第3話 演習終了2
端末をスクロールしていくと、様々な人物のプロフィールを見ることが可能で、ある程度のプライバシーは守りつつ必要事項は全員が閲覧可能。名前や階級、人種、所属部隊、各取得称号など様々。
「……あ、マジで見れるわ。プロフィール」
カズマがディスプレイを数回スワイプすると、空中に浮かび上がった情報画面に、一つの名前が表示される。
【Kamis Lulana/カミス・ルラーナ】
「うわ、ほんとに35歳って書いてあるぞ……ウソだろ……」
エリオットが画面を覗き込み、目を細めた。
「え?本当に?どう見ても中学生……いや、小学生でも通るレベルって言うのは……単なる差別か」エリオットは他種族に対する偏見にいけないなって笑う。
「てか、35歳で最高司令官って早すぎね? 幹部候補で上がっても普通、45くらいが限界って言われてんのに……」カズマはエリオットの言葉は大して気にしてない様子で続けた。
「看板、か……中身は誰か別にいて、あれはただの象徴……?」
一瞬、疑念が2人の間を走ったが、カズマが指を動かしてさらに下へスクロールした。
「……ん? ちょ、と……見てこれ。入隊年齢、15歳って書いてある……」
「は……?」
エリオットが思わず声を漏らした。画面に表示された記録は確かにそうなっている。
【入隊年:N945年(当時15歳)/入隊形態:首席卒業生】
「ちょっと待てよ。今が35歳なら……もう20年も本部にいる計算になるじゃん」カズマは指折り数えて上を向いた。
「でもおかしい。入隊が15だとしても、35で総司令官は……早すぎる。てか、経歴が……あ、続きある」
スクロールを続けたエリオットの顔色が変わる。
「配属部隊:第4部隊……兵士長……え、初期配属で兵士長ってどういうことだ……総司令官って別に一般訓練校出だったよね……えーと、で、3年間そのまま在籍……!?」
その先の行には、ある異質な部隊名が記されていた。
【N948年4月2日:異動先:第13部隊(政府軍特殊前衛部隊)】
「……あ」
カズマとエリオットは無言で顔を見合わせた。
「……13部隊って……あの?」エリオットは読み上げた声を詰まらせる。
「裏方の“あれ”だよ。内部でも知らないフリしてるやつが多い。任務内容非公開、異動情報は秘匿扱い。入るのは簡単だけど……出る時は死ぬか、隊長クラスになって出世するしかない」
カズマはエリオットの傍によって小声で話す。エリオットも声を落とす。更衣室の空気が急に冷えたような錯覚すらした。
「出世街道の最短ルート……でも、確率としてはかなり低い……遺体が帰って来ればマシって言われすらするけど……しかも7年間」
「……じゃあそこに入隊してから生還して、てっぺん取ってることになってるってことは……」
2人は目を合わす。
「“生き残った”どころじゃねぇってことだな。あのチビ……どんだけ殺し合ってきたんだよ」
ふざけた調子はどこかへ消えていた。2人は空中に浮かぶ淡い光のプロファイル画面を見つめながら、それまで抱いていた「小柄な司令官」への印象が、音もなく崩れていくのを感じていた。
「……よく言うよ、白い服に勲章ジャラジャラなんてさ。あれは“生き残った証”ってだけだったんだな」カズマはため息を吐いた。
「死体の上に立ってるってことか……看板……酷い思い違ったよ」
空気が重くなったまま、2人は無言でそっとロッカーを閉じた。