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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

てるテル坊主

作者: 楓絽



「おい、これはどういうことだ?」


いつもと変わらない帰り道。朱く染まった道路を車が通らないのをいいことに、ど真ん中を歩くのもいつも通り。ただ、その『いつも』を壊したのは隣を歩く幼なじみのケータイだった。


『〜♪』


かわいいアニメ声が静かな住宅街に大音量で流れる。人の趣味にどうこう言うつもりはないが、一度数学の時間になったときはマジでビビった。うちの高校はケータイ持ち込み可だが、授業中は電源を切らなければいけない。誰もが『コイツ終わったな』と思ったかはわからないが、性格は終わってると個人的には思う。何の躊躇もなくケータイを開いた行動は教師に喧嘩を売っているとしか思えない。しかし、触らぬ神に祟りなし。クラスメイトどころか教師すら何も言わず、授業は少しもとぎれない。このことからも、学校でのコイツの位置付けがわかる。


「見てみろ、これを」


すぐ目の前に画面を差し出され、思わず足を止める。あっぶねーな、ビックリすんだろ!言っても無駄だから言わねーけど。渋々文面を見ると



―――――――――――――

Dear:ゆずたん☆

――――――――



ママとーお話して

みたんだけど(・ε・)

やっぱり

ゆずたん☆の話し方(・v・)ピヨッ

古いょねって

なったんだぉ∑(@д@;)キャー


だからパパ達

旅行に行くのだっ(≧▽≦)ゞ


ゆずたん☆も

精進するのだぞ(≡н≡)ъ



パパとみせかけてママょり


―――――――――――――




うぜー。




間違いない。この親にしてこの子あり。顔文字絶対おかしいし、どこからツッコンでいいのかわからん。よくこれで息子の喋り方が古いとか言えるな。遺伝子超感じるんですけど。


「父上は実は母上だったのだな」


「いや、違うと思うぞ…」


結論はそこに行き着くのか…。もう話すのも疲れた。早く帰りたくて歩くスピードを上げるとひょこひょこついて来る幼なじみ。何と不運な星の下に生まれたのだろう、俺とこの変人は家が隣どうしということもあり、それこそ本当の兄弟のように育った。俺がまともな思考回路を保っているのは奇跡としか思えない。そりゃ、小さいときはいつも一緒にいたし、高校も一緒で今でも仲は良い。だから、こうやってお守りを任されているわけだけど。

……やっと家についた。あのメールが届いてから永遠と『父上がぁ、父上が失踪してしまったー!?』と煩いコイツを引きずって、やっとこさ愛しの我が家が見えた。よし、俺はこれから愛すべきマチコとニャンニャンするって決めた!マジでかわいいから!ふわふわで気まぐれで、こう、胸がキュンってすんの!!胸躍らせながらドアノブに手をかけると


「どろろっ!!」


ニョキッというか、ニョロッというか、どっちにしても聞きたくなかった効果音付きでドアと俺との僅かな隙間に変態が現れた。


「っ!?びっくりすんだろ、ユズ!」


あ、言うの忘れてたけど、この幼なじみの名前はユズで俺はテル。ちゃんと漢字であるんだけど、画数が多いからこれで。で、何でユズはこっちにいるんだ!?とうとう自分の家がどこかわからなくなったのか?


「父上と母上が旅立たれた今、俺は主のいない家にはいられない。すまないが、しばらくの間泊めてもらう。」


「……は?」


いやいやいや、何のたまってくれてんの!?うちもまだ家の主ことお父様は帰ってきてないんだけど!


「お邪魔する」


「ちょっと待てー!!」


「これを見ろ」ズイッと差し出された紙に渋々目を向ける。




―――――――――――――


Dear:ゆずたん☆


この手紙を見ていると

いうことは…

家に帰り着いたんだね(?∇?)

当たったでしょ〜?


パパがいない間

ゆずたん☆が家を守ってね!!

…と言うと思った(>ε<)??


