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第二話「新しい世界へ」




「さて、転生トリップの準備を始めようかしら」


 女神ヘルミーナはそう言って宙に手をかざす。

 すると、半透明の板状の光が現れてモニターとなり、そこにいくつもの記号らしき羅列が並び始めた。

 先程も見せられたものだが、SF映画に出てくるような不思議な光景は何度見ても驚いてしまう。

 しかしヘルミーナは慣れた様子で手を動かして、何やら操作しているようだった。


「これから好きなチート能力とか特典とか選んでもらうわけだけど、その前に注意事項の説明しておくね」


 ヘルミーナが指をパチンと鳴らすと、彼女の背後に一際大きなモニターが現れる。

 そのモニターには日本語で光の文字が浮かび上がり、いくつかの文章を作り出していた。

 色は純白だが、学校の黒板のような感じだった。


「まずひとつ。これから転移する世界で、悪行を成そうとした場合には天罰が落ちます。

 とはいえ基本的に、虐殺とかそういうとびきりの悪行でなければ、ある程度は大丈夫よ」


「え、ええっと……どれくらいのことなら大丈夫なんですか?」


「そうね。例えば殺人は、正当防衛もしくは人助けのため、またはやむをえない事情があると判断されたなら天罰は落ちないわね。

 貴方の扱いは神と契約した従者みたいなものになるから、その立場に相応しくない行いはしないようにすればまあ平気よ」


 少なくとも虐殺なんてする気はまったくない。

 剣と魔法の世界と聞いたのでモンスター等との戦闘は避けられないだろうけど。

 せっかくチート能力を手に入れて余裕を持って生活できるのに、わざわざ犯罪者になる必要なんてないだろう。

 必要があってもなりたくないと翔は思うのだが。


「要するに、真っ当に生きていれば問題ないと?」


「その通り。まあ、もし何か問題になりそうなことがあったら私が忠告してあげるわよ」


「忠告って……異世界に行ってからも女神様と話せるんですか?」


「ええ、そうよ。ちなみにこれがふたつめ。私は貴方を導き手となって、異世界生活をサポートするわ。

 サポートの中にはチート能力付与もあるから、今ここで取得しなくても後から特典を選んだりもできるわね」


 何とも恵まれた環境だ。こんな美しい女性とこれからも関われる機会があって、相談に乗ってもらえるなんて。

 だからこそ、あんまりにもこちらに都合の良いことだらけで、翔は怪しく感じてしまう。


「んー、まあ疑っちゃうのも無理ないわよね。貴方に好都合なことばかりだもの」


 そういえば頭の中を覗き見られているということを失念していた翔は、ヘルミーナの言葉に身を竦めた。

 女神を疑うなんて罰当たりな! なんて言われて天罰受けたらどうしよう、なんて考えてしまう。


「いいのよー。商売や取引では、疑うことは信じることと同じくらい大切なことなんだから。

 正直にいうとね、私が色々サービスするのは貴方にこれからも良いお客さんであってほしいからよ。

 チート能力を私から買って、その能力でお金を稼いで、そのお金で私からまた商品を買う。

 そのサイクルが上手く回れば、がっぽり儲かるわー♪」


 相手の思惑がわかったのはいいことなのだが、お金のことに夢中になっている時のヘルミーナの俗っぽさはどうにかならないのだろうか。

 女神らしく振舞っている時とのギャップがすごくて、どうにも戸惑ってしまう。


「まあそれはともかく。まずはチート能力を選んでいきましょうか」


 今度は翔の目の前に、光の粒が集ってモニターへと変わる。

 そこにはいくつもの項目が日本語でずらりと並んでいる。

 ざっと目を通してみたところ、どうやらゲームのスキル表のように様々な能力について列記されているようだ。


「検索機能を使えば戦闘系、生活系とか色々な分類別に能力を見ることもできるわよ。

 さっきもらった宝くじと引き換えに、貴方の魂にポイントを付与したから、そのポイント内で好きなスキルを選べばいいわ。

 スキル取得以外にも、これから行く世界で使われている通貨の取得も可能よ。ただ、換金レートが悪いからおすすめできないわね」


「レ、レートとかあるんですね」


「手数料とか、色々と関わるからね。さっきの宝くじもそうだけど、人間界からお金を天界に持っていく場合、あるいは持ち込む場合、お金の出所やら何やらに色々と矛盾が生じるの。

