第7話:言葉のいらないドライブ
日曜日の夕暮れ時。
郊外のホームセンターで庭いじりの土と肥料を買い込んだ帰り道、私たちは西日に向かって車を走らせていた。
車内を満たしているのは、ラジオから微かに流れる交通情報と、軽自動車特有の少し頼りないエンジン音だけだ。
修一は両手でしっかりとハンドルを握り、前方をじっと見据えている。私も助手席で、オレンジ色に染まっていく街並みをただぼんやりと眺めていた。
ここ二十分ほど、私たちはお互いに一言も口を利いていない。
若いカップルがドライブ中に二十分も無言になれば、きっと「怒ってるのかな」とか「つまらないのかな」と不安になって、慌てて話題を探すに違いない。
私たちだって、若い頃はそうだった。
風の音に負けないように大声で叫び合ったバイクの後ろ。初めて買ったサンルーフ付きの車では、カセットテープから流れる流行りの曲を一緒に口ずさみ、「来年の夏はどこに行こうか」「どんな家に住みたいか」なんて、まだ見ぬ未来の話を何時間でも語り合ったものだ。
けれど、共に七十という坂を越え、すっかり老夫婦になった今の私たちには、ひっきりなしに語り合うような「未来の予定」もなければ、沈黙を埋めるための気の利いた話題もない。
だからといって、この無言の時間が冷え切っているわけでは決してないのだ。
むしろ、空気を吸って吐くように自然で、たまらなく心地が良い。長年かけて二人で織り上げてきたこの静寂は、どんなに美しい音楽よりも私たちの身体に馴染んでいる。
ふいに、カーブを曲がって見通しの良い直線道路に出た瞬間、強烈な西日がフロントガラスから差し込んできた。
「眩しい」と私が目を細めて顔をしかめた、その時だった。
隣で運転していた修一が、前を向いたまま、スッと左手を伸ばして助手席のサンバイザーを下げてくれたのだ。
「……あら」
「西日がキツいからな。シミが増えても知らねえぞ」
修一は相変わらずぶっきらぼうな声でそう言うと、すぐに左手をハンドルへと戻した。
私が「眩しい」と口に出すよりも早く、私のわずかな身動きだけで察してくれたのだ。四十万時間以上という途方もない時間を共に過ごしてきた彼には、私のちょっとした仕草や呼吸の変化が、手に取るようにわかるのだろう。
「ふふっ、ありがとう。これ以上シミが増えたら困るものね」
「全くだ。ただでさえシワだらけなのに」
「……余計な一言が多いわね、本当に」
私がわざと呆れたように言うと、修一はフンと鼻を鳴らし、少しだけ口角を上げた。
気の利いた愛の言葉なんて、もう何十年も聞いていない。
でも、無言のまま下げられたこのサンバイザーが、彼が私に向けてくれる確かな愛情の証だ。言葉にしなくても、隣に座っているだけでお互いの温度が伝わってくる。きっと何年経っても、こうして隣で同じ景色を眺めていられるのは、この無骨で不器用なあなただからなのだ。
私たちは再び訪れた心地よい沈黙の中、夕日に照らされた帰り道をゆっくりと走っていった。




