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神様が言うには、あと半年らしい

作者: 猪口 零都
掲載日:2026/03/07

──母の涙から生まれた、碧き星に生きる全人類の皆さん。

ごきげんよう。私はあなた達の言うところの神であり、仏でもある者です。

あなた達の住まうこの星は、間もなく、永き眠りにつきます ──


その声はあまりにも静かに胸に響いてきて。

なんだか妙にリアルな感じた私は、目が覚めてからもしばらく動けずにいた。


「……んー……!すごい変な夢見たな……」


桜舞い散る春の朝だった。

カーテンから差し込む光はいつも通りで、外からは車の音がする。

階下で母の足音が聞こえてきた。

……いつも通りの朝なのに、どこか胸がざわついているような……。

何かが起こりそうな、そんな不思議な感覚。


「おはよー……」

「おはよう。ほら、早く食べちゃって」


いつもと同じように、ご飯を食べて。

いつもと同じように、支度をして、家を出た。


「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい、気をつけて」

「はーい」


女子高生の朝は忙しい。

髪を整えて、先生に怒られない程度に薄くメイクをして、今日のテストと、天気と、帰りの寄り道のことを考えた。

角を曲がったところで、幼馴染の蒼汰と遭遇した。


「おっはよ、ユイ!」

「おー、おはよ、蒼汰」


約束なんてしてないのに、ほとんど毎日同じ時間、同じ場所で会って、そのまま学校へ向かう。

ここまでが私たちの『いつも』だ。


「なぁ、ユイ。今朝さ……」

「うん?」

「変な夢見なかった?」


足が一瞬、止まりかけた。


「え?なに、蒼汰も?でも私の夢、レベチでヤバいって!」

「どんな風に?」

「神とか仏とか言う人が出てきたんだって!」


笑いながら答えた私に、


「……それ、たぶん、俺も同じの見た……」


蒼汰は戸惑ったような顔をしながら、そう言った。


「は?なに言ってんの?そんなわけないじゃん」


蒼汰は少し考えるように、顎に手を当てて、それからゆっくりと口を開いた。


「『この星は、間もなく永き眠りにつきます』……だろ?」


そう言って、射抜くような目で私を見てきた。


「え、待って怖い」


ドキリと跳ねた胸に手を当て、蒼汰を見た。


「『皆さんは、2つの道が用意されてます』」

「怖い怖い怖い!」


蒼汰は構わず続ける。


「家出てくる前に心春(こはる)がさ。『変な夢見た』言ってきて……。それが今言った内容なんだよ」

「……え?」


言葉がうまく、出てこない。


「だから俺も、完全に目が覚めた」


頭を掻きながら、蒼汰は言う。


「え、ごめん。全く理解追いつかないんだけど、蒼汰の妹の心春ちゃんのことだよね?なんで心春ちゃんが私の夢の内容、知ってるの?」


口に出してから、自分の声が震えてるのがわかった。

世界の音が、急に遠くなった気がした。


「……心春だけじゃなくて、俺もたぶん、全く同じ夢見たんだよ」

「いやだから、なんで?」

「ンなこと、俺が聞きてぇよ!」


頭を抱えた蒼汰を横目に、昨日のことを思い返していた。

昨日も普通に朝起きて学校行って、部活に顔を出して帰ってきた。

帰宅後もいつものようにご飯を食べてお風呂に入って寝た。

何も変わったことなどしていない。


「……そんなことある?」

「あるかどうかじゃなくて、実際起こってんだ、って!」


呆れたような声で蒼汰は言う。

実際私たちは同じ夢を見てしまっている……。


そこからの行動は早かった。


いつものようにスマホで「夢 お告げ」とか「夢 地球終了」とか調べ始めた。

物の数秒でヒットする。


「待って。変な夢ってワードがトレンド一位になってる」

「……えっ、なんだこれ! この人数がみんな見たってことかよ!?」


ほんの数分前にも夢の内容を投稿している人がいる。


「え?どういうこと?集団催眠的な?」

「いや、わっかんねーけど……。とりあえず学校向かわね?」


結論の出ないまま蒼汰と二人、教室に入った。


「ユイ!夢見た!?」


直後、挨拶もなしに質問された。

こう聞かれる、ということは……。


「見たけど……もしかして、にゃったんも?」

「私だけじゃないよ!みんな見てるの!」


クラスメイトの、にゃったんこと猫田はスマホを握りしめながら近づいてきた。


「みんなって?」

「だからこのクラスに、来た人みんな!」


私が蒼汰と学校に向かっている間に、クラス全員に聞き取りしてくれたらしい。


「ねぇ、まじこれなんなん」