その矛盾を解消するために、神の力が使われるのよ。そういった力の源が手数料として引かれちゃうわけ」


「そうなると、あんまりお金に変えない方が良さそうですね」


「急にお金が必要になった時用の機能と思えばいいわ。ご利用は計画的にってね」


 異世界で無一文というのも困るが、かといってお金だけ持っていても仕方ない。

 力のない大金持ちなんて、ファンタジーな世界では盗賊やら物盗りの餌食になりそうだ。

 自分の身を守り、日々を生きていくための力を得るためにも、まずはスキル取得を軸に考えていこう。

 まず最優先は戦闘系のスキル。モンスターや盗賊に襲われたときのことを考えると、これは絶対にほしい。

 次にお金を稼ぐために生産系も見過ごせない。薬剤調合や鍛冶など種類は様々だが、物作りは金策に欠かせないだろう。

 他には生活を豊かにする類の魔法などもある。飲み水を生み出したり、汚れを落とす物も便利そうだ。


「あとは読み書きや日常で使う言語の習得も必須ね。余裕があれば複数の言語を習得すれば、翻訳士として働く道もあるわよ」


「た、確かに。言葉が分からないとなると厳しいですね」


「おすすめは常時発動の翻訳魔法かしらね。それがあればどこにいっても相手と日本語で意志疎通ができるわ。

 あとは文字習得をすれば筆記も問題ないし、この二つは確定でいいんじゃないかしら」


「ポイントもそれほど高くないですし、いいですね。他には……」


「そうね、肉体年齢を若返らせるのもおすすめ。ステータスの成長率が高まるわ。

 あんまり若返りすぎると逆に不便だから10代後半から20代前半くらいに……」


 そうやってヘルミーナと相談をしながら、翔はスキルを選んでいく。

 戦闘系は、近距離、遠距離のどちらでも戦闘をこなせるように、とできるだけバランス良く。HPや防御力等の耐久性や、回復魔法も忘れずに。

 装備を充実させたいのもあり、鍛冶や裁縫などの装備品作成関係のスキルも充実させていく。

 あとは生活に関わりそうな魔法をいくつか取得。飲み水に困ることはないし、洗濯も楽そうだ。

 肉体も20歳まで若返らせた。10代まで戻ると子供扱いされて色々動きにくそうだし、これくらいがちょうどいいと思ったのだ。

 それと少しばかりの金銭を手に入れたが、ポイントにはまだまだ余りがある。

 今この場限りではなく今後もスキル取得は可能とのことで、全部のポイントを使い切るのではなく、ある程度貯蓄しておくことになった。 


「これでひとまず、今から転移する街の周辺で苦戦することはないでしょう」


「けっこうスキルで強化したと思いますけど、苦戦するような相手っているんですか?」


「神族レベルの相手や、貴方みたいにチート能力を得た転生者がいれば苦戦もあるかもね。

 まあ、そういうのがいない世界を選んで転移させるけど、あとから現れないって保障はないわ。

 そもそも今の貴方はまだ、能力はあるけど戦闘の素人だからね。チートスキルも使いこなせなければ意味ないわよ」


「ゆ、油断大敵ですね。気をつけます」


「まあ、ちょっとやそっとじゃ死ぬこともないから、そこは安心していいわ。

 心臓刺されたり頭がパーンってなっても生きてるくらいには頑丈だから、回復魔法かければ問題なく元に戻れるしね」


「そんなことにならないように全力で気をつけます!」


 死にたくないとはいえ、そんな確実にトラウマになる事態は絶対に避けたい。

 スキル構成としては魔法戦士といえるような構成だ。近距離では剣術で戦い、遠距離は魔法で対応する。

 敵に近づかなくても戦えるとはいえ、どちらかというと前衛で戦うタイプのスキル構成だ。

 防御系スキルも取得しているとはいえ、ヘルミーナのいうような大怪我を負う可能性は十分にある。

 回復魔法ですぐに治せるとしても、そんな痛そうな思いはしたくない。

 絶対油断しないようにしよう、と翔は心に誓いを立てた。


「うん、ひとまずはこれでいいかしらね。じゃあそろそろ転移、行ってみましょうか」


