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婚約破棄された銀髪令嬢は泣かない~だって王宮スイーツが美味しいから~  作者: 山田 バルス


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第二十一話 カヌレン お祖母様の恋を応援します

第二十一話 カヌレン お祖母様の恋を応援します


 王妃陛下のお茶会を数日後に控えた、ある日の午後。

 私は、お祖母様の部屋を訪れていた。


「お祖母様?」

「……カヌレン」


 返事はあった。

 けれど。

 いつものお祖母様とは、少し違っていた。

 窓辺の椅子に座り、頬杖をついている。

 その銀色の髪が、夕暮れの光を受けて淡く輝いていた。


「どうかなさいました?」

「……何でもありませんわ」

「本当ですか?」

「ええ」

「では、どうして三分も同じところを見ているんですか?」

「……」


 お祖母様が黙った。

 私は思わず笑ってしまった。


「やっぱり何かありますね」

「……カヌレン」

「はい?」

「あなたに、相談したいことがありますの」

「私に?」


 珍しい。

 いつもなら、どんなことでも迷わず決断するお祖母様が。

 商売のことなら、どんな大商人が相手でも堂々としている。

 悪徳商会が相手でも、一歩も引かない。

 なのに。

 今は少しだけ困った顔をしていた。


「実は……」


 お祖母様は扇を開き、口元を隠した。


「グラッセ様のことなの」

「……!」


 私は目を見開いた。

 やっぱり。

 そうだったんだ。

 先日、グラッセ騎士団長様がお祖母様に告白した。

 そのことは知っている。

 でも。

 まさか、お祖母様のほうから相談してくるなんて。


「グラッセ様が、どうかされたんですか?」

「どうかされたというより……」


 お祖母様の頬が、ほんのり赤くなる。


「その……」

「はい」

「私に、愛しているとおっしゃったのです」

「……!」


 やっぱり。

 私は思わず胸の前で手を握った。

 なんだか、私までドキドキしてしまう。


「それで、お祖母様は?」

「……困っていますの」

「どうしてですか?」

「だって……」


 お祖母様が俯く。


「私は六十歳ですもの」

「はい」

「グラッセ様は三十五歳」

「はい」

「二十五歳も年下ですわ」

「そうですね」

「……だから、悩んでいるのです」


 私は少し考えた。

 そして。


「お祖母様」

「何かしら?」

「お祖父様がお亡くなりになって、もう二十年ですよね?」

「……ええ」


 お祖父様。

 私が幼い頃に亡くなった、大好きだった人。

 お祖母様はその後、ずっと一人でグラン商会を大きくしてきた。

 家族を守り。

 商会を守り。

 たくさんの人を助けて。

 恋なんて、ずっと遠ざけていたのだと思う。


「お祖父様が亡くなってから二十年も経っています」

「ええ」

「だったら……」


 私は笑った。


「次の恋をしても、いいんじゃないでしょうか?」

「……」


 お祖母様が目を瞬く。


「次の恋?」

「はい」

「でも……」

「グラッセ様は、とても良い人です」

「……そうですわね」

「優しいですし」

「ええ」

「強いですし」

「……ええ」

「お祖母様のことを、とても大切に思っています」

「……」


 お祖母様は黙ってしまった。

 私は続ける。


「それに、私にも優しいです」

「カヌレンに優しいのは……」


 お祖母様が少し苦笑した。


「私があなたを大切にしているからでしょうね」

「そうですよ」

「……?」

「え?」

「どうして分かるのです?」


 私は思わず笑った。


「だって、グラッセ様が私に優しいときの目と、お祖母様を見ているときの目は、全然違いますから」

「……」


 お祖母様の顔が赤くなった。


「まあ……」

「グラッセ様は、お祖母様を見ているとき、とても嬉しそうです」

「……そう、なのかしら」

「はい」

「……」


 お祖母様は扇で顔を隠した。


「困った人ですわね……」


 けれど。

 その声は。

 どこか嬉しそうだった。


     ◇


