02 神々の宴
2016. 6. 7
その日の夜。
とある場所で力ある神々の宴が開かれていた。
それは現世ではなく、常世でもない。神達の集まる神域だった。
《おう。よぉ来たのぉ》
《この数年顔を見せなんだが》
《随分毛色が変わったではないか》
そう神々に言われ、仏頂面で現れたのは、一人の青年だった。
「受験やなんやで拘束されてたもんで」
彼は紛れもない人間。この場に似合わない、少々やんちゃな今時の青年だった。
「あと、これは染めたんだよ。次は赤にする」
青年はツンツンと立った金の髪を摘み、説明する。
《赤などやめておけ。青はないのか?》
失礼な態度の青年に頓着することなく、神々は話かける。
「青って……じぃさんが言う青って、緑の事だな。顔色悪く見えんだろ」
《そうか? 野菜のようでよさそうじゃがなぁ》
「なにを求めてんだよ……」
そう言って呆れながら、青年は腰を下ろすと、持っていた大きなリュックから瓶をゴロゴロと取り出した。
「これ、酒」
《おうっ、ようやった》
《盗んできたのではないじゃろうのぉ》
《細かい事は気にせんでええって》
「盗んでねぇよ」
仏頂面で言う青年に、それならば遠慮なくと、神々は酒の瓶を嬉しそうに抱えていった。
「けっ、その辺のオヤジ共と変わらんな」
青年は宴会を見つめながら、そうごちる。そこに月姫と呼ばれる十二単の美しい姫が現れた。
《なんじゃ。小童。酌でもせんか》
「しねぇよ」
青年は神の前でも臆する事がない。
その場で胡座をかき、頬杖をつく。そんな青年の隣に月姫が優雅に座った。
《いつにも増して、機嫌が悪いのぉ。また父親か》
「……なんで分かる……」
《ぬしは素直じゃのぉ。そんなナリをしておるから誤解されるのじゃ》
「悪りぃかよ……」
彼は父親とのソリが合わないらしい。会えば口喧嘩になると、最近は家へも帰っていない事を、月姫は知っている。
《影の館に属しておるとだけでも伝えればいいものを。要領も悪いのぉ》
「うるせぇよ……」
コロコロと笑う月姫に、青年は完全に不貞腐れたように呟いた。
《ほほほ……まぁよい。仕事を頼みたい。夕輪の神が、最近とんと顔を見せぬ。どうしておるのか……》
「そういやぁ、最近俺も見てねぇな……」
青年は巫覡師と呼ばれる者。こうして神の頼みを聞くのが仕事だった。
《それと、そろそろ妾のかわゆい姫にも会って欲しいのぉ。お主になら嫁にやっても構わぬ》
「女は嫌いだっつってんだろ」
そう言って、毎回同じ事を繰り返すのだ。
《良いと思うのじゃがのぉ。お主の笛も聞かせてやって欲しいのじゃ。それにのぉ……》
月姫はそこで言葉を切ると、青年へ耳打ちする。
《あれは異能じゃ。言うた事はなかったかもしれんが、主と同じ、神が見えるのじゃよ》
「なに?」
驚きに目を瞠る青年に、ようやくこちらを向いたかと月姫は嬉しそうに笑った。
《はよぅ、会ってやっておくれ。孤独を知る前にのぉ》
「っ……けっ……気が向いたらな……」
《ほほほっ、期待しておるでな》
そうして、優雅に笑いながら、月姫は神の輪へと入っていく。
そんな光景を、青年は離れた場所から静かに見つめていたのだった。
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