酔っ払いの龍
翌日 紅魔館前にて…
次の日のお昼、勇儀さんと紅魔館のドアの前に座り、雨と風をしのぎながらご飯を食べていた。
「いやー仕事もしないでただ飯食べさせてもらってすまないね」
「いえいえ、ここまで来るまで大変ですし、もしかしたら晴れて仕事出来るかもしれませんよ」
しかし雨は次第に強さを増し始める…。
大量の雨が降る中、朝に勇儀さんは合羽装備で約束通りに来てくれた。
鬼は嘘をつかないと言うのは本当らしい。
今日は生憎の大雨だ。
妹様は外に出る予定だったが雨の為に出ることができなくなった為かなりご機嫌が斜めだった。
咲夜さんはご機嫌斜めの妹様が壊した屋根の修理でイライラしていた。
パチュリー様も湿気の為、本が駄目になるからと小悪魔と一緒に新しく増やした本に防湿の魔法をかけてい忙しくイライラしている。
お嬢様は、窓を開けっぱなしにしていた為、朝に大量の雨を浴びて起きた為イライラしていた。
私、紅美鈴は…。
「こりゃ、粘土がぐちゃぐちゃになって駄目だ…今日は直せなさそうだね」
「そうですね、今日は止めにしますか」
普通だった。
別に出かける予定もなかったし、何か急用ができた訳でもないし、窓を開けっぱなしにもしてないから
私はいつもの通りの生活をしていた為、普通だった。
しかしいつもと違うことがいくつかあった。
一つは星熊 勇儀さんがいること。
彼女は塀を直しに約束通りに来てくれた。
二つ目はもう一人の人物の事だ。
『蒼 仙龍』
彼女の事だ。昨日、約束したことやお嬢様達の話しにも出たこともあるのかもしれない。
しかし昨日の勇儀さんと対峙した時、彼女の気が普通の妖怪より出ていたこともあるからなど色々と。
要するに『彼女が気になる』のだ。
「あの子…何してるんだろ」
同刻 八雲紫宅にて
『スペルカードルール?』
『そう、幻想郷での決まりは守ってもらうわよ』
藍のご主人様の人が私に教えてくれた。
ここでの決まりらしい。
私は昨日の事で少し注意されていた。
『あなたが昨日、鬼にやった事は本当であればルール違反なの』
『そうなんだ、ごめんなさい』
私は紫の人に頭を下げた。
間違えたことをしたら必ずその人に謝る。
これは、常識。
頭を下げた私に紫の人は驚いた顔をした。
なんでかは分からないけど。
『これから守ってくれればいいわ。ところであなたの例の件だけど…』
紫の人は扇子で自分の口元を隠し考えていた。
少しの静寂の後に紫の人は言った。
『危ない物はほとんど博麗神社の蔵の地下に保存してるわ…。博麗神社に行ってみなさい。霊夢には私から伝えてあげる』
『じゃあ龍玉返してくれるの?』
『ええ、もしあったらの話だけど…』
やった!これで私の力が元に戻る!
今のままじゃ少し苦しいからね…。
『それじゃあ、私はそこに行ってみようかな』
『わかったわ、けどあなた日本語話せないでしょ?どうするつもり?」
あ、しまった…。それがあるか…。
けど昨日、私…。
あれ?人と話してないっけ?
藍以外の…
美鈴だ。思い出した。まさか中国語喋れるなんて…。
『あー!私、忘れてた!急いで行かないと、紫の人、頼んだよ!』
そういうと私は急いで外に飛び出し、空へと飛んだ。
目指すは昨日、美鈴と約束した赤い館の塀直し
お昼頃だし、もう間に合わないかも…
「紫様、本当によかったのですか?」
藍が私に聞いてきた。私は少し悩んでいた。
『龍』の本来の力は私を凌駕するほどの力を持っている。
以前、博麗大結界を張った時に龍が幻想郷に現れたが、恐ろしい力で幻想郷を滅ぼそうとしたくらいだ。
空は暗雲と雷に覆われ、豪雨による人里すべてを飲み込もうとする水害…などなど。
その時は何とかして龍を説得し幻想郷はいつも通りになった。
そうそれくらいの力を持った者が幻想郷に入ってきてしまった。
正確には入れてしまった。
あれは一昨日のことだった。
働き過ぎの藍を見かねて私たちは藍の故郷で休暇をとった。
その時の夜に事件が起きた。
「紫様、紫様」
私が縁側でお酒を飲み休んでいると、橙が私の袖を引っ張った。
「どうしたの橙?」
「藍様いつ帰ってくるの?」
橙が心配してるのも無理はない。藍が出かけたのは五時間前だ。そんな長い時間、過保護の藍が橙をほっといて出かけたのは初めてだ。
連絡もないし、まさか男とか…ないわよね…。
(紫様!!紫様!!)
藍からの連絡だ。頭の中に藍の声が響く。
いつも落ち着いている藍がこんなに慌ててるのはゴキブb…リグルが出た時以来だ。
(藍、落ち着きなさい。どうしたの?)
