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創造戦争  作者: 青かった金魚
第1章 政府軍本部
4/11

第2話 演習終了

演習終了後30分

 すでに全隊が司令本部前の演説広場に整列を終えていた。乾いた風が静かに吹き、兵士たちの影を僅かに揺らす。


「演習、終了を確認。全体、整列良し」

 報告の声が響き渡り、周囲は静寂に包まれた。


 広場の奥、白と金を基調とした祭壇のような演壇に、政府軍の上層部たちがずらりと並ぶ。制服の色も階級章もさまざまだが、皆、政府軍の中枢を担う重鎮たちだ。

 それぞれが形式通りの挨拶を終えていく。内容はどれも代わり映えのしないものだった。

「演習ご苦労だった」「今後の成長に期待している」「気を引き締めて任務にあたれ」

 誰もが無難な言葉を並べ、淡々とその場をこなしていく。


 やがて、その中から一人の男が前に出る。


 白い軍服、肩章に並ぶ四つの星。正装の左胸に羅列する数々の勲章。

 身長150cm程度、華奢な体つき。


 総司令官・カミス・ルラーナ。


 堂々と前に立ったその姿は、他の高官と比べても明らかに異質だった。

 その場に居る全員がその違和感を理解していたが、誰も口に出すことはできない。


 カミスは一歩前に出て、足を止める。

 そして、静かに口を開いた。


「我々が守るものはこの天空都市の市民、地上に住まう民間人。相手を討伐することが目的ではない。敵味方双方、最小限の犠牲の元、任務を遂行する。そして――自分の身は自分で守れ。できないなら辞めてくれて結構。使えないやつは容赦なく首だ、訓練校と同じと思うな、死人を増やすために来たなら迷惑だーー以上」


 ――ざわり、と空気が震えるような緊張が走る。


 その語気は決して大声ではなかった。だが鋭く、冷たく、淡々とした言葉が兵士たちの胸を貫く。


 何人かの新人隊員は、その言葉の意味を測りかねるように一瞬まばたきをした。

 だが口を開く者はいない。整列中は私語厳禁。どんな疑問も、反論も、胸に押し込むしかない。


(チビのくせに……何様だよ)

(見た目ガキのくせにえらそうに……)

(でしゃばってんな、あれが総司令?)

(あいつが俺たちのトップだって? 冗談だろ)


 だが誰もが口には出せない。

 冷静に、理路整然と放たれたあの一言の重さが、無言の圧力として広場全体を支配していた。

 やがてカミスは演壇から降りる。

 その姿を追うように、上層部は敬礼をしたのち静かに総司令に続く。演説は終了となった。


 その後、解散命令が下され、隊員たちは再び指示された部隊ごとに分かれて移動を開始する。

 その場には、言いようのない緊張と、妙なざわめきが残ったままだった。



__PM6時:更衣室



 演説広場での整列を終えた新人たちは、規定に従って各自のロッカーへ向かった。

 政府軍本部・東棟2階、人間専用区画、兵士クラス専用更衣室。無機質な白光灯が天井から光を落とす中、カズマとエリオットは正装を脱ぎ、施設内用のラフな制服に袖を通していた。


 軍服のボタンを乱暴に外しながら、カズマがぽつりと口を開く。


「……なあ、あんな演習ほんとに必要か? 型にハマりすぎてて意味ねーだろ、あれじゃ」


「型にハマってるのは“上の”都合でしょ。たぶん……軍のメンツとか」


 エリオットは冷静に返すが、着替えの手はどこか緩慢だった。


 着替え終えたカズマはロッカーの上段に置かれた黒い樹脂製の保護ケースを開いた。中には細い金属の黒い輪――新型の個人端末が入っている。

 エリオットもそれに目を留めた。「それ、今日から配られてる個人端末?」

「らしいな、ほら、手首にこう……」

 カズマがそれを左手首に巻くと、ピッという音と共にバンドが自動で収縮し、腕にぴったりとフィットした。


「おお……すげぇ。自動調整ってやつか」カズマは手首を返したり動かしたりして、機器を確認する。エリオットは中に入っている説明書を取り出した。

「人種問わず装着可能だってさ。巨人でも、爬虫人でも、何本腕があっても対応する仕様らしい。現在地や体温や脈拍とかも勝手に同期される」


 その言葉通り、バンドからはうっすらと空中にホログラフィックのインターフェースが浮かび上がっていた。物理的なディスプレイは存在しないが、指を滑らせるように動かすことで、個人ID、任務コード、ドアの鍵、体調データなどが確認できる。


「これ一つで無線もできるって言ってたな。中隊内、班内、それに本部とも直接繋がる……と言っても僕らの権限は中隊内までだけど」エリオットはディスプレイを器用に操作していく。

「全部これに集約かよ。落としたらヤバくね?」


「強度は最高レベルらしいよ。戦場で爆発に巻き込まれても壊れないとか。……まあ、失くすとしたら腕がもげた時かな、壊れるより先に人間の方が死ぬだろうけど」

 エリオットの言葉に、カズマは苦笑いを浮かべた。

「爆死してこれだけ残ってるとか考えたら……ちょっと間抜けだな」


 しばし沈黙が落ちたあと、カズマがポツリと呟いた。


「つーかさ、あのチビ……いや、あの“総司令様”。口がでかいっつーか、よくあそこまで言えるよな。図体はちいせぇくせに……マジで。こっちは汗と泥で死にかけてんのに、あっちは白い軍服に勲章ジャラジャラだぜ。あんなのに何が分かるんだか」


「……まあ、でも、言ってたこと自体は正しいっちゃ正しい。“自分の身は自分で守れ”死体を増やすために軍があるんじゃないって……正論」


 エリオットは自分の腕についたバンドをじっと見つめた。淡く光るホログラムが、まるでその言葉をなぞるかのように静かに明滅していた。


「使えないやつは容赦なく首……か。怖い上司だね、ほんと」


「こっちは首飛ばされる前に、何とか結果出さねーとな……あ、そういえばこれで総司令様のプロフィールも確認できるぜ」

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