生きる島
「ねぇ、ばあちゃん。昔の話をして」
朱い服を着た女児が茶色の服を着た妙齢の女性にまとわりつきながら、昔話をねだる。
彼女らのいる場所は、大きな一枚岩の上……いや、この島は全ての場所が一枚岩の連峰で出来ていた。
島の住民は一枚岩と一枚岩の間にある、ささやかな平地でへばりつくように生活している。
「お前は昔話が好きだねぇ」
孫娘に根負けして、祖母は語る。
昔々の話。
昔、世界はひとつの大きな海しかなかった。
どこからか大きな大きな蛇と、それと同じくらい大きな鳥がやってきて、大変な縄張り争いを始めた。
争いは昼夜問わず続き、八日目の朝…漸く決着がついた。勝ったのは鳥。負けた蛇は頭と背中の一部が海の表面に浮かぶのみ。
だけれども、鳥も全身に傷を負って海面に大きな翼を広げて波間に漂うしかなくなった。
漂っている内に羽根の間に木々が芽吹き、いつしか大きな鳥は大きな島となった。
「これが、私たちの住む鳥島の始まりだよ」
「じゃあ、蛇はどうなっちゃったの?」
「鳥島の近海に魚が集まる小島があるだろう?あそこが蛇の成れの果てさ」
「いつかは鳥は飛んでいってしまうの?」
「さあ、それはわからないねえ」
幾人、幾十、幾百の孫と祖母のやり取りがあったのか、それを知る者はいない。
鳥島の近海で幾つもの大きな爆発が起こった日、鳥は目覚めた。
自分の背中で繰り広げられる諍いに、背中をふるふる震わせて、何千年振りに空へと舞い上がった。
海面に残るは、点在する小島のみ。
鳥が振り落とした、滴の波紋だけが大きく広がっている。