「だから集団催眠とか言ってんの!」

「いやでもクラス規模とか無理じゃね?みんな同じテレビ見たとかなら別かもだけど」

「私昨日は配信してたー」

「俺ゲーム」


それぞれの昨日の出来事を話始めるけど、ご飯を食べるとか以外で「全員が」同じことをしたというものはなかった。


「てかもっちー遅くね?」


気づけばHRもだいぶ過ぎている。

担任のもっちーこと望月先生が未だ教室に来ない。

このまま自習かなんて思った時、先生が顔を拭きながら教室に入ってきた。


「えー……、今日は、みんなおかしな夢を見たと思う」


まさかのもっちーからの第一声がそれだった。


「とても非現実的だが、疑いようのないことが起こって今少し職員室でも騒ぎになっている。先生たちもなるべく調べてみるが、一旦このことは忘れて今日の授業を始める」


もっちーの言い方的に、先生たちもあの夢を見たということ。

……心春ちゃんのこともあるし、うちの学校だけじゃなく、この地域の人みんなが催眠とか暗示にかかってる、とか?

そんなこと思いながら受けた授業が身に入るわけなく。

よくわからないまま午後になった。

いつメンでお昼を食べてたところ、もっちーが全員教室から出るな、席つけって言って映像モニターを映し出した。


「腹減ったんすけどー」

「いいから黙って聞いてろ!」


もっちーが映し出したのは、……官房長官が記者会見する、あの見慣れた感じのする画像。

あれ?でも確かこの人、総理大臣じゃなかった?


「ーーで、あるので、我々は、国民のみならず、全世界の人間が同時に同じーー夢という形での映像を見たと判断しました」


画面の隅にはLiveと書かれている。

フェイク動画にしては手が込んでいる。

ということは本物ということ?

……は?総理大臣も今日の夢見たってこと?


「もうしばらくの検証は必要ではありますが、夢の中で語られたものが事実であるなら、我々に残された時間は後半年です」


その言葉に、今日の夢を思い返した。

あの夢ではこう言っていた。

地球はまもなく眠りにつくから、この地を離れ別の星に行くか、この星とともに生命を終えるかを選択しろ、とーー


「待って、これ現実なの?」


学校が終わり、蒼汰と帰宅している時に、ようやく声に出せた。


「それがわからないから、調査する、って言ってただろ?」

「調査ってどうやって?世界中の人間に同時に夢を見せるような存在どうやって調査するっていうの?」

「知らねえけど」


もし本当に、半年が選択を迫られるんだとしたら?

もし本当に、地球が眠りにつくんだとしたら?

リアルタイムで聞いている時はただ耳に入ってきただけだったけど。

ようやくじわじわと、焦りのようなものが心を覆ってきた。


「もし、さ」

「うん?」

「もし、本当に選ばなきゃいけなくなったら、蒼汰だったらどっちを選ぶ?」


私たちは、保育園の時から一緒だ。

気がつけば中学、高校も一緒だった。

何かあったら話していた。

何もなくても話していた。

だからなんとなく、蒼汰に聞いてしまった。


「俺だったらきっと」

「きっと?」

「一人じゃ選べねぇよ」


見上げた蒼汰は困ったような顔で笑っていた。


「多分、父さん母さんと話し合って、心春もいるし。そっから決めると思う」


あの夢がもし本当ならな、と呟くように蒼汰は言う。

そう、か……。

家族と話し合うことも大切なのか……。


「お前もおじさんは忙しくても、おばさんならすぐ話し合えるだろ?」

「それは……まぁ、そうだね」

「無理だって。別の星行くか、ここで死ぬかなんて。死にたくねぇけど、別の星ってなんだよって話しだろ? 違う国に行くのとわけが違うんだぞ?」

「そうだね……」


答えながら、ふと足が止まった。

いつも通りの住宅街。

夕方になっても散らずに残っている桜が、風に揺れている。

別の星、か。


「別の星って月とか火星とか?」

「月じゃねぇだろ。どっちかっていうと火星じゃね?」

「そもそも火星って人が生きていけるの?」

「しらねぇよ!」


そんな軽口の中でも、ゆらり、桜が舞っている。

毎年、いつものように見てきた春の景色。

……別の星にもこうやって、桜は咲くんだろうか。

桜を見て、春を感じることはできるんだろうか。


「……なんか、この景色がなくなるって、全然ピンとこないね」


ぽつりと言ったら、蒼汰も立ち止まって同じ方を見た。


「……そうだな」


答えはまだ、何もない。

でもこの景色を手放したくないと思う気持ちだけは、妙にはっきりしていた。

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