じーつーは〜(。_。;)

テルちゃんママが

『是非ゆずたんを

預からせてっ☆』

って言ってくれたのだ(≧∇≦)


だからテルちゃんと

友情も愛情も深めてねっ!!


愛しのママより(´ω`)♪


―――――――――――――




頭痛い…。俺はツッコミ担当じゃないんだけど。俺の母親は☆付けて喋ったりしねーし。だいたいどこにあったんだよ、その紙。あぁ、ドアに貼ってあったのね。何?コイツうちに泊まるわけ?いつまで?

ぐちゃぐちゃと考えているうちにユズが勝手に家に入っていく。


「只今帰った」


「あら、ユズ君お帰り。今日からうちを実家だと思ってね」


……もうやだ。




「ここに来るのは久しぶりだな」


アパート暮らしのウチには客間などなく、俺の部屋にユズを泊めることになった。ユズは足元に擦り寄った俺の家のアイドル猫マチコを抱きしめている。マチコは雑種だけど、毛がフワフワしてて抱き心地が最高で、抱きまくらにして昼寝するのが俺の密かな楽しみなのに、なのに…チキショウ!


「にゃあん。にゃにゃ〜。」


床に座ったユズがマチコの手を使ってネコパンチをしてくる。俺はベットに座ってるから、自然とユズは上目遣いになるわけで…。

…か、かわいい。いつまで俺は耐えればいいわけ?なにこれ、誘ってんの?俺の理性がいつまでもつかわかんねー。

ぶっちゃけると俺はユズが好きだ。じゃないと、とてもじゃないがここまでやってこれなかったと思う。自分で言うのも何だが、愛の力だな。

俺がこの気持ちに気付いたのは中学生の頃。当時は本気で悩んだ。だって相手は男だし幼なじみだし変人だし、何ひとつメリットが見つからない。クラスが離れた時に若干距離を置いたけど、家が近いからそれも無駄に終わった。そうなると、もう受け入れるしかないわけで、俺は開き直ったわけよ。好きなもんはしょうがない。だけど、気持ちを伝えられるわけもなく、俺が言ったらすぐに両方の親に知られるだろうし。何の進展もなく今日まできてしまったら、この事態だ。


「何を固まっている。早く倒れろ」


この世界のどこに弱々しいネコパンチで倒れるやつがいるんだ。バカかわいいやつめ。マチコを取り上げ、当初の目的である昼寝をすることにする。マジで心臓がもたん。


「なぬ、真知乎殿を返せっ!!」


いやいや、マチコは俺のだし、漢字はないし、猫に殿はつけないし。何か喚いているユズに背を向けて寝る体制を整える。こんな状況で寝れるのか?とか思ったが、自分でもビックリの素早さで眠りについた。次から俺の特技早寝にしよう。




西日が強くて暑い。まだ覚醒していない脳で考えることといえば晩飯なにかなぁ、とかしかない今日この頃。

ん〜、なんかモフモフしてる。そっか、マチコ抱っこしてたんだった。そのままゴロンと寝返りをうつと、ごつっとしたものにぶつかった。

…?ごつっ?嫌な予感がしながらもうっすらと目を開けてみると心臓が止まりそうになった。な…なんっ、なんでユズがここにっ!?え、あっ、ん…?とりあえず、落ち着け!俺!!

目を閉じて大きく深呼吸する。恐る恐る目を開けると…、やっぱりいる。そうか、今日からコイツ泊まるんだっけ?でも、なんで俺のベットに寝てるわけ!?配置的には、ユズ、マチコ、俺の順。いやいや、おかしいから。寝顔かわいーとか思ってる場合じゃないから!どうやって逃げようか…後ろは壁、前はユズ、とマチコ。…マチコは関係ないか。逃げ場を失った俺はせめてもと再び寝返りをうとうとしたら…


「テルテルよ、明日雨が降りそうな匂いがする。」


「はっ?」


テルテルって呼び方かわいっ…じゃないし。起きてたのかよ。犬よりも優れた嗅覚持ちやがって。確かに明日の降水確率は80%だったけど、だからどうした?雨恐怖症とかじゃなかったはずだけど。


「髪剃り上げてもいいか?」


「ダメに決まってんだろ!」


なんだ、その突拍子のない発言は!?