(隙間を、私のところに隙間を繋いで下さい!!早く!)
藍の焦りがどうやら私にも来たみたいだ。私は慌てて能力を使い、藍のところに隙間を繋いだ。
その隙間から出てきたのは血だらけの藍ともう一人、血だらけの少女だった。
その子は藍に抱えられており、体のあちこちから血が出ていた。
「藍!!大丈夫なのあなた!!この血は…」
藍は私の質問に答えず急いでその子を下ろすと私に頭を下げてきた。
「紫様!!どうか…どうかお助け下さい!!」
「なんていきなり言われたから驚いたわ…しかも藍が龍と友達って聞いてないんだけど?」
「すみません…なんせもう会わないと思ってましたから」
藍が深々と頭を下げた。
……しかし…やけに慌ただしい子だったな…。
元気になった当日にもう外に出て一悶着起こしてるって…。
まあいいわ、幻想郷はすべてを受け入れるわ。どんな問題児でもね
「さて私も霊夢のところに行ってくるわ」
雨は次第に強さを増し始める…。
今日は無理だな…。あの子も来てくれなかったし…。
なんか最近いいことないな…。
私はため息を一つするとそれを見ていた勇儀さんが聞いてきた。
「おや?なんか悩み事かい?」
「あ!いえ!たいしたことでは…」
「誰かに打ち明けてみなよ?あたしだったら聞いてあげるよ?それか酒だね」
「いえ…仕事中には…ちょっと…」
その時だった。
急に突風が吹いた。
私の目の前に女の子が降りてきた。
昨日の女の子、蒼 仙龍だ。
昨日と違うのは背中に龍の模様が付いた大きな陶器の酒壺を背負っていた。
『やっほー、美鈴ー。遅れてごめんね?』
『いいんですよ、でも今日も遊べないかな?』
『ええ~!!どうして?どうして?』
『ほら、この雨じゃ無理だよ』
こんな大雨じゃ遊ぶって言ったって何もできない。
というより早く中に入って温まりたい…。
『な~んだ、それなら簡単だよ』
仙龍がニコニコ笑いながら空に手をかざす。
『こんな感じかな?』
その瞬間、大雨が一気に止み、太陽が段々と顔を出していった。
「え?なんだいこれ?いきなり空が明るく…」
勇儀さんが空を見て驚いていた。
私は仙龍を見て驚いていた。
『これで遊べるでしょ?」
空はもう快晴と言えるいい天気になっていた。
私は仙龍に聞いてみた。
『仙龍、あなたがやったの?』
『こんなの簡単だよ、これで遊べるね!』
仙龍は胸を張り、「えっへん」と言わんばかりの勝ち誇った顔をしていた。
『仙龍…あなたって何者なの?』
『ん?あたしはあたしだよ?』
『ち、違う、その妖怪なの?もしかして神様?』
『龍だよ?どうして?』
本当に龍だった…あの伝説の龍がこんなところにいるって…
私が驚いていると勇儀さんが私の肩をとんとんと叩き聞いた
「なあ、もしかしてこのお嬢ちゃんがやったのかい?」
勇儀さんがちょっと引き気味に聞いてきた。
「ええ…なんだか龍だそうです、彼女」
「へえ~…長生きはしてみるもんだね~」
さっきの顔とは一変してニヤッと勇儀さんが笑った。
合羽を脱ぎ、勇儀さんは胸をまだ張ってる、彼女に近づいた。
「あんた、あたしと戦ってみないかい?」
仙龍がきょとんとした。この国の言葉がわからない為、勇儀さんが何を言ってるか分からないようだ。
私が彼女にそれを伝えた。
『この人が戦いたいんだって』
『もしかして!スペルカードルールで?やる!やりたい!!』
なぜか凄く喜びピョンピョンと飛び跳ねる。
「お?どうやらいいみたいだね」
勇儀さんはスペルカードを二枚取り出した。
「あたしは二枚のスペカで戦わせてもらうよ」
『二枚だって、仙龍あなたは?』
私が聞くと仙龍は二枚取り出した。
『私、二枚しかまだ持ってないや』
「二枚だそうですよ、勇儀さん」
「そうかい、なら始めようか」
勇儀さんが酒を自分の杯に注ぎ、仙龍を見た。
仙龍は背中に背負ってた酒壺を下ろし、それの蓋を開けた。
『ねえ美鈴、ちょっと待ってって言ってくれない?』
「あの…待って、だそうですよ」
私が勇儀さんに伝えると勇儀さんは私の方を見て言った。
「ありゃ、いい酒だよ。匂いで分かるね、あんな上質なのどこで手に入れたんだか…」
確かに辺りにお酒の匂いが広がってる。
それに、果物の様な匂いも酒の匂いと混ざっていた。
仙龍は酒壺を抱え一気に自分の小さな口に流し込んでいった。
それをしばらく飲むと蓋を閉め、ふらふらとした千鳥足で勇儀さんに近づき、お辞儀をした。
『それじゃあ、始めよ。お姉さん、ひっく!』
仙龍はふらふらとしながら昨日の構えを取った。
