を当て言うのは、長身で活発そうな短髪と笑顔が似合う美杉優香だ。


「そうそう。響華ちゃんは鈍臭いんだよね。顔を認識しようとして呆っとしている間に押し付けられちゃうんだ」


可愛らしいツインテールの髪をふわふわと揺らしてやって来たのは、もう一人の友人。桂木早希だった。


「……なるほど……」


響華自身、自覚のなかった事に二人は気付いていたようだ。確かに、自分がその人を認識するには時間がかかる。


確実に名前と顔が一致している人ならば問題はないが、どうも自分はその人の持つ音を認識しようとしているのだ。


「そんなんなのに、私ら二人はすぐ認識するよね。壁越しとかでも余裕で」

「それあるね。この前一緒に買い物行った時、連絡もしてないのに探し当てられた時は、びっくりっていうか尊敬した」


先日、三人で大きなショッピングモールに買い物に行った。


そこで、はぐれてしまった早希を、響華は苦もなく探し当てたのだ。


人も多く、頼りにすべき早希のスマホが充電切れで通じなくなっていたのにも関わらずだ。


「ちゃんと二人の持つ音は覚えてるから大丈夫。多分、市内なら全域いける」

「怖いわ!」

「特別なGPSを着けられてる感じだよね」


性能の良いやつを持ってるみたいで安心だと早希は笑った。しかし、響華の能力を理解している優香であっても、笑える問題ではない。


「ちょっと、早希。なに喜んでんのっ」

「なるほど……GPSか……」

「響華も頷いてんじゃないよっ。私達相手だからいいものを、これがなんにも知らない相手だったら速攻で引かれてるからね」


怖いと言いながらも、優香も便利な能力だと認めている。


「…………分かってる」

「大分、間があったね」

「響華。頼むから私らのいない場所で人探しとかするんじゃないよ」


優香と早希は、響華の能力を他人に知られる事を警戒している。それは全て響華の為だ。ただでさえ奇行の多い響華を日々フォローしていた。


「そうだよ。響華ちゃんは、たまにおかしな行動に出るもんね」

「今日のお弁当も驚いたわ。よく鈴香ママと誠パパが許したよ」


響華の持ってきたタッパーに詰められたどんぶり飯風のお弁当を思い出し、二人は少し遠いところを見る。


「許すっていうか……問答無用で詰めて鞄に放り込んだから」

「それ、絶対にママ達、後で泣いたね」

「『最速!』とか言ってドヤ顔した時に撮ったあんたの写真……送ってなかった?」


どんぶり作戦は功を制し、今までの最速記録を塗り替えた。お陰で余裕で本日の課題は全て終えている。


あまりにも満足なタイムだったので、記念写真を撮ったのだ。


「送った」

「ちょっ、鈴香ママ達、今日のお仕事大丈夫⁉︎」

「結構ダメージ大きいよね」

「あの、昨日までの完璧に計算されたデコ弁を見てるとね……今日のはないわ」


二人とそんな話をしながら、頼まれた学級日誌を職員室の担任に届け、そのまま下校する。


「そういえば、響華の能力って、亡くなったばぁちゃんから受け継いだやつなんだよね? ばぁちゃんもこんなだった?」


優香が呆れながら体を曲げ、背の低い響華に合わせるように顔を覗かせて言った。


「どうだったかな?」

「う〜ん。やっぱ響華がちょっと変で、人の顔とかを覚えないのは、能力のせいというより、性格かな」

「私もそう思う。おばぁちゃんの方が耳が良かったって言ってたよね」

「うん。人に対する音の認識力は凄かった。一度会った人は全部把握してたみたいだから」


響華や亡くなった祖母が認識するのは、その人を取り巻く雰囲気とも呼べるもの。それと体から響く心臓や生きている生命の音が合わさり、一人一人違った音楽が聞こえるのだ。


「凄いなぁ。でも、それなら運命の人とか分かっちゃったりするんじゃない?」

「何をもって運命にするのかな……」


夢見がちな早希には度々呆れてしまう。


しかし、そう言って思い出したのは、今朝の青年の姿だ。強烈な金髪の色が記憶の中でぼやけずに鮮やかな色を残している。


「あれ? 響華ってば、何か思い当たる人がいるとか?」

「うそっ。運命出会っちゃった⁉︎ どんな人⁉︎」

「ないから」


ここで動揺してはいけない。そうして、あの神社の前に通りかかったのだ。



読んでくださりありがとうございます◎

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