「テルテル坊主になってベランダに立ってて」


首傾げて聞くな!思わず頷きかけるだろ!


「絶対嫌だ!」


今の髪型気に入ってんの。色だって染めたばっかだし。


「だいたい何でそんなに雨降ってほしくないんだよ?」


「この家に世話になるからには、それなりの代償を払わなければならぬ。しかしながら生憎大金は持ち歩いておらぬので、母上のお役に立てるよう洗濯をしようと思ったのだ」


なんとなく、やろうとしていることは、わかってきた。だからって洗濯物の代わりに俺を犠牲にしようとするな!!


「はぁ…しょうがない。俺よりも効果があるもん作ってやるよ」


本物作ればユズも文句ないだろ。近くにあったティッシュケースを取り、幼稚園以来のてるてる坊主作りに励むことにする。ユズはといえば、俺の手元をガン見している。…そんなに面白いか?


「ほらっ、できたぞ」


俺の自信作てるてる坊主一号の太郎クンだ。のっぺらぼうだがそれも愛嬌だ。


「……」


無言で太郎クンを睨んでいるユズ。顔が無いのが不満なのか?


「これは何だ?」


「…てるてる坊主だけど」


今だにガン見。てるてる坊主知ってるよな?見たことないことはないよな?人に刈り上げろなんて言ったぐらいだもんな。


「全然テルに似てない」


「似てたら嫌だ」


勘弁して。俺は禿げてないし、そんな予定もない!


「似させる」


「やめろっ!!」


慌ててユズの手から俺に全然似てない(ここ重要)を取り上げて分解する。ごみ箱に丸めて投げ捨ててユズを振り返ると何を考えているかわからない顔でごみ箱を眺めていた。考えてることわかんないのはいつものことだけど。


「嫌なのか?」


「普通嫌だろ」


俺似のてるてる坊主が窓の外に吊されるなんて考えただけで嫌だ。

「……テルは雨男?」


…若干話が飛んだぞ。それでもちょっとでも話が逸れるならそれでいい。


「いや、生まれたときから晴れ男だ」


これは嘘じゃない。実際俺が参加する行事はいっつも晴れだし?ユズも知ってるはずなんだけど。


「…俺のを作る」


「……」


もはや、さっぱり意味がわからん。黙々とティッシュを丸めているユズを見て、ようやくてるてる坊主を作ろうとしていることに気づいた。え?さっきこの話題終わったはずじゃないの?


「俺のとテルのを並べたい。ダメか?」


…ヤバい、キュンッてなった、キュンッて!上目遣い(無意識)とか!思わず頷いてしまった俺は重症だろうな。


「俺はテルのこと好きだから、隣に並べるのは嬉しいぞ」


「……は?」


今なんて言った?いや、勘違いかもしれない。友達や幼なじみとしての好きっていうのも十分に考えられる。だけど、それを聞けないのは俺がヘタレだからだ!

…なんて威張っている場合ではない。これを逃したらチャンスはもう無いような気がする。


「それって友達として?」


「なにを言ってるのだ。人としてに決まっているではないか」


そっちかー!?本当脱力。落胆ってこういうときのために使う言葉か?

俺は知らなかったが、この時ユズは肩の荷がおりてスッキリしたらしい。ユズの『人として好き』が『人の中で一番好き』の意味であったことを知るのは、もうちょっと後のお話。




.

仕上がりとしてどうなんでしょう…。なんとも微妙な感じで終わってしまいました。

感想など永久に募集中です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 迷惑かもしれませんが、正直言って続きが気になります。 短編だったので、読みやすくて、面白かったです。 ありがとうございました!
2016/05/02 21:52 退会済み
管理
[良い点] 最初のメールの部分、あの部分が終わってから主人公が「うぜー」と言ったところで思わず吹き出してしまいました。 そこから一気に引き込まれた気がします。 好きな人に振り回される主人公の姿に、思わ…
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