第9話 休日
政府軍の休みは他の企業同様、上官や任務中でなければ班ごとに定休である。これは戦況が落ち着いている時に限るが、カミスが総司令官についてから変更されたものだ。
多くの者は自室に篭って休み、必要があれば出かけるために申請書を出す。どこへ行くのか、どの期間滞在するのか、目的はと必要事項がつらつら羅列している。
「2人がいないと静かだね」
4人部屋の背の低いテーブルに肘をついたエリオットが、静かな部屋を見渡す。
カズマとハビエルは外出届を出して不在。カズマは実家にハビエルは街へ買い物に行っている筈だ。
エリオットが声をかけた東山はエリオット同様自室にいる。
「そうだな、お前はどこか行かないのか?」
東山は声が聞こえた方へベッドから身を乗り出す。彼はベッドで読書をしていた。
「特にないよ、買い物も今週は用がないし家に帰るなんて、もっぱらゴメンだよ」
エリオットは肩をすくめてハハッと笑って見せる。東山はこれ以上聞くとことはないとベッドに引っ込んでいった。
静かになった部屋に、再び沈黙が戻る。ページを捲る音とエリオットのタブレットを触る音だけが部屋に響く。
「ねぇ、昨日の話……なんだけどさ」
不意に投げられた問いに、東山はわずかにページを止めた。
「昨日?」
「あれ、カミス総司令の話。レイ班長、冗談っぽく話してたけど……本当に同じ部隊にいたのかな」
「嘘を言って得するような人じゃない。言ってた通りだろって言うか、書いてあるし」
なんだかにわかに信じがたいと言う顔のエリオット、東山がため息まじりに話す。過去の所属履歴を見れば明らかな情報、だけどあの剽軽なような緊張感があまりなく、まだしっかり戦闘時を見てないから分からないがそんなに強くなさそうな雰囲気。確かにレイは現場指示役とも言ってたので実際に前戦に立っているわけではないだろうが、そこまで頭が回る感じもしない。
「まあ、昔と今じゃ色々違うからあの人にも色々あったんだろ」
東山はあまり興味がないのかまたベッドへ引っ込んでいった。
「うん、そうだね」
ーー
「ただいまー」
軽快な声と共に自宅のドアを盛大に開けたのはカズマだった。天空都市エデン・リム区クロノス街のラフォール地区の一画にあるカズマの実家、閑静な住宅街。
ここは元より天空都市に住まう人々が住まう住宅街で一軒一軒の敷居が大きく広い家が多い。どこの家も幸せそうな裕福な環境で、綺麗に手入れされた庭や豪勢な住宅が肩を並べている。
「おかえり、カズマ」
帰ってきた存在に気付いたのはカズマの母親、笑顔で息子の帰りを迎える。その声で振り向く父と妹弟。弟は嬉しそうに走り寄りカズマの帰宅に喜んでおり、父も同様表情は明るい。妹は一度振り返ったも興味はないと言った兼ね合いでそっぽを向かれる。
「よお、寂しかったか?」
「兄ちゃんおかえり!なあ、色々軍でのこと教えてくれよ」
カズマは荷物を下ろすと父や弟が座ってるソファーに腰を掛ける。母はキッチンで昼食の準備、妹は離れたテーブルでタブレット端末を触っている。あれこれ聞いてくる弟と心配しつつも応援してくれている父、カズマは「大事なことは教えれないけど」と言いながらもあれこれ答えていく。
この休日がずっと続いたらいいのにな、とカズマは思っていた。
明日からは変わらず演習が始まって忙しくなる。いつ帰れるかはある程度が決まってる、だがイレギュラーがあるのがこの世界。もしかしたら緊急招集があるかもしれない、長期演習で帰って来れないかもしれない、最悪演習中とは言わず命をかける戦場で自分が死ぬことだってある。軍に入ったことを時々後悔することがある。だが、こうして誰かが戦わなければ守れないのも事実。
カズマは家族に別れを告げると宿舎に戻って行った。