「では、お祖母様は」


 私は少しだけ意地悪な質問をしてみた。


「グラッセ様のことを、どう思っているんですか?」

「……」

「嫌いですか?」

「そんなことはありませんわ」

「では、好きですか?」

「……」


 沈黙。


「お祖母様?」

「……好きかどうかは」

「はい」

「まだ、分かりませんわ」

「本当に?」

「本当です」

「では、グラッセ様のどこが好きですか?」

「……」

「お祖母様?」


 すると。

 お祖母様は、ものすごく小さな声で答えた。


「……筋肉が素敵ですわ」

「…………」


 私は固まった。


「え?」

「筋肉です」

「……」

「騎士団長ですもの。身体が鍛えられていて……とても素敵ですわ」


 お祖母様の頬が、さらに赤くなる。


「それから?」

「顔も良いですわ」

「……」

「声も素敵ですし」

「……」

「真面目なところも好きですわね」


 私は思わず笑った。


「それなら、十分好きじゃないですか」

「違いますわ!」

「でも」

「……」

「筋肉が素敵で、顔も良くて、声も素敵で、真面目で優しい」

「……」

「それだけ好きなところがあるのに、どうして悩むんですか?」


 お祖母様はしばらく黙っていた。

 やがて。

 小さな声で答えた。


「……彼のような素晴らしい人が」

「はい」

「私のような……お祖母ちゃんと付き合うのは、勿体ないのではないかと思って」

「……!」


 私は驚いた。

 お祖母様が。

 そんなことを考えていたなんて。


「お祖母様」

「何かしら?」

「それは違います」

「……」

「お祖母様は、とても素敵な女性です」

「カヌレン……」

「私にとって自慢のお祖母様です」

「……」

「綺麗で、強くて、優しくて」

「……」

「商売もできて」

「まあ」

「お菓子も好きで」

「それは関係ありますの?」

「あります」


 私は笑った。


「それに、グラッセ様もお祖母様のことを、とても素敵だと思っているから告白したんですよ」

「……」

「だから、勿体ないなんてことありません」


 私はお祖母様の手を握った。


「二人は、とてもお似合いです」

「……本当に?」

「はい」


 お祖母様の紫色の瞳が揺れる。


「私が、六十歳でも?」

「はい」

「二十五歳も年上でも?」

「はい」

「……それでも?」

「それでもです」


 私は笑った。


「だって、お祖母様が嬉しそうだから」

「……」


 お祖母様は、しばらく何も言わなかった。

 やがて。

 小さく笑った。


「……困った孫ですわね」

「ふふっ」

「そんなことを言われたら……」

「はい?」

「少しだけ、勇気が出てしまうではありませんか」

「それでいいんです」


     ◇


 

 これから。

 私たちの人生は。

 少しずつ変わっていくのかもしれない。

 恋をすること。

 誰かに愛されること。

 誰かを愛すること。

 それは。

 年齢なんて関係ない。

 お祖母様にも。

 私にも。

 新しい幸せを選ぶ権利がある。


「お祖母様」

「何かしら?」

「今度、グラッセ様と二人でお出かけしてみてはいかがですか?」

「……!」


 お祖母様の顔が、また赤くなる。


「そ、そういうことは……」

「でも、筋肉が素敵なんでしょう?」

「もう言わないでください!」


 私は笑った。

 お祖母様も。

 少し恥ずかしそうに笑った。

 その笑顔は。

 今まで見たことがないくらい。

 幸せそうだった。

 そして私は思った。

 ――お祖母様。

 どうか幸せになってください。

 お祖父様との思い出を大切にしたまま。

 新しい恋をしてもいいんですよ。

 だって。

 お祖母様は。

 まだまだ、とても素敵な女性なのだから。

 【おまけ完】

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。感謝です。(*- -)(*_ _)ペコリ

 また次の物語でお会いできる日を、心より楽しみにしております。


 山田 バルス(*^_^*)

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