第3話 お嬢様は自由を謳歌し、私は地獄の勉強付けの日々が始まった。
《フレイル辺境伯家 本邸》
シルフィーお嬢様の一方的な命令に腹が立った私は次の日のお昼、フレイルいえが当主様の部屋にやって来ていた。
「何と? 野山を駆け回るしか頭に無い、シルフィーに勉強を促す為に、自ら率先し、フレイル家式スパルタ英才教育を受けたいと申すか? シドよっ! 私は嬉しいっ! 流石、産まれた時からあの天然野生児娘と、一生の人生を共にする為に執事に任命させただけの事はある」
《フレイル家現当主 グレイ・フレイル》
「は、はぁ、ありがとうございます。グレイ様」
えぇ。そのシルフィーお嬢様の暴走のせいでこれまでの人生で何千回死ぬ思いをした事か……いや。今はそんな事を考えている場合ではない。
このままでは、グレイ様のとんでも勘違いが発動し、その勢いのまま、魔法、剣術、勉学等の習得させられてしまう。
グレイ様はこのシルフィド帝国でも、辺境の地であるフレイル領の守備を任され、少年時代から戦地を駆けた生粋の軍人。シルフィド帝国でも、教育に対して超スパルタで有名なのだ。
娘のシルフィーお嬢様以外には……グレイ様はシルフィーお嬢様を溺愛している。
その為、お嬢様があんな野を駆け回るだけの少女と化しても、いつかは分かってくれるとだろうと言って、自由奔放に過ごさしていると。乙女ゲー〖春風の中でアナタに愛を籠めて〗の人物紹介ページには載っていた。
私はたしかにこの世界では強く生きたいと願ってはいるが。それはあくまでも、シルフィーが引き起こす破滅フラグを上手く回避し、生き長らえたいからだ。
幼少の頃の学びの最中に、フレイル家式超スパルタ訓練などすれば。その厳しさにより身体のどこかは可笑しくなるに決まっている。いや、下手したら何かしらの訓練中に、命を落とす恐れもあるかもしれない。
「うおぉぉっ!! 私は今、猛烈に感動しているぞ。シドよ。それ程に幼い身でありながら、私の娘の未来を憂いてくれるとは……良し分かった。」
「オォォッ! 我が孫がここまでフレイル家、いや、シルフィー様を思っていてくれていたとは、普段は冷たい表情しかしない孫故、愛想がないばかりと思っていたものを……良い子に育ってくれてワシは嬉しいぞ。シドよおぉ!」
現在、私の目の前で、大泣きしているのは、この世界での祖父。ジルドナ・ラインハルトだ。
グレイ様に長年使える元軍人で、若き日はグレイ様の右腕として、敵国の将を討ち取り続けたとか……現在のシルフィド帝国は、平和の為、本当かどうかは定かではないが。
「い、いえ。お爺様、私はシルフィーお嬢様の風の鎧を攻略し、シルフィーお嬢様が私の言うことを素直に聞いてくれれば、良いと思いそう発言しただけなのですが……」
「ジルドナよ。シルフィーの為に用意した教師達は、ブルムの街に居るのだな?」
「はい。グレイ旦那。剣術や武術はワシ、直々《じきじき》に伝授致します」
「おおぉっ! そうか。それてあればシドは数年も経たずに一人前の戦士に成長しそうだな。魔法はウッズ村の魔法使い《アイツ》に頼むか?」
「勉学はブルムの街の者達とルミナス学園の学者の1人を呼び寄せて学ばせれば良いな」
「シドはまだ、若いですし……覚えも早いでしょう。ここはフレイル家式ハイパースパルタ特訓で最強の戦士に仕上げるのが宜しいかと」
「い、いえ……ですから私は、シルフィーお嬢様の暴走を制御できる力があれば宜しいのですが……」
私の意見など関係なく、何かとんでもない事が次々と決まっていく。
「ヨシッ! そうと決まれば。今からだなっ!」
「はい?……あの? 何が今からなのでしょうか? グレイ様」
「うむ。現時刻をもって、フレイル家式ハイパーデラックスウルトラ何たらスパルタをシドに課す。無事に"ハノの樹海"から生き延びて帰って来る様に……レバーこれか……ヨイショと……」
ギイィ……ガコンッ!
「あの……グレイ様。"ハノの樹海"と言えば、流刑者が送られる地にしてモンスター蔓延る死地ではこざいませんかぁぁ?!!」
「…………なぁ、ジルドナよ。久しぶりに"ハノイの樹海"まで通じる落とし穴を開いたが……シドの奴大丈夫だろうか?」
「ハハハ。ワシの孫なら必ず乗り越えられますとも」
そうして、私は"ハノイの樹海"へと通じる長い長い落とし穴に落とされ……
《ハノイの樹海》
ギイィ……ゴトンッ!
「うわあぁぁ!!」
「グルルルッ!!」「ルオオオッ!!」「ウオオォオオ!!」「シャアア!!」
「痛たた……巨大モンスターがあっちこっちに……グレイ様の部屋が、こんな場所に繋がっているとは夢にも思わなかっ……」
「ゴラオァァァ!!」
「うおっ! ボマルリーガル……くっ! 〖水刃〗」
「ゴギャア?!」
「……魔法の威力が弱すぎて、目眩ましにしかならないとは。ここは逃げるが勝ちだ」
「ゴラォラァア!!」
…………6歳という幼い身で死地へと来てしまったのだった。そして、私の自身の最重要事項はこの理不尽な自然淘汰から生き延びる事だ。