なぜかその構えには威圧するものがあった。
やっぱりあれって酔拳だ!使う人初めて見た。
「いいね、酒好きはあたしも好きだよ!さあ行くよ!!」
勇儀さんは仙龍のいる距離を思いっきり詰めて腕を振り上げた。
勇儀さんが振り下ろすと同時に勇儀さんに密着するように近づいた。
というより抱き着いた。
「な、なんだい!?いきなり!!」
『これでいいの~』
勇儀さんが油断したと同時に勇儀さん足の関節に仙龍の足が絡み、柔道の様な技になりそれが勇儀さんに決まってしまった。
勇儀さんが地面に尻もちの状態になると仙龍は勇儀さんに背中を向け倒れたこんだ。
勇儀さんがそれを避けると顔がみるみる青ざめていった。
「酒が、こぼれた!!こいつ!『鬼符「怪力乱神」』!!」
起き上がった勇儀さんはスペルカードを発動させ、周りに弾幕が展開した。
仙龍はまだ寝ており、先ほど勇儀さんがこぼした酒を手を器の様にさせ、飲んでいた。
このままでは当たるという時に仙龍の声がした。
『『伝符「へべれけ八つ首大蛇」』』
すると仙龍が寝ていた地面から輪になる様に龍の首の様な弾幕が八本伸びぐにゃぐにゃとしながら勇儀さんの弾幕をかき消していく。
「なかなかやるねお嬢ちゃん!!面白いよ!!」
弾幕が消えた瞬間、勇儀さんがその真ん中に突っ込んでいった。
「これで終いだよ、『力業「大江山嵐」』」
大きな塊の弾幕が仙龍のいた地面にたくさん降り注いでいく。
そんな中空から声がした。
『『伝符「突然変異!!鯉→龍」』』
「な!!上に!!」
すると上から鯉の形をした弾幕が二つ勇儀さんに落ちてきた。
しかし本当の鯉と同じ大きさだったので簡単に勇儀さんは避け、勇儀さんの足元で鯉たちは地面でぴちぴちと跳ねている
「…それだけかい?」
『みんな~おいで~』
上から仙龍が呼ぶと鯉たちはいきなり変化し、龍の形になり空へ伸びて行く。
「しまった!!」
油断してた勇儀さんが思いっきり被弾し龍の中に飲まれた。
龍は今だに空へと伸びており、それはまるで二本の虹が立ってる様だった。
「き、綺麗…」
思わず口に出してしまった。私も虹をベースにしてスペルカードにしたがここまで綺麗なのは私には出来ない。
すると仙龍が降りてきた。
『ん~…いやいや、いい画だね~』
ふらふらしながら仙龍がそんなことを言った。
段々と龍の勢いが止まり、被弾した勇儀さんが出てきた。
「また油断しちまったよ…あたしもまだまだだね…今回はあたしの負けだよ…大丈夫かい?あんた」
勇儀さんが立ち上がりふらふらとしてる仙龍に近づく。
仙龍は勇儀さんにまた抱き着き、胸に顔を埋めていた。
『ふわふわする~。ふわふわ』
「はあ~…ここまでひどい絡み上戸みたの久しぶりよ…あんたに後は任せるよ」
勇儀さんが仙龍の首を掴み、私に投げてきた。
「わ!…びっくりした…」
今度は私の胸にうずくまってきた。
「…。」
「まあ、晴れたことだし仕事でも始めようか」
「そうですね…この子ちょっと寝かしてきます」
「ああ、行っておいでこっちは粘土作ってるよ」
私は彼女を抱き上げ、いつも私が寝て…休憩してる場所に寝かせようとしていた。
『さて…酔いが醒めるまでここで寝ててください』
すると私の腰に足を絡めてきた。
急だったので私は体制を崩し彼女の体に覆いかぶさる状態になった。
『ちょ、ちょっと!…困ったな…何とかして外さないと…』
…外そうとすると両腕で抱き着き私をもっと近くに寄せた。
やばい…意外にこの子、胸でかくて思いっきり当たってる…
どうやって離そうか考えていると後ろから声がした。
「ちょ、ちょっと!美鈴!何やってんのあんた!!」
「さ、咲夜さん…こ、これはその…」
「あ、あんた…門の前で何だいしゅきホールド決め込んでるのよ!!ここはそういう場所ですって行動で示してるの?馬鹿じゃない!?」
「あ、あの…咲夜さ…」
「問答無用!!」
目の前にナイフがたくさん出てくる。
…ぴちゅったわ、これ…。
「大ちゃん!!おっきい虹が出てたんだって!!」
「ち、チルノちゃん、全然見えないよ?」
「ホントだってアタイみたもん!!こう虹が上にパーって!!」
「え、え~…そうだチルノちゃん1+1は?」
「え、え~っと……2!!」
「凄いね!!チルノちゃん!!」
「へへ、アタイさいきょーだからね!!…あれ?大ちゃんあたし何の話してたっけ?」
「ん?この前カエル凍らした話じゃないっけ?」
「ん~…そっか、この前アタイね!」
「(計画通り!!)」