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振り向けば、そこに探偵事務所  作者: 大本営
File No.001 パトロン
17/41

9話、演習場

 演習場。


 本校舎に隣接する建築面積二万平方メートル、高さ四十メートルを誇る建造物の俗称である。


 『周囲への影響を考慮せずに思う存分魔術を行使できる環境を整える』という思想の元、建造物の大きさに負けず堅固な結界を幾重にも張られている。

 ある程度以上の威力を伴う魔術の授業、個人練習でこの施設は使用されていた。ただ堅牢さに挑戦するかのように生徒、教師問わずに必要以上の威力で魔術を使用する傾向がある。


 その様は授業ではなく演習のようだった。


 授業を拝見したある王族が呟いたことから、演習場と呼ばれるようになったらしい。



 ◇ジュリエッタ



「ジュリエッタさん、僕の気のせいでなければ生徒が集まって来ているように思うのですが。パトロン決定戦はいつもこうなんですか?」

「ジュリエッタと呼んでくれて構いませんよ、麻人さん。そうですね、パトロン決定だからというよりも、この演習場で行われる催しだから集まると言った方が正しいかと思います」

 ジュリエッタは演習場の入口近くで何かが販売されている個所を指差す。

「あれはアマデオさんと真壁さん、いずれが勝つかを賭けているんですよ。新学期になると色々トラブルが絶えないので、この演習場で白黒付けるときに行われる恒例行事です」


 勿論、学園公認のイベントで、賭けられているのが食券だということも忘れずに付け加えました。

 来訪者の方は剣闘士のようだといって、このイベントに好感を持っていません。やはり表情が曇っていた麻人さんも背景を聞いて納得してくれたようです。


「納得がいったよ、ジュリエッタ。ところで僕も麻人と呼んでもらってもいいよ。女性に麻人さんと呼ばれると気恥しくて困るんだ」

「貴方がそれで良ければ。ところで麻人も見てばかりいないで、このイベントに参加しませんか?」

「ジュリエッタ、申し訳ないけど僕は転入してきたばかりで持ち合わせがないんだ。できれば少し貸してもらえないかな」


 そんな上目使いで頼まれても困ります。

 お父様、そういえばこういうのは必要経費だと以前を仰っていました。

 ジュリエッタが今から使用するお金の事は深く問わないで下さいね。

 乙女の戦いには、お金が懸かるものなのです。


「今度だけですよ、麻人。アマデオさんと真壁さんのオッズは上限一杯の四十倍のようですね。麻人は気分が良くないかもしれませんが、来訪者が勝利するのは稀な事ですので、このオッズは妥当な評価だと思いますよ。それを踏まえた上で幾ら賭けますか?」

「そうだね、だったら真壁さんに上限一杯で。」


 いたずらを思いついた猫のような表情で、麻人はさりげに凄い事言いました。

 思わず声が漏れて聞き返さなかった自分を褒めてやりたいと思います。


 がんばりました、ジュリエッタ。


 上限は一ヶ月分ですから、私の手元にある食券は一日分しか残りません。

 勿論、その事を麻人は知りようもないですが、思わず私を試しているのかと考えてしまいました。


「ごめん、ちょっとした冗談だったんだけど」

「ちょっと驚いただけですよ。冗談でもそれだけ言えるという事は、真壁さんはそれほどまで魔力が強い方なのですか?」

「魔力が強いかというと少し違うな。確かに魔力は弱くないけど、それ以前に戦い慣れている人だから真壁さんから勝つのはかなり難しいよ」

「今一、麻人が言いたい事が分からないのですが、真壁さんは結局強いのですか?」

「ごめん、紛らわしい言い方だったけど、でもそうとしか言いようがないんだよ。あの人が一対一で負ける事はまず無いと思ったから、あんな冗談も言えたんだ」


 なるほど、少なくとも麻人が真壁さんを信頼していること事は分かりました。



 シンイチ教授の講義を私は受けた事はありませんが、あの方は控えめな表現をされる方でした。

 シンイチ教授が太鼓判を押したということは、余程真壁さんが強い、或いは有利と見たのでしょう。

 ですが、その評価はあくまで真壁さんを通して知らされた評価であり、他の信用のおける方から聞かされたものではありません。


 分かってはいるのです。



 不遜な態度を取る真壁さんを過小評価するのは危険だと、心のどこかで告げています。

 これもお父様が持っている冒険者の血なのでしょうか。

 或いは乙女の勘なのでしょうか。

 いずれでもいいです。

 真壁さんに食券一日分を賭ける価値はあるでしょうね。

 それに麻人も真壁さんに賭けていますし、これも必要経費なのです。


 真壁さんを微妙に意識している事に腹立たしく思いながらも、ジュリエッタはそのように自分を納得させました。



「賭ける食券ですが、やはり一ヶ月分にしましょう」

「ジュリエッタ、実は怒っている? その場を和ませる冗談だったんだから、そんな真剣にならないでよ」

「麻人、真壁さんには敵わないかもしれませんが私だってパトロン候補なんです。麻人の要求に応えるくらいはジュリエッタだって出来るのです」

 なんでしょう、この得も知れぬモヤモヤした感情は。

 真壁さんだけが信頼されるということに対する嫉妬なのでしょうか。

 なにより、このまま引くのは乙女として負けるような気がします。


 真壁さん、負けたら許しませんからね。



 ジュリエッタは図らずも一ヶ月と一日分の食券を賭けることになりました。

2013/2/28 改訂

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