「は、はい。よろしくお願いします」


「最初は街の外に転移させるから、門番に『冒険者になりにきた』と伝えて中に入るといいわ」


「転移は街の中では駄目なんですか?」


「門を通らずに街中に入ったことがばれると面倒事になるわ。神様パワーで誤魔化すこともできるけど、無駄遣いになるから節約しないとね。

 その点、この世界だと冒険者になるために田舎の村から街へ出向く若者なんてたくさんいるから、いちいちどこの村から来たのか証明などは必要ないわ。

 門での検査もそれほど厳しくないわね。指名手配されていないかの確認とかそれくらいよ。

 そして冒険者ギルドに登録すれば最低限の身分証明となるし、ランクが上がれば市民権も得られる。これがおすすめの道筋よ」


 ファンタジー世界を題材にした小説ではお馴染みといえる、冒険者ギルド。

 どうやらこれから転生する世界にもギルドがあるらしく、ヘルミーナの言うように身分を手に入れるためにも登録した方が良さそうだった。

 もしも登録しなければ、自分は出自不明で身分証明もできない不審者となってしまうのだから。


「な、なるほど。ちなみに市民権を得る条件は?」


「ランクC到達、そして納税の義務を受け入れることね。ちなみにランクはEからスタートしてSが最高ね。

 主な認識としては、Eは駆け出し、Dは中級者、Cで一人前。

 Bでベテラン、Aが人類の到達点、Sが人間の限界を超えた超越者、ってところかしら。

 まあSは英雄とかに贈られる名誉みたいなもので、普通にギルドで得られるランクはAまでって言われてるわね」


「自分の能力は、どれくらいのランクになるんですか?」


「Sランクね。ただし冒険者のランクは信用度なども含めて判断されるから、いきなり高ランクスタートっていうのはないわよ。

 そういう特例は魔王戦役中とか、即戦力になれる人材を急いで最前線に送りたい時代に時々使われてた程度だから、今の平和な時代ならまずないわ。

 ランクが上がると緊急時に街の防衛戦力として招集されて、危険な依頼を出されたりするから、がんがん上げればいいってわけでもないのよね。

 市民権を得られるCまでランクを上げたら生産系スキルで生計を立ててのんびり過ごしても儲かればいいのだしね」


 冒険者一本で稼いでいこうと思えば、その分危険なモンスターと戦うことになる。

 ならランク上げはそこそこで、金稼ぎのために金策に励むのも十分に良い選択肢だろう。

 とはいえ男としては、一流の冒険者という響きも捨てがたい。


「まあ、どんな風に生きるのかはこれから決めていけばいいわ」


「……はい、それもそうですね。どんな世界なのかこの目で確かめて、それから人生設計を立てても遅くはないですよね」


「うんうん。論ずるより産むが易しってね。それじゃあそろそろ、異世界トリップといきましょうか」


 ヘルミーナが何やら呪文を唱えると、光り輝く扉が目の前に現れた。

 扉の周りにはきらきらと輝く光の粒が舞い踊り、神秘的な雰囲気を生み出している。


「その扉を潜れば、貴方の異世界生活が始まるわ。自分のタイミングでどうぞ」


 彼女の言葉に頷いて、翔は扉を見つめた。

 今までの生活が嫌だったわけではないけれど、どこかで閉塞感を感じていたと思う。

 夢も目標もなく、ただ安定した収入を求めて働き続ける日々。

 それでも平穏に生きていられただけ、幸せだったと思う。

 だけど、目の前にあるのは未知の可能性に溢れた異世界への扉だ。

 どんな生活になるか分からない。だけど分からないからこそ楽しいこともある。

 少し怖い思いもあるし、生まれ育った世界から離れることに未練も感じるけど。


「……よし、行こう!」


 意を決して、翔は扉を開く。

 扉の向こうは眩い光に溢れていて、先が見えない。

 その光の中を、一歩ずつ先へ、先へと歩いていく。

 光の向こう側にあるだろう、新しい世界を目指して。

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