03 組織の上司
2016. 6. 8
いける所まで毎日投稿します。
15日くらいまでには完結させる予定です。
朝日を眩しそうに受けながら、神域から戻った青年が住宅街を歩いていた。
「リツ、リツキ。ここじゃ、 律樹」
「……朝から連呼せんでください……」
その声に顔を上げると、公園を囲むフェンスの上にゴスロリの幼い少女がいた。
「なんじゃ。二日酔いのオヤジのように顔を顰めおって。やった酒を呑んできたのか?」
「呑んでないっすよ。ほら、人目につくとアレなんで、下りてきてください」
目立つ事この上ないので、勘弁して欲しいと、律樹と呼ばれた青年は、両手を広げて受け止める姿勢を取った。
「うむ。佳きにはからえ」
少女は偉そうにそう言って飛び降りた。それを難なく受け止めて、律樹はそっと地面へ下ろし、少女と目線を合わせるように屈み込んで言った。
「夕輪の神を見てくるように頼まれました」
「ほぉ。あれは古き神じゃったな。どれ、我も行こうか」
「いや、いいっスよ。それに、この時間だと、本部で会議のはずでは?」
少女は律樹の所属する、とある組織の幹部であり、八百万の神が住まうこの日本で重要となる『神部門』の室長でもあった。
上司である少女は、朝日が昇る頃、本部での会議に出席しているはずなのだ。
「ふむ。律樹……お主、ほんになぜ不良などしておるのだ?」
律義な所があり、正論を口にする律樹に、心底不思議だと首を傾げる少女。紫色に見える瞳は、いつでもどんな時でもゾクリとする強さを秘めている。
「別に不良だと公言した事はないっスけど」
「そうじゃったか? じゃが『金髪で革ジャンを羽織ったのは不良だ』とどこかで聞いたんじゃがのぉ」
「……偏見っスね」
確かにそのスタイルを通しているが、街に溢れる馬鹿と一緒にされたくはないと思っている。
何より、好きでこんな格好をしているわけでもない。成り行き上、たまたまこのスタイルが定着してしまっただけだった。
「まぁ良い。このまま向かうのじゃろ? 行くぞ」
「誤魔化しはダメっすよ」
会議はまだ続いている時間だ。今からならば間に合うだろう。
そのままブッチしようとしている少女の腕を捕まえ、スマホを片手で操作し、電話をかける。すると、二回のコールで相手が出た。
「室長はここっス」
「律樹! 裏切りおったな⁉︎」
愕然とする少女に半眼を向け、通話を切る。
「これも、室長の為。『働かざるもの食うべからず』ってのが、うちの部の理念の一つっスからね」
「鬼じゃ!」
「はいはい。来るのは鬼っスよ」
そんな会話をしていれば、路地裏から一人の女性が現れた。
「ナキ様……おかしいですねぇ。本部へ行っておられるはずの方が、このような場所で迷子ですか?」
「ひぃっ! クズハ……」
とっても黒いものを滲ませ、静かに怒りの波動を発するクズハという女性。彼女は、鬼神と呼ばれる一族の者で、室長であるナキの秘書だ。
「さぁ、参りますよ」
「いやじゃぁぁぁ。退屈で死ぬ。会議なぞ、楽しくないのじゃ!」
「仕事とはそういうものです」
「ワシは魔女じゃ。面白いものがなければ死んでしまうわっ」
「そんな事例はありませんから安心してください」
そう言いながら、クズハはナキを引きずっていく。その光景は、教育ママが、駄々をこねる子どもを連れて出かける時のようだ。
呆れながら見送っていた律樹だったが、クズハが再び現れた時と同じ細い裏路地へ足を踏み入れる寸前で振り向いた事に、ビクリと身をすくませた。
「律君。報告書は明日の朝までに提出を。昼からは大学の講義があるでしょうから、お役目はそれ以降にするように。万が一、今年も単位を落とした場合……分かっていますね」
感じた殺気にも似た気配に、反射的に立ち上がると、息を詰めて答える。
「イエッサー!」
律樹は直立不動で青ざめた顔を微かに震わせる。そのまま、その答えを聞いて満足そうに消えていったクズハを見送ったのだった。
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