第1話 闇と光
魔法が恐れられ、同時に崇められる世界。
そこに、黒髪と人を寄せ付けないような目を持つ一人の少年がいた。彼の名はスター。十七歳。
彼は稀少で危険な力――「闇」の力を持っていた。
生まれつき、人の心を操る黒魔術を使える彼は、幼い頃から「マスター」と呼ばれる謎の存在に隔離され育てられた。マスターはスターにこう教えた。
「他人と関わるには、操るしかない。」
孤独の中で育ったスターが本当に欲しかったものは、友達だった。
一緒に遊び、話し、側にいてくれる存在。だが、普通に接しようとすれば、その不器用さと異質な雰囲気が人々を遠ざけた。
不自然な彼の気配は、人々に「気味悪い存在」として恐れられた。
結局、彼は自分の知る唯一の手段に頼ることにした。――黒魔術。
操りの呪文を使い、人々を無理やり従わせ、偽りの友情を作り出した。
その力があれば、誰も逆らわない。けれど心の奥底では、虚しさが消えることはなかった。
「友達」と呼ぶその存在たちは、ただ笑顔を貼り付け、空虚に笑うだけだった。
それでも、マスターの命令のまま、スターは次々と人々を操り、その「仲間」の輪を広げていった。
人混みを歩けば、足元には割れたガラスのような痛みが伴う。
鋭い視線、囁かれる噂。恐れと嫌悪に満ちた目が突き刺さる。
だからスターは、夜の路地裏を選んだ。人目を避け、影に溶け、次の標的を待った。
一人歩く者を見つければ、闇の魔術で意志を縛り、新たな「友達」とした。
マスターはそれを見て満足そうに笑う。
「もっと多くの魂を集めるんだ。」
スターは疑うことなく従った。それが他者と繋がる唯一の方法だと信じていたから。
だが、心の奥で問いは膨らみ続けた。
**なぜ、こんなにも虚しいのだろう。**
十七歳になっても、その生活は変わらない。
探し、操り、縛る。
新たな「友達」が増えれば、その度に与えられる食事。それだけが彼の生きる報酬だった。
「十人になれば、余った者は私が『解放』してやる。」
マスターはそう言った。
「彼らは役目を終えた。だから私は、自由を与えているのだ。」
スターは何も疑わなかった。ただ、無表情で頷くだけ。
どこへ行くのか、なぜ戻らないのか、問いかけたことは一度もない。
彼にとって、それは友達ではなかった。
ただの影、使い捨ての存在。
この世界で唯一彼を理解してくれる存在は――マスターだけだった。
規則は変わらない。
「昼間は絶対に外へ出るな。」
「陽の下には怪物がいる。」
「奴らはお前を見つけ、狩り、連れ去るだろう。」
だからスターは夜しか動かない。
闇に紛れ、人目を避け、次なる「友達」を探す。生き延びるために。
マスターははっきりと告げていた。
「新しい友達を連れてこなければ、食事は与えない。」
黒魔術で縛られた「友達」たちは、まるで命を失った人形のように家の中に立ち尽くす。
スターは彼らに語りかけた。
自分の人生、マスターに教えられたこと、日々の出来事を。
誰も返事はしない。
笑わず、泣かず、ただ従うだけ。
だがスターにとって、それが「普通」であり、「生活」だった。
十人集まる度に、マスターは余分な者たちを連れて行く。
「彼らは解放された。」とマスターは言う。
スターは問いかけない。問いは罰を生む。沈黙こそが安寧だった。
――その頃、別の都市では。
賑やかな街の中で、全く異なる人生があった。
白髪を揺らし、無邪気に笑いながら友人たちと歩く少女。名はアリアナ。十五歳。
彼女は太陽のように明るく、笑顔と温もりに満ちていた。
スターが決して知り得なかった、光の中の存在。
今日は特別な外出。
胸を弾ませ、夢と好奇心を抱いて、友達よりも先に駆け出す。
頭上には眩い太陽。
だが――運命はすでに糸を引いていた。
闇に囚われた少年と、光に包まれた少女。
交わるはずのなかった二つの人生が、いま交錯しようとしている。