05 惹かれるもの
2016. 6. 9 0:00投稿分
響華の通う高校は、電車とバスを乗り継いで一時間という距離にある。
かなり早めに余裕を持って登校する響華は、朝の通勤ラッシュの時間の少し手前には電車に乗っていた。
早く起きる事もあまり得意ではないが、混雑する電車やバスに乗るくらいならと思う性格だった。
今日も余裕がある響華は、バス停からの道をのんびりと朝の散歩気分を味わっていた。
「やっぱ、風が強いな……」
春の気候は心地よいが、突風を巻き起こす。スカートが翻るし、少々長くなった横髪が顔に張り付いてイラっとしてしまう。
「鬱陶しい」
朝から不愉快だと思って歩いていれば、道を挟んだ反対側の神社の前に、金髪で黒い革ジャンを着た青年が立っているのが目に入った。
響華は一瞬、大きく鳴った心臓の音に驚く。
その姿は、今朝方見た夢の人物像にピタリと当てはまったのだ。
「……誰……っ」
そんな小さな呟く声が離れた彼に聞こえるはずはない。しかし、青年がふと振り向き、響華を見た。
鋭い光を宿すつり目。引き結ばれた口元。一見して関わり合いになりたいとは思えない容姿だった。
息を呑み、歩みを止めた響華を、青年は面白くなさそうに見つめ、すぐに目線を神社へと戻す。
ほっと息をつき、響華はそのまま学校に向けて歩き出した。振り返りたい衝動を堪え、ひたすら風に逆らって進む。
そうして、鳴り響く心臓の音を聞きながら、学校へと急ぐのだった。
◆◆◆
律樹は、その神社の前で立ち止まっていた。
社へと続く階段を見上げ、悔しそうに立ち尽くす。
「空気が澱んでやがる……」
重たくまとわりつくような嫌な空気。それは、決して神社の加護が届くこの場にあってはならないものだ。
今この場で出来る処置は気休めにしかならないが、少しでも清めるべきだろう。
幸い、今の時間ならば人通りも少ないようだ。これならばと気を高めだしたその時だった。
ふと不思議な気配を感じて、律樹は動きを止める。
邪魔になるような人は周りにいなかったはずだと、不審に思いながら反射的に振り向いた。
道を挟んだ反対側の歩道。そこに、少女がいた。彼女は真っ直ぐにこちらを見つめて立っている。
長い黒髪は後ろに一つに束ねられ、風に煽られる横髪と前髪は綺麗に切り揃えられている。
小柄で一見中学生かとも思ったが、その瞳に宿る光や感じられる雰囲気は、大人の女性のそれに感じられた。この先にある高校の生徒だろう。
「ふん」
律樹は女性が得意ではない。中・高の姦しい女達が鬱陶しくて仕方がなかった。
あざとく、何を考えているのか分からない。機嫌を取らなければ会話も成立しない。そんな女達が嫌いなのだ。
興味もないと目を背ける。すると、気配で彼女が去っていくのが分かった。
ほっとするのと同時に、何か言い知れぬ不安が渦巻く。
「何だ?」
自分でもわけがわからなくて、不思議に思いながら、胸を押さえる。そして、惹かれるように去っていく彼女の背中を目で追っていた。
「……きれいな髪だな……」
そんな言葉が零れる。しかし、自分が呟いた言葉が信じられなくて、舌打ちする。
「ちっ、仕事だ仕事」
はっきりとしない思いを振り払うように、律樹は真っ直ぐに神社を見つめ、この場を清める為に意識を集中するのだった。
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