表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社に響く楽の音を  作者: 紫南
5/25

05 惹かれるもの

2016. 6. 9 0:00投稿分

響華の通う高校は、電車とバスを乗り継いで一時間という距離にある。


かなり早めに余裕を持って登校する響華は、朝の通勤ラッシュの時間の少し手前には電車に乗っていた。


早く起きる事もあまり得意ではないが、混雑する電車やバスに乗るくらいならと思う性格だった。


今日も余裕がある響華は、バス停からの道をのんびりと朝の散歩気分を味わっていた。


「やっぱ、風が強いな……」


春の気候は心地よいが、突風を巻き起こす。スカートが翻るし、少々長くなった横髪が顔に張り付いてイラっとしてしまう。


「鬱陶しい」


朝から不愉快だと思って歩いていれば、道を挟んだ反対側の神社の前に、金髪で黒い革ジャンを着た青年が立っているのが目に入った。


響華は一瞬、大きく鳴った心臓の音に驚く。


その姿は、今朝方見た夢の人物像にピタリと当てはまったのだ。


「……誰……っ」


そんな小さな呟く声が離れた彼に聞こえるはずはない。しかし、青年がふと振り向き、響華を見た。


鋭い光を宿すつり目。引き結ばれた口元。一見して関わり合いになりたいとは思えない容姿だった。


息を呑み、歩みを止めた響華を、青年は面白くなさそうに見つめ、すぐに目線を神社へと戻す。


ほっと息をつき、響華はそのまま学校に向けて歩き出した。振り返りたい衝動を堪え、ひたすら風に逆らって進む。


そうして、鳴り響く心臓の音を聞きながら、学校へと急ぐのだった。


◆◆◆


律樹は、その神社の前で立ち止まっていた。


社へと続く階段を見上げ、悔しそうに立ち尽くす。


「空気が澱んでやがる……」


重たくまとわりつくような嫌な空気。それは、決して神社の加護が届くこの場にあってはならないものだ。


今この場で出来る処置は気休めにしかならないが、少しでも清めるべきだろう。


幸い、今の時間ならば人通りも少ないようだ。これならばと気を高めだしたその時だった。


ふと不思議な気配を感じて、律樹は動きを止める。


邪魔になるような人は周りにいなかったはずだと、不審に思いながら反射的に振り向いた。


道を挟んだ反対側の歩道。そこに、少女がいた。彼女は真っ直ぐにこちらを見つめて立っている。


長い黒髪は後ろに一つに束ねられ、風に煽られる横髪と前髪は綺麗に切り揃えられている。


小柄で一見中学生かとも思ったが、その瞳に宿る光や感じられる雰囲気は、大人の女性のそれに感じられた。この先にある高校の生徒だろう。


「ふん」


律樹は女性が得意ではない。中・高の姦しい女達が鬱陶しくて仕方がなかった。


あざとく、何を考えているのか分からない。機嫌を取らなければ会話も成立しない。そんな女達が嫌いなのだ。


興味もないと目を背ける。すると、気配で彼女が去っていくのが分かった。


ほっとするのと同時に、何か言い知れぬ不安が渦巻く。


「何だ?」


自分でもわけがわからなくて、不思議に思いながら、胸を押さえる。そして、惹かれるように去っていく彼女の背中を目で追っていた。


「……きれいな髪だな……」


そんな言葉が零れる。しかし、自分が呟いた言葉が信じられなくて、舌打ちする。


「ちっ、仕事だ仕事」


はっきりとしない思いを振り払うように、律樹は真っ直ぐに神社を見つめ、この場を清める為に意識を集中するのだった。

読んでくださりありがとうございます◎

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