第10話 仲間を探して
──捜索は、始まった。
けれど、それは決して簡単なものではなかった。
アリアナは、何人もの人に声をかけた。
店主、旅人、そして好奇心旺盛そうな若者たち。
彼女は「遊び」の一環だと説明した。
「サプライズイベントのために、仲間を集めたいんです」と。
けれど──ほとんどの人は、まともに取り合ってくれなかった。
彼女たちを変わった人扱いする者もいれば、
手錠を見て笑いながら去っていく者もいた。
スターは、ただ静かに、その様子を見つめていた。
胸の奥から、またじわじわと──
裏切られる恐怖と、拒絶される痛みが、這い戻ってくるのを感じながら。
ひとつ断られるたびに、心が沈んでいく。
「……誰も、僕と友達になりたくないんだ。」
少年は呟いた。
数人の少年たちが、くすくす笑いながら去っていった、その背を見つめながら。
「マスターの言うとおりだった……感情を持つ人間は、僕になんか興味ない。」
その瞬間、アリアナは手錠ごしに彼の手をぐっと握った。
そして彼を、真正面から見据えた。
その瞳は、まっすぐで、決して折れない強さを宿していた。
「違うよ、スター。」
彼女は力強く言った。
スターは瞬きをした。
「でも──」
「誰もが優しいわけじゃない。でも、誰もが冷たいわけでもない。」アリアナは、彼の言葉を遮った。
「君を友達だと思ってくれる人は、必ずいる。私は、そう信じてる。」
スターの唇が、かすかに動いた。
けれど、言葉にはならなかった。
拒絶の痛みは、まだ胸に残っている。
それでも、アリアナの言葉は、細くても確かな糸となって──彼を闇から引き戻していた。
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やがて、太陽はゆっくりと傾きはじめ、町には長い影が落ちる。
そのとき、スターがぽつりと呟いた。
「……アリアナ……」
「残された時間は、今夜と……明日の夜だけ。」
マスターが戻ってくる恐怖は、消えることなく胸を蝕んでいた。
首に刻まれた呪印が、思い出すたびにうずくように疼く。
アリアナは静かに頷いた。
「分かってる。」
彼女は、手錠の鎖にそっと触れた。
「でも、諦めない。」
スターの黒い瞳が、彼女を見つめる。
その瞳の奥では、恐怖と、少しずつ灯りはじめた信頼がせめぎ合っていた。
生まれて初めて──スターは、本当にひとりではなかった。
たとえ、町の人々が彼を受け入れなくても。
**アリアナは、違った。**
それだけは、マスターにも奪えない事実だった。
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やがて、沈みゆく夕陽が空をオレンジと紫に染め上げた。
仲間は、まだひとりも見つかっていない。
けれど、アリアナはスターの手錠を繋ぐ手を決して離さなかった。
そして、スターもまた──
もう、逃げ出そうとは思わなかった。
町の明かりがぽつぽつと灯りはじめる。
石畳の道を、柔らかな光が照らし出す。
日が暮れても、町は生きていた。
手を繋ぐ恋人たち、荷物を片付ける商人たち、駆け回る子どもたち──
スターは、その真ん中で立ち尽くす。
フードは深く被り、アリアナと繋がれた手錠は、変わらず冷たく手首を縛っていた。
けれど、夜は彼にとって少しだけ、馴染み深かった。
だが、今夜は違う。
彼は、一人ではなかった。
「急がないと……。」スターは小さく呟いた。
その声には、焦りと恐怖が滲んでいた。
「明日の夜までに……9人、見つけないと。」
その先を言葉にすることはなかった。
アリアナには分かっていたから。
マスターの怒り。呪印がもたらす、死。
アリアナは鎖をぐっと握りしめた。
「見つけよう、スター。」
「偽物じゃない。本当の……友達を。」
スターの漆黒の瞳が、彼女を見上げた。
──本当の、友達。
彼には、まだその意味が分からなかった。